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「何年たってもいなくならない」離島の課題を“離島ならでは”で解決へ【リトコス】

佐賀県唐津市の沖合には、8つの島がある。各島々で耕作放棄地を開墾し、コスメの原材料を栽培する活動などを行うNPO法人「Retocos(リトコス)」の代表・三田かおりさんは、人口減少や空き家問題、漁業衰退、イノシシなどによる獣害被害など、島の課題を解決するべく奔走する。離島留学の受け入れサポートまで、精力的な取り組みを続ける三田さんに話を伺った。

佐賀県・唐津の離島がオーガニックな島に⁉

佐賀県の北部、玄界灘に面した唐津市には、高島、神集島、加部島、小川島、加唐島、松島、馬渡島、向島という8つの島がある。その一つである高島では、耕作放棄地を使ってローゼルやキヌア、ホーリーバジルなど、ちょっと聞きなれない植物が育てられている。

乾燥させたローゼル

その栽培を担うのは島の高齢者たちだ。が、これらは一体、なんのために育てられているのだろう。

「島の畑全体で、農薬や化学肥料などの化学物質を使っていないことの証である有機JASの認証を取得しています」と話してくれたのは、NPO法人「Retocos」代表の三田かおりさん。コスメを軸に、地域の課題を解決するべく活動を続ける人物である。そう、島で栽培している植物は、収穫後コスメの原料となるのだ。

三田さんが手掛ける取り組みで特徴的なのは、素材の価値を高める工夫。たとえば加唐島では自生している藪椿の実から採取するオイルの質の向上を目指し、島の北側にある約20ヘクタールの椿園では、高島同様に有機JASの認証を取得。抽出・濾過も、熱を一切加えないコールドプレス製法で行うようにして、オーガニックな椿オイルとしての価値を高める。

「椿オイルの日本の生産量のおよそ9割が、東京都と長崎県の島だけで、生産されています。産地化・産業化をするためには、量を多くするのが一般的とされていますが、がんばっても届かない。だったら、どこにも負けない品質の椿オイルを作ろうって」

同時に、椿の実を集める作業にも注目した。それまでも島の人たちは実を集めて売ることをしていたが、労力の割には“ボランティアに近いような”値段だった。それを三田さんは、倍額で買い取るようにした。価値を高めて島の経済を回す。三田さんの取り組みの真骨頂だ。

三田さんが「Retocos」をつくった理由

島で集めた柑橘やハーブを使ったエッセンシャルオイル

三田さんは「Retocos」を2020年8月に設立した。まずは三田さんが会社設立に至った、きっかけから。

外資系のコスメティックブランドに就職した三田さん。一時、化粧品業界を離れたが、2017年に佐賀県唐津市にある一般社団法人「ジャパン・コスメティックセンター(以下JCC)」に入社することになる。

唐津市は、フランスにある化粧品産業の集積地「コスメティックバレー」を目指し、「唐津コスメティック構想」を掲げ、地元の化粧品関連メーカーや大学、地方公共団体などと産官学の連携を図っていた。「JCC」は、その中核。三田さんはコーディネーターとして入社し、島との関わりが始まる。

「椿を核とした産地化・産業化の実現」が、当時の三田さんのミッションであった。前述の加唐島での取り組みは、これがきっかけだ。冒頭の高島でも、加唐島同様に椿の実の買い取りを行った。売り上げの一部を区費に回す取り組みも、地域と一緒に始めたりもした。

島と関わりはじめた三田さんには、当時島民から言われた一言が今も忘れられない。「JCC」のスタッフとして挨拶に出向いた際に、島民から発せられた何気ない言葉—

「でも、何年かしたらいなくなるんだよね」

これが三田さんの人生を変えることになる。地方創生に関連する事業によって、地域にはさまざまな事業者が入り、その地域の人を巻き込みながら、プロジェクトを進めていく。だが、外から入ってくる事業は、予算の都合によって単年度だったり、数年だったりで終わってしまう。他方、地域の人たちは、いつ終わるかもしれない、事業に関わるお願いごとに対し、毎回真摯に対応する。

「おそらく、島の人たちは半分諦めながらも、ずっと付き合ってこられたのかなと思っています。でも、もっとフェアに、島の人たちと長く付き合ってくれる、協働できる組織の必要性をずっと感じていたんです」

公的な事業費に頼らず、一度始めた事業は継続させる。すべては持続可能な島のため。その想いから三田さん自らが代表となって立ち上げたのが「Retocos」だ。理事には各島の区長が名を連ねた。三田さんの意志と、同時に島からの期待の大きさも窺える。「Retocos」が行う、原料生産に関わる島の関係者は取り組みを始めてから3年ほどで100名を超えた。

「離島が抱える課題を、島ならではやり方で解決していきたい」

日本の地域、特に離島では、少子高齢化を筆頭に、学校や仕事がないことによる人口減など、さまざまな課題がある。耕作放棄地をイノシシが荒らしたり、温暖化の影響で漁獲量が減ったりと、暮らしに関わる悩みも尽きない。

「離島が抱える課題を、その島ならではやり方で解決していきたいと思う気持ちが強いですね」

そう語る三田さんの「Retocos」では、島々の課題解決をビジネスの仕組みの中に組み込んでいくが特徴だ。たとえば加部島では、それまで捨てられていた甘夏の皮を化粧品の原料として活用したり、さらにはその加工段階では障害者福祉施設とも協業したりも。

さまざまなエッセンシャルオイル

また、松島では漁船のスクリューに巻きついて漁師を悩ませていたアカモクなど、玄界灘の栄養豊富な海藻を化粧品に活用する道も模索した。

島で採れた素材をコスメの原料として加工するまでが「Retocos」の業務であったが、三田さんは2021年に株式会社Retocosも設立。原料のその後の工程、つまり加工や販売、大手メーカーへの供給などを担う、地域商社の代表取締役としても奔走し始めた。

「どこにも負けないオーガニックな島の原料の価値を世界に発信していきたいです」

島の自然と豊かに暮らす、持続可能な社会を目指して

取り組みはさらに加速する。

2022年12月、「Retocos」では高島に活動拠点を誕生させた。「高島BASE」という名称で、島の古民家を地域の大学とともに再生した。化粧品づくりや農業体験などを盛り込んだ“エシカル・ツーリズム”の提供を通じ、島民と観光客が交わり、「関係人口」を増やす役割を担うという。離島留学のサポートも行い、島の寮の運営なども手がけ始めた。

「栽培から収穫の体験、ファームシェア、野草料理や野草茶などの提供などを担う体験施設がオープしました。今はモニターツアーや視察が中心ですが、コスメ作りの体験などもここで。島に来てもらい、島でしかできないことを感じてもらいたいですね」

「Retocos」の取り組みは、国連が掲げる持続可能な社会を目指す指標であるSDGsの理念に合致すると多方面から注目されている。三田さん自身も、女性起業家のアワードを多数受賞した。

そんな三田さんが今、力を入れているものの一つに、同じく佐賀県・嬉野茶の在来種をベースに、島の野草やハーブをブレンドした茶づくりがある。「これまでは、企業の製品に原料を提供することが中心でしたが、今回は初めて自社プロダクトとして取り入れてみようと思っています。一緒に活動するのは、日本茶の可能性を広げる茶師として知られる嬉野の松尾俊一さん。「Retocos」がやってきた取り組みの、一つの“答え”を目指したいです」

シリーズ名は、「間」を表す日本語を語源にした「awai(あはひ)」。茶はじめ、ボディシャンプーなどの製品も開発中だという。

「人と自然との関係、共生などがコンセプト。「Retocos」が実現したい、島の人たちが自然と共生しながら豊かに暮らせる、持続可能な社会への、一つのきっかけになれば。今後はもっとメディカルな部分や心の循環、発酵文化など、日本的なものも、いろいろと深めていく予定です」

目指すのは“リジェネラティブな”島だ。

「本来は“再生”という意味合いが強いですが、それよりも、人と自然の新たな関係性であったり、循環だったり、そういうものを伝えられる島であり、社会を、地域の人と一緒につくっていきたいです」

Retocos

Photo:乾 祐綺

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