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「湿度で育てる」技術が世界を変える!農業危機を救うポモナファームの視座

三重県多気町丹生地区の農業生産法人ポモナファームで今、農業の未来を切り拓く技術の実証実験が進められている。その技術とは、野菜を「湿度で育てる」特許栽培技術「Moisculture」。低エネルギー・超節⽔・廃液ゼロを実現するこの特許技術が、気候変動による農業の危機を救うという。ポモナファーム代表取締役CEOの豊永翔平さんは、大学で考古学を専攻してきた経歴の持ち主。考古学的視点から見た農業の課題やアグリテックベンチャー創立のお話を交えながら、豊永さんの目に映る農業の未来をシェアしてもらった。

「世界遺産を守りたい」からスタートした農業の歩み

考古学から農業の世界へ進んだ豊永さんの選択は、一見すると大胆な方向転換に感じられる。ところが話を伺ってみると、考古学と農業の密接な関係が見えてきた。

「大学時代は、遺跡の発掘や文化財保護をしていました。小さい頃からの夢は考古学者だったんです。僕が小学校6年生の時にアメリカで同時多発テロが起きました。タリバン政権がアフガニスタンの遺跡(バーミヤン遺跡)を破壊するニュースを見て、遺跡を後世に保存し続けることってすごく大事なんじゃないかと思ったんです。それで世界遺産の近くで働くことをずっと夢見ていたんですよ。早稲田大学に進学して考古学を専攻し、休学しながら3年間位はほぼカンボジアにいて文化財保護の研究をしていました」

遺跡や文化財は、過去の人類が営んできた活動の証。豊永さんは研究を進める中で出会った、ある研究者との会話が心に響いた。

「たとえばアンコール遺跡は、十年前までは真っ白な遺跡だったんです。それがここ十年位で表面が真っ黒になってしまいました。なぜかというと、遺跡に100人や1000人の人間が集まることによって、局所的に地球温暖化現象が起きたからだと考えられています。観光などのためにトゥクトゥクやタクシーなどの交通量が増えれば、二酸化炭素や排ガスも増えますよね。こうしたことによって、今もどんどん遺跡が劣化している可能性があるんです」

遺跡周辺で都市開発や農業開発が乱立したことも、遺跡の存続を危うくする一因だという。

「特に農業は地下水源を大量に使います。すると地下水脈が下がって地盤沈下が起き、遺跡が傾くことがあるんです。そうしたことを考えると、考古学だけで遺跡を守り切ることは難しいように思えてきて、違う方法を探すことにしました。文化や地域を守っていくには、やはり若い人たちがその場所にいることが重要。それには営みの継承が必要だということに気づいて、農業の可能性を考えるようになりました」

豊永さんは大学卒業後、経営コンサルタント企業に入社。日本の環境技術を世界に広めることを目的とした企業で、水処理やゴミ処理技術を学ぶ機会に恵まれた。そうして知識を吸収すればするほど、現代を取り巻く環境変化と農業の関わりに深いものを感じていった。

「水に関して言えば、(地球上の)淡水の内の70%位が農業に使われてます。地域によっては水の汚染源の半分は農業で、もう半分は畜産ということもあるんです。というのも現代農業は主に、大量に窒素肥料を投下する農業技術を使用しています。本来、地球は自浄作用を持っていますから綺麗な水が循環していくんです。ですが現代は超窒素過多の状態になっています。ヘドロの増加、赤潮、プランクトンの大量発生によるサンゴ礁の被害もまた、こうした農業技術の影響があるとも考えられているんです」

農業は自然に寄り添った地球にやさしい産業というイメージも強いが、発展を続けてきた人間の営みである以上、環境への負の側面も伴うのだ。

「CO2排出しかり、フードマイレージしかり。環境破壊しながら食を生み出す農業を支えているのが現代なんです。その状態を知ったことで、『農業ってすごく面白い。自分がやりたいことのテーマの根源が見つかったかもしれない』と思えるようにました」

太陽の道が通る多気町にポモナファーム誕生

豊永さんは2016年、沖縄県に農業技術ベンチャーCultivera LLCを設立。環境にやさしい農業技術「Moisculture」の開発を進めつつ、翌2017年には三重県多気町に農業生産法人ポモナファームを設立し、実証実験を開始した。

三重県内でポモナファームの設立場所を探していた頃、物流の利便性などの観点から三重県北部を薦められたこともあったという。豊永さんがチャレンジの場として多気町を選んだ理由とは。

「多気町が取り組んでいるバイオマスタウン構想も面白いですし、町役場から『廃熱を使ってやってみないか』とお話があったり、(地元企業の)万協製薬さんと共同出資でファームを作るという話もありました。それからはバックアップしてもらいつつ、2017年にポモナファームを設立したんです」

考古学を専攻していた豊永さんらしいのが、法人設立に当たり多気町の歴史を調べてみたこと。すると、多気町が興味深いエリアに属することに気づいた。それは多気町が位置する緯度「北緯34度32分線」に秘密があるという。

「北緯34度32分線とは、考古学的に『太陽の道』や『太陽の文明ライン』、『レイ・ライン』と呼ばれているエリアなんです。メソポタミアなど古代四大文明も当てはまっていて、世界中の主要な文明が生まれた土地に線を引いていくと、北緯34度32分線で生まれていることが多い。農業技術が発展していない時代でも、巨大文明を支えられるだけの食料を供給できたエリアです。それはこのエリアが農業のために適切な天候が広がっていたからだと考えられています」

人間の食を支える天候条件が揃いやすい太陽の道、北緯34度32分線。従来であれば作物が育ちやすいエリアだが、現代はここで大きな異変が生じているという。

「たとえば塩害化や山火事の発生地をプロットしていくと、このエリアに集中していくことがわかっています。世界的にこのエリアが大変な時期に入っていて、農業をするのが難しくなっているんです。現代の気候変動が深刻化していくのが北緯34度と南緯24度線で、それぞれ北限と南限に向かって進んでいき、最終的に熱帯や亜熱帯に到達する可能性もあります。日本だと北海道が暑くなって、沖縄が一番涼しい地域になるかもしれません。熱帯のような暑さの中で農業をすることを想定する必要が出てきているんです。こうした気候変動は急に発生するというよりは徐々に進んでいきます。ポモナファームを北緯34度32分線に位置する多気町に設立することで、2050年やもっと先の気候帯を感じながら技術開発していこうと考えました」

湿度で育てる特許技術が世界的農業危機を救う

世界の農業危機を食い止めるべくポモナファームが実証実験を進めているのが、湿度で野菜を育てる特許栽培技術「Moisculture」だ。この特許技術を利用することで、農業の土不足を解決できるという。

「実は年間で750億t~780億tぐらいの土が失われていると言われていて、砂漠化や塩害化に影響していると考えられています。北緯34度32分線を中心に気候変動が進んで熱帯化していくと、農業に適する気候条件の緯度帯が高くなるんです。ところが緯度帯が高くなると、土が痩せていたり水量が適さないという課題も発生します。農業に関する土の課題を考えると、これからは『人工土壌』や『人工培地』がすごく重要。そこで僕達は沖縄のCultivera LLCでMoiscultureの研究開発を進め、ポモナファームで実証実験を始めました」

Moiscultureが画期的なのは、特殊な繊維層(人工培地)に水分を染み込ませ、そこから気化させた水分で野菜を育てる点だ。人工培地を使用することによって、気候には恵まれているが土壌に問題があるエリアでの農業が可能になる。

「Moiscultureで使用する特殊繊維(膜)を積層すると、厚さが5mm程の人工培地になります。ほんの5mmの厚さですが、自然界の土の10cmから15cm分を高度再現することが可能です。都市部でも使用できますが、場所を選ばずに農業を可能にします。たとえば海上や宇宙空間でも使用できるんですよ」

光合成に必要なCO2と栄養素と水、そしてこの人工培地があれば農作物は育つ。Moiscultureは刻々と進む地球の水不足と土不足、そして農業による環境汚染を解決に導く鍵となるかもしれないのだ。

「湿気中根という根があるのですが、湿気中根をいかにして大量に培養するかというのが大切です。湿気中根を培養すると、空間の湿度と湿気中根の接着表面積が膨大に増え、水の吸収効率が上がります。すると栽培に必要な水の量を、従来の栽培法の10分の1まで抑えることができますし、農業廃水もゼロなんです。現在はプログラミングしながら適切な湿度環境を再現しています。農業に使った水で自然環境を汚さないというのは、僕たちの研究開発における大きなテーマです」

ポモナファームでは地球にやさしい栽培技術を用い、さまざまな野菜の栽培に成功。トマトを中心に、エディブルフラワーやマイクロリーフ、唐辛子などを無農薬・低農薬で育てている。今後はトウモロコシなど栽培する品種を増やすことも検討中だ。

植物の気持ちに寄り添う農業を目指して

ポモナファームでは「植物が本来持っている力を最大限に引き出す」ということもテーマのひとつだという。

「僕たちはどちらかというと植物生理学スタートなんです。植物の能力をどう拡張してあげるかというところを目指しています。実は植物って、2億年分のDNAを持っていると考えられているんです。僕たち動物は自力で動ける分、いろいろな遺伝子を失ってきたといわれています。植物は進化の過程で不動を選択しました。動けない分、2億年分のDNAを保持し続けている可能性があるんですよ。植物は暑い時代や寒い時代、水が少なかった時代も生きてきました。そうした時代を思い出してもらうことで、植物の生存本能を高められると考えています」

土壌不足や水不足の解決を叶えるMoiscultureは、気候条件に対する植物の適応力にもポジティブな影響を与えることがわかってきた。

「湿気中根では、植物の温度耐性が3倍や4倍に広がります。一般的な水耕栽培で発生した根では、適温に対してプラスマイナス3℃~5℃の変温にしか耐えられません。ですが湿気中根を生やしてあげることで、プラスマイナス10℃〜15℃の変温に耐えられるようになります。つまり20℃が適温の植物であれば、およそ5℃~35℃辺りまで耐えられるんです」

湿気中根が発生した植物は生きる力が強くなるだけでなく、栄養価も高くなると考えられている。ポモナファームで育ったトマトは、リコピンやビタミンC、ポリフェノールなどの抗酸化作用も高い。100g当たりのトマトに対して、最大約140mgのGABAが含まれることもあるそうだ。

「植物は動けないので、いかにしていい環境をを作ってあげるかが大切。ひとつの空間の中でも、熱が溜まるところ、風が動くところ、温度が上がりやすいところ、光が当たるところ、光が当たらないところがあって全部を一定にはできません。僕は時々寝転がってトマトの気持ちになってみるのですが面白いですよ」

多気町から世界へ広げる新しい農業の力

多気町でMoiscultureの実証実験を進め、さまざまな野菜の栽培に成功しているポモナファーム。育てたトマトの詰め合わせのほか、トマトケチャップやトマトジュースなど加工品も販売中だ。一方、代表取締役社長である豊永さんは人材育成にも力を入れていきたいと語る。

「ポモナファームで働いている方々は、10代や20代の方が中心です。インターン受け入れも積極的に行っています。ハンディキャップを持った方々の事業者さんとも連携。三重県南部では、ハンディキャップを持った方を受け入れられる農業法人がほとんどありません。彼らがいかに地域に根ざすことができるかを考えていきたいです。古代文明やシルクロードなどもそうだったのですが、多種多様な人たちが集まることによっていろいろなものが生まれます。同じような人だけを集めて組織を作っても、あまり面白くはないですよね」

ポモナファームでは、スタッフが小学校の見回りパトロールに参加したり消防団に入団したりしながら、地域との接点を作っている。

「台風が発生したとき、地域の神社が崩壊したことがありました。ですが住民の方の多くは松阪市など都市部に働きに出ていますので、災害時にすぐ動けるのは若い農業者なんです。そういう意味でも、多気町にポモナファームがあることの意義や僕達が地域の役に立てる機会があると思っています」

農業と地域は切っても切り離せない関係にある。農業をするということは、地域との交流や農業の継承という観点も必要なのだ。

「集落営農は現在、日本国内に約1万4000カ所あるんですけど、後継者のいない農家さんが増えています。三重県内でも農家さんの高齢化が進んで大変になっているんです。ですが農業界では、若者は超社会的弱者になってしまう。地域の方や高齢の農家さんがサポートしてくれたりしますが、資金面や保有する農地の面で若者の力が弱い。僕達が開発した技術が、若者など社会的弱者の方たちのエンパワーメントツールになってほしいです。農業生産法人として事業化モデルの検証をする上で一番大事なことって、人材育成だと思うんです。農業生産を成功させる要素のうち技術が占めるのは2割位しかなくて、ソフトの面が大きいはず。農業では熟練者と初心者とでは生産量に倍以上の違いが出ることも。それが農業の楽しみであり農業者としての誇りでもあると思いますから、若い人材を育てていかないといけません」

働く人が楽しみや誇りを得られる職場にすることが、豊永さんのミッションでもあるのだ。研究開発と人材開発の両輪を回すことで、ポモナファームの取り組みは地域や国境を越えて広がっていく。

「クローズドになりやすい農業の世界ですが、ポモナファームのパートナーファーマーは日本国内を含めると24ヶ所位あって、淡路や沖縄など多様な地域の仲間たちと協力できています。製薬会社さんがパートナーになってくれることも多く、湿地中根で栽培したトマトが、未病やサプリメントの領域に活かされています。国外ではアメリカやアジアから、研修のためにポモナファームを訪れる人もいます。ポモナファームでは将来的に、発展途上国へMoiscultureの人工培地を送り、洗いながら使い続けてもらえたらと考えています。単価を安めの金額にすることで、土より安いコストで農作物を作れるようにしたいです」

考古学をきっかけに入り込んだ農業の世界。豊永さんは今、農業に対してこんな想いを抱いているという。

「農業は、全産業の中で成功させるのが一番難しいと言われています。多くの大企業でさえ、農業では成功していません。農業は変数の多い超数学的な変数の世界。たとえば戦争が起きると地政学リスクや調達リスクも発生します。世界観を持ちながらやっていかないと農業は成り立ちません。農業は難しいですが、だからこそすごく楽しい仕事だと思っています」

農業は食を通じて生きることを支える営み。ポモナファームの栽培技術Moiscultureが世界に広がることで、地球の未来がもっと明るくなるかもしれない。ポモナファームで育ったトマトやその加工品は、同社HPで購入可能。三重県多気町のふるさと納税返礼品としても登録されている。地球にも人にもやさしい農業技術で育った美味しいトマト、この機会にぜひご賞味あれ。

ポモナファーム

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