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標高1000m以上の根曲り竹使用「作り手によって違う戸隠竹細工」【戸隠竹細工センター】

古くから山岳信仰の地として栄え、現在も戸隠神社に戸隠蕎麦、宿坊など、観光地としても高い人気を誇る戸隠。戸隠蕎麦が盛られる蕎麦ザルや、最近では竹のコーヒードリッパーが注目されている「戸隠竹細工」は、地域の伝統工芸品として大切に守られている。

戸隠竹細工の特徴は、標高1000m以上の山の中に自生する「根曲り竹(チシマザサ)」を原料に、材料の採取・加工から仕上げまで、一貫してひとりの職人による手仕事だということ。竹細工職人として、美しいカゴやザルを編む戸隠竹細工センターの小林良一さんに実際にカゴを編んでいただきながら、お話を伺った。

昔は生活の糧として誰でも手がけていた冬の手仕事

「子供の頃、父が編んでいるのをいつも見ていたんですよ。高校生の頃はカゴを編んで小遣い稼ぎしたりね。4年前まで会社勤めしていたから長らく編んでいなかったけれど、人手不足だということで竹細工職人となって。手は覚えていました。私から上の世代は大体みんなできますよ」

戸隠竹細工は、江戸時代から、雪に閉ざされる冬の手仕事として、代々その技術が継承されてきた。農民具や蚕用のカゴなど、生活に根付いた道具がルーツのため、美しさだけでなく丈夫で使い勝手がいいことが特徴的だ。

竹細工の原料調達のために守られている山

山から採ってきた竹を縦に四つ割りにし、使う皮をナタで引いて分け、同じ硬さの皮を編んでいく。シンプルだがどの工程にも熟練の技が求められる。

「竹割りは難しいですね。ナタを研ぎ過ぎても危ない。一番大切なのは、山に入った時に、どんな製品を作りたいか、イメージして竹を採取することなんです」

現在、戸隠には30余名ほどの職人がその技術を継承しており、「作る人=採る人」というのが戸隠竹細工の掟。製作の工程以上に、山に入って原料を集めるセクションが物を言う。

「竹細工用の根曲り竹を採取できる森は決められていて、戸隠竹細工の生産組合員でないと山には入れないんです。6月頃、食用の根曲がり竹を求めて山に入る人もいますが、戸隠では竹細工用が優先なので、採られてしまわないように、この時期は『筍番』という見張り番まで出るんですよ」

ここでは、林野庁と戸隠中社竹細工生産組合との間で、戸隠竹細工の資材保護のために、タケノコ採取による乱獲を防ぎながら森を保護する協定が結ばれているのだ。竹細工の材料の採取も、秋の解禁日が定められており、必要な量だけ伐採するよう、職人同士の約束事として守られている。

「秋になると竹が水分を吸わなくなって、加工しやすくなるんです。根曲り竹が自生している場所は、山の上の方の道もないような急斜面だったり、熊が出るような深い森だったりします。背負子に収穫した2m前後の竹を150本くらい背負って歩くから、なかなかハードです」

組合員は、製品作りだけでなく、春の「筍番」から、秋には竹採をするための「道刈り」、山道への車の道路を整備する「道こせ」など、多くの山仕事も担う。

現在の組合員の中で、一番の長老は88歳だというから驚く。若かろうが歳を重ねていようが、自分の作るものは自分で材料調達が鉄則。山の中で材料を選ぶところから、モノづくりは始まっているのだ。

全く同じものはひとつとしてない手作りならではの味わい

小林さんが手がける「碗籠」は、あっという間に形取られていく。編む工程だけだと3時間くらいで完成するそう。しかし、この材料を調達するまでの時間と労力を考えると、大量生産では絶対に成し得ない、自然と人間、地域のエネルギーが宿る逸品なのだと感慨深くなる。

「おかげさまで、ふるさと納税の返礼品としてたくさんのオーダーをいただき、製作が追いつかないくらいです。すべて手作業なので、底が若干曲がっていたり、巻きが甘かったり、作り手によって違うこともあります。お店ではそこも味だと好みで選んでいただけますが、オンラインの注文ではそうもいかないので、細かいところまで確認しながらできるだけ均一になるように作り込んでいます」

「碗籠」は、名前の通り家族のお茶碗を入れるように作られたもの。竹には殺菌作用があり、通気性もいいので、果物やお菓子、日用品などさまざまな用途に活用できる。使っていくうちに竹の色が変化していくのも、自然素材ならではの楽しみだ。

伝統工芸の継承を目指して

百姓の道具から、現在は伝統工芸品として人気を集める戸隠竹細工。親から子へ代々受け継がれてきた技術も、時代の変遷とともに、後継者不足という課題を抱えている。

「やりたいという組合員がいれば無料で講習会を行うこともあります。最近、若い世代も何名か組合員に入ってくれました。ただ、教える人も少ないという課題もあり、なかなか増えません。今後は、戸隠の蕎麦屋の若い衆に教えて、自分の店の蕎麦ザルは自分で編めるようになったらいいなと思っています」

冬、竹細工職人たちは「山の神祭り」を行うという。根曲り竹を採りに山へ入らせてもらうことに感謝し、山で事故がないことを願い、竹で作った弓を山に向けて放つという伝統行事だ。

古くから山を神聖な場として崇め、山の恵みとともに生きてきた戸隠の人々。戸隠竹細工は、地域の人々の歴史と生活を伝える戸隠の貴重な宝。作り手の温もりを感じ、暮らしに取り入れることで、伝統工芸の継承へと繋がってゆくだろう。

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