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謎の多いうなぎの生態「完全養殖の量産化は2050年くらい」【おおさき町うなぎ加工組合】

古くは縄文時代から食べられていたとされる、「うなぎ」。現代においてもスーパーで目にする身近な食材であるが、価格は高騰する傾向にあり、うなぎ=贅沢な食べ物という印象が強くなっている。さらに、野生での絶滅の危険性が高いとされ、うなぎをめぐる状況は芳しくない。

うなぎを次世代につなぐためには、何が必要なのか。養殖うなぎ日本一の生産量を誇る、鹿児島県で養鰻業に携わる徳地隆二さんに、日本におけるうなぎの現状と、持続可能な資源調達に向けた取り組みについて伺った。

日本一“美しい町”で育つ、おいしいうなぎ

「ごみリサイクル最前線の町」として、国内外から注目されている鹿児島県大崎町。資源のリサイクル率は国内トップクラスで、この20年間でリサイクル率日本一を14回達成。さらに、生ごみは町内で堆肥にして農地で使用するなど、町をあげてSDGsに力を入れている。

また、法人が自治体に寄付する「企業版ふるさと納税」においても、大崎町は寄付金の使い道をSDGsの推進に絞り、2021年度は県内外13社から約3億4600万円を集めた。大手ヤフーも大崎町を選ぶなど、多くの企業から支持されている。

そんな美しい町の名産品は、「うなぎ」だ。鹿児島県は、養殖うなぎの一大生産地。なかでも大崎町のうなぎは、「身が肉厚、ふっくらでおいしい」と評判が高い。複数あるふるさと納税サイトのランキングでも、同町のうなぎの長蒲焼きはたびたび上位にランクインする人気ぶりだ。

「私たちが提携する養鰻場では、清廉な天然地下水を使用して自然の生育環境に近い状態で育てています。いけすにうなぎの稚魚(シラスウナギ)を入れ、1年かけて大きく健康に育つまで、うなぎの状態を見ながら水の管理、餌の量を調節しています。そして出荷された活うなぎは、ISO22000取得の加工場で安心・安全でおいしいうな ぎ蒲焼になります」

中国産などを扱う業者もある中、自社だけで養殖から加工、出荷までおこなえるところはそうない。食品の安全性を守る上でも、養殖業者と一体になって管理できるのは大きな強み。「だからこそみなさんに安心して食べていただける」と、おおさき町うなぎ加工組合・取締役常務の徳地隆二さんは胸を張る。

しかし、うなぎをめぐる状況は深刻だ。環境省は平成25年に「ニホンウナギ」を絶滅危惧IB類としてレッドリストに掲載。これは二番目に高いランクで、近い将来、野生での絶滅の危険性が高いとされている。

天然うなぎの減少には、複数の要因があると考えられている。海洋環境の変化や、河川や沿岸域等の成育場の環境変化、過剰な漁獲などだ。ならばマグロのように養殖をおこなえば、資源保護と食料供給の双方が実現できるのではないか?  しかし、うなぎの生態はナゾが多く、未だ明らかにされていない部分が多い。「完全養殖の量産化」は困難を極めている。

「うなぎの天然稚魚を川で採捕し、それをいけすに移して成魚に育てる。これが今の養殖の流れです。しかし、稚魚の採捕量は年々減ってきている。だからこそ稚魚そのものを養殖できればよいのですが、人工ふ化までは技術的に確立されたものの、そこから稚魚に育てることが難しい。なぜなら、卵がふ化してから稚魚になるまでの餌が解明されていないからです。海の中にはいろいろなプランクトンの死骸などがあり、そういった小さく見えないものを食べて天然の稚魚は育っている。陸には存在しないものを食べているんです」

現在は稚魚のすべてを天然資源に依存しているため、稚魚の採捕量でうなぎの生産量が大きく左右する。稚魚が不漁だと市場に出回るうなぎは高くなる。ただし毎年減っているわけではなく、「採れる年とそうじゃない年がある」ようだ。

「水産庁の話によれば、『2050年までに稚魚の完全養殖が量産化できるように目指している』という段階。実用化はまだまだ先の話です」

完全養殖うなぎの商業化への道のりは依然として遠い現実がある。

数が少ないなら、食べない方がいい? そうとも言えない複雑な問題

稚魚の完全養殖実用化への技術開発に大きな期待を寄せつつ、いち事業者として努力していることもある。

「毎年9月頃にいけすで育てたうなぎを川へ放流しています。放つうなぎは1度に数千匹。うなぎは河川から海に下って産卵することが分かっているので、稚魚に成長して再び川へ戻ってきてもらうことを願う取り組みです」

さらに、うなぎ減少の要因とされる生息環境の悪化を改善するべく、川の環境保全にも力を注ぐ。

「うなぎが川で生活しやすいように、棲み家となる石倉カゴを岩で作っています。こうした取り組みは業界団体の名地区で積極的におこなわれている。国の研究に頼るだけじゃなく、いち事業者として資源保護への動きが多くなっています」

数が少ないなら、食べない方がいいのだろうか……? 消費者からすると、そういった考えが頭をよぎることもあるが、そう単純な問題ではない。消費が減れば、うなぎを供給する側が苦しくなり、養殖うなぎの生産も少なくなり、長きにわたって日本の食文化を支えてきた「うなぎ」の存在自体が消えてしまうかもしれない。

しかし消費者目線で考えると、物価が高騰しているこのご時世において、一尾2,000円前後するうなぎの蒲焼きを頻繁に食べられるかといったら、難しい。食べたいけど、食べられない。それもまた事実。

「うなぎを育てるためには、一定の固定経費がかかります。水温を一年中一定に保つための重油代、酸素を送る水車を回す電気代。また、稚魚を成魚に育てるまでの餌代も値上がりしている現状です。じゃあ何が安くできるかといったら、やはり稚魚を仕入れる値段を抑えるしかない」

しかし、稚魚が不漁の年はどうしても高い値段で取引される。そのため、育てたうなぎも高く売らなきゃならない。

「だから少しでも安定して稚魚が採捕できるようにと、私たちは資源保護、保全を続けているんです」

もっと多くの人にうなぎを食べてもらいたいと思う一方で、野菜のように自分たちでタネを採って育てるわけにはいかないからこそ、養鰻に携わる人々は頭を悩ませている。

うなぎの食文化を次世代に継承するためには、国、生産者、消費者がそれぞれの立場で問題を把握し、解決に向けて行動することが求められているのではないだろうか。

「お店の陳列では伝えられない、うなぎのストーリーを発信していく」

今後は「ストーリー発信にもっと力を入れていきたい」と徳地さんは言う。

「スーパーに陳列しているだけでは、消費者に製造の背景を伝えることはできません。でも、ふるさと納税をはじめとするECサイトは、自分たちのこだわりや想いを伝えやすい。うちのうなぎに興味を持っていただき、食べておいしいと感じてもらえたら、次の注文につなげていくことができる。販売の枠を横に広げるシステムを構築していきたい」

プロの手によって丁寧にさばかれたうなぎは、蒸してから白焼きに。そして甘ダレに漬けて焼き上げる作業を4回繰り返し、そのまま急速冷凍で旨味を閉じ込める。冷凍とは思えないほどふっくらとするのは、手間ひまかけているから。

生産者のこだわりと、温暖な気候と良質な地下水という土地の恵み。これらが揃ってこそ、本当においしいうなぎは生まれるのだ。

おおさき町うなぎ加工組合

写真提供:おおさき町うなぎ加工組合

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