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「人を呼ばずに商店街のよさを伝える」シャイな店主らの個性引き出すポスター【ブックマーク】

水のきれいな川と空気のおいしい山を有する、埼玉県飯能市。自然豊かな環境が暮らしのそばにありつつも、池袋まで電車で最短40分、始発電車に乗れば座ったまま都内へ。利便性のいい街として、近年移住者は増えている。

駅前にはレトロな雰囲気の8つの商店街がいまも健在。そのなかのひとつ、「飯能銀座商店街」で空き店舗をリノベーションし、都内にあった仕事場を飯能に移したWEB・広告制作会社代表の徳永一貴さん。その仕事場はシェアスペース「Bookmark」として、“まちの玄関、商店街の小上がり”をキーワードに、多用途に使える場となっている。

コロナ禍において人を集めずに商店街を盛り上げるべく、店主のチャーミングさが炸裂するポスター展を発案。また、リノベーションに関するコミュニティをつくるなどして、空き物件の貸し手と借り手のハブになっている徳永さん。「飯能をもっとおもしろくする」ための試みは、どのようにして思いついたのか。まちの商店街を拠点に活動する想い、地域のためにおこなっている取り組みについて話を伺った。

「ようやく商店街に“仲間入り”できた気がした」コロナ禍でのユニークな取り組み

飯能駅北口を出て歩くこと3分。「飯能銀座商店街」の一角に、周囲のレトロな外観とは異なる雰囲気の店がある。

2017年、空き店舗を再生して誕生した「Bookmark」。以前は古本屋だったが、閉店後は長い間使われていなかった。「人が集まる場所にしてほしい」というオーナーの意向を受け、集まったメンバーでシェアスペースとして運営をはじめた。そのメンバーのひとりが徳永一貴さんだ。

「コロナ禍になって、Bookmarkの使い方に少し変化がありました。家だと仕事が集中できないということで、ドロップイン(時間単位で利用するプラン)で利用する方が一時的に増えて。学校が一斉休校になったときや登園自粛のときは、子供たちの自習スペースとして開放したり、『子ども弁当』の受け渡し場所にしたり」

新しい生活様式が求められるこの時代において、言葉通り”みんなのシェアスペース”として存在意義を実感できたのは嬉しいことだったと、徳永さんは振り返る。

世情に合わせて柔軟にシェアスペースを活用するなか、徳永さんは商店街の一大プロジェクトを担うことになる。

2021年2月、隣接する3つの商店街に呼びかけおこなった「飯能がんばる商店街ポスター展」。シャッター街の印象が強くなりつつある商店街の“住人”をユーモアたっぷりに表現した50枚のポスターは大きな話題を呼び、テレビやメディアで紹介された。そのプロジェクトの発案者が徳永さんだった。

「人を呼ばずに商店街のよさを伝えるにはどうしたらいいか、と飯能市商店街連盟のみなさんが悩んでいたときにご相談をいただき、提案させてもらったんです」

このポスター展は、市内在住もしくは在勤のデザイナーとカメラマンが2人1組で計5チームをつくり、参加表明した商店街の50店舗を撮影、取材してポスターにするという企画。ご覧の通り、インパクトのあるキャッチコピーとユニークなデザインでシャイな店主たちの個性を見事に引き出した。

常連客になって親しくなるなど、よほどのことがなければ、なかなか知る機会のない店主たちの”素顔”。それをキャッチーなポスターにして発信することで、人を集めずに商店街のアピールへとつなげたのだ。

「Bookmarkができて5年経ちますが、これまで商店街に貢献できたかというと、そうではなくて…。商店街では一番後輩。『あいつらがきてよかったな』って先輩たちに思ってもらいたい気持ちがありました。ポスター展はテレビやメディアの露出が結構あったので、多少は賑やかしになったのかな、と。ようやく商店街の一員になれた気がしました」

大成功のウラには、「遊び心」と「商店街への愛」

見事大成功をおさめた「飯能がんばる商店街ポスター展」。このプロジェクトのもとになったのは、じつは徳永さんの遊び心から。

「コロナ禍になってテイクアウトが増えたじゃないですか。でも、飯能銀座商店街にあるお米屋さんは90年以上前からお米の配達をしているし、お蕎麦屋さんだってとうの昔からデリバリーをやっていたわけです。世の中が沈んでいた時期でもあったので、『銀座商店街は元気にやっているよ!』という発信を外にしようと思い付いて、デザイナーと一緒に2枚の画像を作りました。といっても、半ば勝手に作った感じですね。怒られなさそうなお蕎麦屋さんとお米屋さんに協力をしてもらって(笑)」

これをSNSで発信したところ反響があり、「他のお店も見てみたいです」という声が届いた。その翌年、商店街で開催するイベントの相談を受け、このときの事例を拡大して前述のポスター展が誕生したというわけ。徳永さんの遊び心が、商店街の話題づくりに一役買ったのだ。

そして2022年4月には、ポスター展の発端となった米屋「米由商店」の創業100周年を祝う記念広告をこれまた勝手に制作。

店側からの受注制作ではないため、撮影後は納品までチェックなし。話だけ耳にすると半ば強引さを感じるかもしれないが、それだけ普段からコミュニケーションがあり、信頼関係が築けているという証である。徳永さんは「怒られるまでやります」と笑うが、彼のフレンドリーな人柄と商店街への愛があるからこそなせる所業なのだろう。

空き物件を貸したい人と、借りたい人のハブに

Bookmarkの運営と広告制作の仕事をするかたわら、商店街にある空き物件の再生も活動の一環にしている。そこで痛感しているのが、“空き物件”と“後継者”問題。

「ここの商店街には空き店舗が多いので、できれば若い人に貸してほしいという想いがあるんですけど、1階が店舗で2階が住居になっている物件はなかなか難しい部分があって。よく知っている人ならまだしも、全然知らない若い人にオーナーさんが貸すかというと、ハードルが高いんです。でもお店が開かないと商店街は寂しくなるばかり」

さらに現役のお店であっても店主が高齢化しており、後継者がいない問題も。「何かアクションを起こさないと、この先シャッター街になってしまう」と危機を感じ、徳永さん含め飯能の空き物件を活用して街を盛り上げたいと考えるメンバーで、貸したい人と借りたい人の橋渡しになる取り組みをおこなっている。

「Bookmarkの認知度が上がってきたこともあり、飯能に住みたい人が不動産屋にも行くけどこっちにも来るという感じです。公にしているわけではないんですが、空き物件の大家さんを紹介できることもあるので、実際に何組かアテンドして移住となりました。同じ商店街にある『マルトクカフェ』は、僕たちが開催した空き家ツアーがきっかけでオープンしています」

また、徳永さんは西武鉄道とタッグを組んで始めたローカルメディア「はんのーと」の副編集長という顔ももち、飯能が気になる人に向けた情報発信にも注力。さまざまな角度から飯能のまちづくりに対する取り組みをし、コミュニティをつくっているわけだが、根底にあるのは「商店街をもっとおもしろくしたい、もっとお店を増やしたい」という想い。

「この夏、はんのーと主催でリノベーションに関するイベントをやりました。それを通じて、市外、県外の方も集めて興味ある人を発掘していきたいと思っています。マルトクカフェがそんな感じではじまったように、もっと空き家を動かし、活性化させたい。僕らだけだと人のリソースに限りがあるので、おもしろがってくれる人ややりたい人と取り組んでいけたら」

自分がおもしろいと思ったことをアウトプットしていく

飯能に移り住んで21年。仕事場も飯能に移してからのここ5年は、公私ともに飯能と密接に関わりながら過ごしている。

「隣の市の方からは『飯能元気ですね』と言われるんですが、実感はあまりありません。でもここ4〜5年、移住してきている若い人やご家族は増えてきている気がしていて、活気は少しづつ出てきているように思います」

飯能市の公式ホームページによると、2021年より都市部からの就業や起業に伴う移住支援をスタート。今年度は4月の受付開始からひと月足らずで移住支援金が限度額に到達し、現在は受付がストップしている現状がある。

「このような世の中になって改めて自分の人生を考えたときに、飯能は選択肢としていい場所じゃないかな、と。都心まで1時間かからないし、子どもが遊べる川もある。関東平野の端っこなので山も近い。そして何より、住んでいる人たちの人柄のよさが飯能の一番の魅力ですね」

商店街に店を構え、ただ好き勝手に商いをやるのではなく、「商店街のためになることを何かしたい」という思いを強く持っている徳永さん。ポスター展や、空き物件を動かす取り組みを通して商店街に新しい風を吹き込んだことは間違いないが、地域貢献できていることを実感するかと尋ねると、素直な答えが返ってきた。

「貢献できているかは正直分からないですね。割と自分がおもしろがってやっている部分があるので。でもその結果ポスター展はテレビで取り上げていただけたので、メディア露出という面では貢献できたかもしれないんですけど。商店街に貢献しようという気持ちはありますが、やろうと思った最初の動機は自分がおもしろいと思ったからやるっていうのが強いかもしれません」

店前のベンチには「ご自由にお楽しみください」のシャボン玉。店内には昔懐かしの駄菓子。店主の「やりたい」が、Bookmarkにはつねにアウトプットされている。

“まちの玄関、商店街の小上がり”は、これからも多角的な視点で人と人を結び、人生の1ページを共有する場になっていく。

Bookmark

Photo:茂田羽生

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