読むふるさとチョイス 地域の挑戦者を応援するメディア

歴史ある武家屋敷を宿泊施設に「建物や地域の魅力を継いでいく」【RITA 出水麓 宮路邸】

鹿児島県出水市に、江戸時代の風情が残る武家屋敷群「出水麓」がある。その武家屋敷のうちの一棟が、大河ドラマ『篤姫』のロケ地にもなった宮路邸だ。この宮路邸が2022年、宿泊施設「RITA 出水麓 宮路邸」に生まれ変わる。単なる観光スポットではなく、滞在しながら武士の時代にタイムスリップしたような気分を味わえる宿となったのだ。支配人に就任した森園さとみさんに、RITA 出水麓 宮路邸の魅力やこれからの挑戦を伺った。

歴史と現代が交錯する出水麓武家屋敷群

支配人の森園さん曰く、出水麓の武家屋敷群にはこんな魅力がある。

「江戸時代の町割が残る風情ある町並みです。それでいて現代の人たちが住んでいるのが面白い。出水麓に来ると、時間がゆっくり流れている感覚を味わえて、すごく心が落ち着くんです。私も支配人になる前にここに来て素敵だなと思って、また来ようと決めていました」

出水麓武家屋敷群は、国の重伝建地区(重要伝統的建造物群保存地区)に指定されるほど価値の高い町並みだ。重伝建地区とは、日本各地に残る歴史的な集落・町並みに対して、国が価値を認めて保存・活用の支援を行う制度。文化庁によると、重伝建区に指定された城下町や宿場町、門前町などは、全国で104市町村126地区に達した(令和3年8月2日時点)。

出水市では2021年から、年1回のペースで〝まちを知り、まちを楽しむ。〟をテーマに掲げたイベント「DENKEN WEEK IZUMI」を開催。出水麓武家屋敷群や、近隣の出水本町通り商店街を舞台に、古き良き町の魅力を内外に発信している。支配人の森園さんが語ったように、イベントでは現代を生きる出水市民やアーティストたちの存在感も大きい。

出水中央高校吹奏楽部による演奏や、現代アート展示、台湾の姉妹都市との協働など、時代も国境も超えてたくさんの人が出水市に集う。

歴史と現代が交錯し、大きなエネルギーを生む町。それが出水市なのだ。そして出水市の観光拠点のひとつとして、RITA 出水麓 宮路邸に大きな注目が集まっている。

歴史ある建物を宿泊施設に RITA 出水麓 宮路邸の誕生

RITA 出水麓 宮路邸は、明治時代に建てられた歴史ある建物だが、宿としては生まれたばかりの赤ん坊。

「宿の名前のRITAは、ヘリテージ(heritage)の真ん中の部分を取って付けられました。建物や地域が持つ歴史や魅力を次世代へ継いでいきたいというのが一番大きな想い。出水を好きになってくれる人を増やしたいです」と森園さんが語る。実は森園さんにとって、RITA 出水麓 宮路邸が初の支配人業になる。

「私は鹿児島生まれで、大学は県外へ。就職で鹿児島に帰ってきて、地元の金融機関に1年半位勤めたあと、最近までの6年半位は地元情報紙の編集記者として働いていました」

森園さんと出水麓の出会いは、2021年のDENKEN WEEK IZUMI。それまでは出水市に武家屋敷群があることも知らなかったそうだ。というのも、出水市は日本最大級の鶴の渡来地。鶴がやってくる冬季のみオープンする出水市ツル観察センターは、毎年大勢の観光客で賑わう観光地だ。

出水麓の武家屋敷は歴史的な価値が高いものの、出水市の観光資源の中でやや埋もれていた。しかし出水麓を訪れた森園さんは、あっという間にこの町並みに心を奪われる。

「江戸時代から受け継がれてきている町並みがほぼそのまま残っているんです。それはすごいことなのに、地元の方からすると当たり前。外から来た私みたいな人が『出水麓はすごいんだよ』と発信することで、土地の魅力に気づいてもらうのも大事だと思っています」

当時は地元の情報紙で働いていた森園さん。DENKEN WEEK IZUMIの告知記事を書いたことが、出水に興味を持ったきっかけだという。

「2022年のDENKEN WEEK IZUMIがコロナで延期になった頃、『出水麓の武家屋敷が宿になるから支配人を募集している』というお話を聞いて、面白そう!と思ったんです」

そうして森園さんは支配人に応募し、見事採用へ。観光客のひとりだった森園さんが、出水市の町づくりのスタート地点に立った瞬間だった。

鹿児島出水の魅力再発見と地域連携

「支配人という名前が仰々しいですよね」と微笑む森園さんだが、すでにRITA 出水麓 宮路邸でチャレンジしたいアイデアを考案中だ。

「鹿児島には薩摩つげ櫛という、つげの木から削って作る櫛があります。椿油でお手入れをすると一生使える櫛なんですが、伝統工芸品で高価なものなんです。そのつげ櫛をアメニティで宿に置くこともしてみたいですね。そのまま持って帰っていただくのは難しいのですが、使ってみたい方にはお試しの機会になります。つげ櫛は長く使えるものなので、SDGsやサステナブルが叫ばれる今の時代にも合っているのでは、と思っています」

伝統を尊重しつつ、現代的な視点も取り入れる。歴史と現代が交錯する出水市で、森園さんがチャレンジしたいことはたくさんあるようだ。そのひとつが、宿のお客さんと地域住民を結びつけること。

「宿の裏に広い畑があるので、サツマイモや大根などを作れたらいいなと思っています。地域の小学校や幼稚園、保育園の子ども達と収穫体験ができたら最高ですね。畑で採れたお野菜で、地元の方に漬物教室などをしてもらうこともできるかもしれません。宮路邸の近くには、武家屋敷をリノベーションした一軒家に住んでいるご家族がいて、週末だけ自宅を解放した無料休憩所をされています。つむぎちゃんという小学生の女の子がおもてなしをしてくれるので、そういうところとも連携したいですね」

森園さんが再発見した出水の魅力が、RITA 出水麓 宮路邸を通して新しい価値を生み出す。観光客も地域住民もわくわくする町になりそうな予感が満載だ。

目指すのは、地域の人と作り上げる町

森園さんがひと目見て感動した出水麓武家屋敷群。支配人として、その魅力や価値を次世代へつなぐことへの使命感も感じているそうだ。

「RITA 出水麓 宮路邸という場を通して、世代を超えた交流が生まれるといいなと思います。宿泊や観光で訪れた方も、出水の方同士でも、もっと繋がってもらえたら」と森園さん。

「宮路邸に対する地域の皆さんの関心の高さをすごく感じています。RITA 出水麓 宮路邸のプロジェクトが始まってから、ご近所の方がよく見に来てくれているんです。こちらからも丁寧にご案内して、まずは知ってもらって、関わってもらわないと。5年、10年の長いスパンで時間をかけて、一緒にやっていく土壌を作ることが大事だと感じています」

森園さんは現在、地域の人の名前や顔を覚えたり、商店街のお店に入ってみたり、出水の魅力を体感中。特に外の人に知ってもらいたいのは、鹿児島や出水で暮らす住民の人柄だという。

「県外から鹿児島に遊びに来る友人たちは『鹿児島の人は本当に親切だよね』と言ってくれます。飲食店の方やタクシーの運転手さんもよく話しかけてくれるので、鹿児島弁を聞く機会もたくさんあります。意識していなくても交流できちゃうのが鹿児島なのかな。そういう部分も含めて、楽しんでもらえたらうれしいですね」

出水市には九州新幹線が停車する出水駅があることも、観光客にとってうれしい。

「出水市にはたくさんの観光スポットがあります。武家屋敷群や鶴の渡来地の他、あじさいや桜、紅葉で有名な東雲の里なども素敵です。けれど、それぞれが点在しています。出水のアクセスの良さを生かし、点を線で繋げてあげることも必要ですね」と森園さん。

地域の魅力を、観光ガイドやインターネットで伝えきるのは難しい。だからこそ、RITA 出水麓 宮路邸ができることがある。生まれ変わった出水麓が成長していく様子を、是非その目で楽しんでみてはいかがだろう。

 

この記事の連載

この記事の連載

TOPへ戻る