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奥伊勢の自然が丸ごと遊び場に!アウトドアプログラムで地域のファンをつくる

三重県多気郡大台町(おおだいちょう)は、県中部の「奥伊勢」と呼ばれるエリアにある小さな町だ。町土の90%以上を森林が占め、日本一の清流宮川が横断する。町内全域がユネスコの生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)に指定されている。

野田綾子さんは、そんな大台町の自然と人の温かさに惹かれて愛知県から移住し「Verde大台ツーリズム」を立ち上げた女性だ。事業として、SUP(サップ=ボード上で行う水上アクティビティ)、カヤック、トレッキングなどのアウトドアプログラムを提供している。

「この素晴らしい奥伊勢のアウトドアフィールドをもっと多くの人に楽しんでもらいたい、そして地域のファンになってもらいたい」と語る野田さんにお話を伺った。

大台町に移住し、未経験からアウトドアガイドに

野田さんの前職は中学校の体育教師。もともとアウトドア業界や旅行会社で働いていたわけではない。そんな彼女が大台町に移住を決めた理由は、何だったのだろうか。

「将来どこに住むのか、どんな家に暮らしたいかを家族と話し合う中で、いろいろ自由にできる広い空間があるような、自然に近いところがいいねってことになって。条件に合うところが大台町だったんです」(野田さん)

35歳で教員を辞めて家族と大台町に移住。畑仕事をしながらのんびりと暮らしていたときに、大台町観光協会がアウトドアガイドを育成する研修制度を行っていることを知った。

参加者を募っていたのは、カヤックガイドの資格を取るための研修。宮川は大台町を代表する観光資源であり、水上アクティビティは観光の目的になる。自然も体を動かすことも好きな野田さんは興味を持って応募し、研修に参加した。

JSCA(日本セーフティーカヌーイング協会・現JSPA日本セーフティーパドリング協会)登録ガイドの資格を取得するまでは順調だった。しかし、いざアウトドアガイドを仕事にしていこうと思ったとき、迷いが出てきたという。

「ゼロから企画してプログラムをつくり、集客を考えたときに、今後もカヤックだけでやっていけるのか不安になったんです。カヤックの市場ってどんどん小さくなっていて。もっと興味を持ってもらえることでないと、観光地ではないエリアに人を呼ぶのは難しいだろうと……。そんなときに知ったのがSUPでした」(野田さん)

SUPとは「Stand Up Paddle Board(スタンド・アップ・パドルボード)」のこと。浮力が強く安定感のあるボードの上に立ち、一本のパドルで左右を交互に漕いで水面を進む水上アクティビティだ。まるで水上を散歩しているかのようにスイスイとすべっていく。

SUPのフィールドとなる宮川は、水の流れがとても穏やか。その上流にある奥伊勢湖は静水面のため、子どもから年配の方まで無理なく楽しめる。景観の美しさは言うまでもない。

当時SUPはまだ一般的ではなかったが、将来性を感じた野田さんはSUPのガイド資格も取った。さらに大台町には日本屈指の秘境・大杉谷があるため、トレッキングツアーも行えるよう、JMGA(日本山岳ガイド協会)登録ガイドの資格を取得(旅行業も併せて登録)。

会社をつくって商品を育てていかなくては

大台町観光協会の研修でサポートしてくれるのは、資格の取得まで。その後の仕事に繋げる部分は手探りだった。「観光協会の方に『こういうプログラムをつくりましょう』と提案をして、途中からは私も職員にさせてもらったんです」と野田さんは当時を振り返る。

一年間ほど職員として商品をつくったが、観光協会では野田さんが思い描くプログラムは売れなかった。税金で運営される観光協会では、特定の事業者を売り込むことは難しい。さらに観光はアウトドアだけではないから、アウトドア事業者だけに予算は割けなかった。

「観光協会の中でのマーケティングはすごく難しくて。ちゃんと会社をつくってツアー商品を育てながら販売していく仕組みをつくらないと、人を雇用できるまでには至らないと感じました。

また、ゲストへの責任の所在をはっきりさせられないなど、安全面での不安がありました。任意団体では賠償責任保険に加入できなかったり、税金を納められなかったり。アウトドアプログラムを販売する責任を果たせる組織体ではありませんでした。それで観光協会を辞めさせてもらって、Verde大台ツーリズムをつくったんです」(野田さん)

2016年10月株式会社Verde大台ツーリズムを設立。当時はまだ観光協会の仕事と並行していたため、実際の始動は2017年4月からだった。当初は観光協会と連携を取りながら進めていき、徐々に軌道に乗せていった。

その後、Verde大台ツーリズムらしいプログラムをつくり、インターネットで集客を開始。丁寧な発信を続けたおかげで、お客さんは口コミにより少しずつ増えていった。当初は30~40代の女性が多かったが、近年ゲストの平均年齢はどんどん若返っている。20代の女性や子連れのファミリーも増えた。

「大台町で生まれ育った人にとって、宮川が流れ、豊かな森のある環境は当たり前。だからこそ、その価値をあまり実感できていないんです。この自然を目当てに外から人が来るのが信じられない、そう思っていた人がほとんどじゃないかな。だから私たちが『体験のプログラムで少し高めの料金をいただいて』と言うと、びっくりするんです。わざわざそれだけのお金を払って、外から遊びに来るんだ!って」(野田さん)

日本に10か所しかないユネスコエコパークに、町内全域が登録されている大台町。その自然を当たり前だと思わず、価値を活かしたプログラムをつくれるのは、外から移住してきた野田さんだからこそかもしれない。

自然を愛し、節度があり、経済を回してくれる人に来てほしい

アウトドアプログラムの集客に関して、意識していることを野田さんに尋ねてみた。

「とにかく安く遊べればいいって人ではなく、奥伊勢のアウトドア体験に価値を感じたうえでお金を払ってくれる人に来てほしいと思っています。こういうプログラムの価格は、戦略的にほかの地域と比較したり、ターゲットを考えたりして決めます。

だけど、宮川や大杉谷、大台町のブランドをつくることは決して数字化できません。私はブランディングとプライシングはイコールだと思っているので、プライシングが低いプログラムはつくりたくないんです」(野田さん)

Verde大台ツーリズムのプログラムは、同業他社よりも少しだけ高めの値段が設定されている。そのせいで集客が厳しくなる側面はある。しかし、この価格でも選んでくれる人は、Verdeのブランドあるいは地域のブランドを理解してくれる人であることが多い。

「集客に関して、私は常に3つの柱を持っています。

・この大台町の自然が好きな人
・節度があり、自然を守るためのルールやマナーをわかっている人
・経済を回す人

自然を愛し、節度を守り、経済を回してくれる人に来てほしい。惜しみなくお金を使えということじゃなく、地域の価値を理解し、その価値を守るために経済を回す人に来てほしいんです」(野田さん)

Verde大台ツーリズムのお客さんは、リピーターになってくれたり、楽しかった経験を周囲にシェアしてくれたりすることが多い。それだけ奥伊勢の自然が特別ということもある。

そのほか、最初は半日コース、次は1日コース、その次は上級者コースというように、段階を踏めるようなコース設定がされているためでもあるだろう。

恋人とSUPを楽しんだ女性が、数年後に生まれた子どもと親子で再びSUPに来てくれたり、20代の女性が、80代のおばあちゃん、お母さんを引き連れ三世代で再訪してくれたり……。奥伊勢の自然をフィールドに遊ぶアウトドアプログラムは、訪れた人の心に色鮮やかな印象を残し「また行きたい」と思わせてくれる。

ここでしかできない体験を通してFUNからFANへ

Verde大台ツーリズムは、今年で6シーズン目だ。ブランディングが功を奏し、大台の自然が好きで節度があり、対価を払う人たちが確実に来てくれるようになった。その結果、売上も伸び続けている。

最近では、中学生の修学旅行や、チームビルディングのための企業研修など、団体からの申し込みも増えてきた。

「今も多くのガイドさんに助けてもらって事業をしています。次に手を付けないといけないのは、若いガイドの人材育成ですね。私は現在45歳で、ガイドとして活動できるのは50歳までかなと思っています。

でも、こういう仕事は続けることが価値だと思うので、5年後、私ができないからと言ってVerdeがなくなってしまうのは惜しい。今この大台町には、アウトドアを目的に遊びに来てくれる層にとって大きな魅力があることがわかりました。数年かけて、この仕事を次の世代に渡したいなと思っているんです」(野田さん)

取材を通して感じたのは、野田さんの「大台町の自然を借りている」姿勢だ。野田さんが商品として販売しているのは「奥伊勢の自然をフィールドに遊ぶ体験」であり、自然そのものではない。持続可能な形で自然を活用しているからこそ、その理念に共感する人を地域に呼ぶことに成功している。

「人を介してエリアの魅力を伝え、アクティビティの楽しさ『FUN』を伝え、エリアの『FAN』になってもらう! 『Link FUN to FAN』これが私の想いです」Verde大台ツーリズムのウェブサイトに掲げられている野田さんの言葉だ。

透き通った宮川をSUPでスイスイと進み、川底を泳ぐ魚を見つける。垂れ下がる枝の下をくぐり抜け、水音や鳥の声に耳を澄ます。仰ぎ見るのは大台のシンボルマウンテン総門山。季節や天候、時刻によって、見える景色も川の色も変わる。

ときには静寂の中ゆるやかに、ときには賑やかな笑い声に包まれてアクティブに。同じ体験は一度としてないからこそ、ファンになった人は何度も訪れたくなるのだろう。

Verde大台ツーリズム
三重県多気郡大台町下真手308番地
https://verde-odai.co.jp/

(文:ayan)

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