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「国が目指す循環型社会を高校で」学生開発のバイオバジルオイル

自治体の個性が光るふるさと納税返礼品の中でも、ひと際異彩を放っているのが三重県多気町のとある返礼品。県立相可高校の生徒が開発した「バイオバジルオイル」をご存じだろうか。相可高校は、ドラマ『高校生レストラン』のモデルにもなった学校。普通科、生産経済科、環境創造科、食物調理科があり、地域密着型の特色ある教育制度を充実させている。今回お話を伺ったのは、生産経済科で愛情豊かに生徒を育ててきた新谷和昭先生。相可高校農業クラブの学生にも登場してもらいながら、2018年に3R内閣総理大臣賞を受賞したバイオマスプラントの取り組みや、バイオバジルオイル開発のストーリーを辿っていこう。

高校で発見されたバイオマス発電廃棄物の農業利用

2018年、三重県立相可高校生産経済科はバイオマスプラントの取り組みが評価され、3R内閣総理大臣賞を受賞した。同賞は、リデュース・リユース・リサイクル(3R)の推進に貢献した功労者に贈られるものだ。受賞から遡ること3年。相可高校はバイオマス発電で発生する消化液について、何とかして農業利用する術がないか調査を始めたばかりだった。

「多気町がバイオマス発電所を誘致しているんです。バイオマス発電では、CO2、廃熱、消化液の三つが廃棄物として出てきます。CO2は、温室やハウスで活用すると植物に良い影響を与えます。排熱も暖房として活用できる可能性があるんです。ですが消化液は廃棄物として処理されるもので、あまり環境に良くないと考えられていました。そこで多気町役場から相可高校に『消化液を再利用できないか』という相談が来たんです。それならばということで、消化液を肥料として農業利用できるかどうか学校で調査を始めました」(新谷先生)

バイオマスとは、再利用可能な生物由来の有機性資源だ。石油や石炭などの化石資材はバイオマスには含まれない。家庭や飲食店などから出る生ゴミ、建設時に発生する木材、集落排水や汚泥などがバイオマスにあたる。こうしたバイオマスを発電のエネルギー源として再利用するのが、バイオマス発電だ。

バイオマス発電はCO2削減や循環型社会構築を叶え、化石燃料に代わるカーボンニュートラルな新エネルギーとして注目されている。多気町と相可高校はバイオマス発電から出る消化液の農業利用によって、環境への悪影響をさらに小さくすることを目指した。

「実は、バイオマスは昔から日本人が普通にしていたことなんですよね。食べ物を肥料にしたり、牛糞もですが人間の糞尿を農業に使っていた時代もありました。ですからバイオマスから出た消化液は肥料としてイケる、という見込みがあったんです。まずは空心菜、イチゴ、次郎柿の栽培で消化液の再利用を始めました。すると空心菜の栽培との相性が良かったんです」(新谷先生)

消化液活用の可能性を見出した相可高校生産経済科。消化液を使用して栽培した農作物の安全性も証明できた。土壌などに存在し、健康被害を引き起こすリスクを持つ硝酸態窒素削減の研究にも取り組み、持続的な農業の在り方を探っていたそう。その後も消化液再利用の調査と栽培を進めていたところ、秋田大学からとある提案を受けた。

「秋田大学で使用していたバイオマスプラントを相可高校に移転する、というお話をいただきました。研究で使用した後に処分する予定だということで、それなら移転させてもらって校内の農場にプラントを建てようと考えたんです。ただしプラントを秋田から三重へ運搬する資金は相可高校持ち。350万円程必要になりました。資金について生徒たちと相談していたら、『クラウドファンディングで資金集めよう』という話になったんです。クラウドファンディングで寄付を募ったところ、予算を超える400万円が集まりました」(新谷先生)

クラウドファンディングで集まった資金をもとに、2019年に校内にバイオマスプラントを設置。食物調理科の実習で発生する食品残渣や食品廃棄物の再利用が可能になった。限りある資源をリサイクルなどで有効活用し、循環させながら持続していく。国や世界が目指す循環型社会のひとつのかたちが、相可高校でスタートした。

栽培から商品企画まで生徒が手がけた「バイオバジルオイル」

相可高校で始まった循環型社会の仕組みは、さらに大きく発展していくことになる。

「ちょうどその頃、多気町の新しい特産品を作りたいと考えていました。バイオマスの消化液は空芯菜など葉物野菜の栽培と相性が良かったものですから、バジル栽培でも試してみたらやはり調子が良かったんですよ。バイオマスの消化液を再利用して栽培された、バイオバジルというわけです。バイオマスプラント移転のクラウドファンディングの時に、三重県の辻製油さんという会社が協力してくれたのですが、辻製油さんと相可高校の共同でバイオバジル商品開発が始まったんです」(新谷先生)

相可高校の生徒が栽培したバイオバジルに辻精油の菜種油を加え、一年ほどの開発期間を経てバイオバジルオイルの製品化に成功。オリーブオイルではなく菜種油を使用したことで、洋食にも和食にも合う味わいに。ラベルの爽やかな緑色からは、バイオバジルの香り高さが伺える。バイオバジルオイルは、多気町のふるさと納税の返礼品としても出品されている逸品だ。

「バイオバジルオイルの瓶の種類やラベルのデザインなども、生徒がアイデアを出しました。一度は見た目のオシャレさから透明な瓶を選んだのですが、オイルは日光で酸化してしまうため、なるべく日光を遮る色に変更したようです」(新谷先生)

中身にも見た目にも生徒のこだわりが詰まったバイオバジルオイル。商品開発の過程では、辻製油からこんな相談も受けたという。

「菜種油を作る工程でアルカリフーツという物質が出てくるんです。このアルカリフーツにも何かいい使い道がないかということで、相可高校で害虫忌避剤として使用可能かどうか調査を始めています」(新谷先生)

2015年に始まった、バイオマス発電で発生する消化液再利用のチャレンジ。年号は平成から令和に変わり、高校を卒業していった生徒もいる。今もなお先輩から後輩へとチャレンジは継承され、循環型社会のサイクルが回り続けているのだ。

世界初!高校のバイオマスプラントで栽培したバジルオイル
高校生レストランからお贈りする松阪牛のローストビーフ

地域の農業を継承するシャクヤク自家栽培

相可高校では近年、シャクヤクの自家栽培に力を入れている。高温多湿に弱いシャクヤクは、中国北部を原産地とする花だ。寒い地域でも暖かい地域でも栽培は可能だが、涼しい気候の方がより栽培に適している。日本では新潟や長野、富山などで栽培されていることが多いが、実は三重県でも美しいシャクヤクを咲かせることが可能だ。

「三重県では鈴鹿市がシャクヤクの有名な産地です。しかし鈴鹿市は高齢化が進んでいるため、相可高校に相談が来ました。以前は日本で生産されたシャクヤクは600t程あったのですが、近年は40t程に減少。シャクヤクは葛根湯など漢方薬として使われるため高値で取引されるのですが、ほとんどが中国産になりました。純国産のシャクヤクがあるのに外国産に負けている現状を何とかしたいと思ったんです」(新谷先生)

鈴鹿市と相可高校、多気町の株式会社サカキL&Eワイズを加えた三者で話をする機会があった。三重県産のシャクヤクを使った商品開発の話に場は盛り上がったものの、「やはり無理だろう」という諦めムードが漂ったという。

「私は『大丈夫ちゃう?』と思ったんですよね。暖かい地域でもシャクヤクは咲きますから。そこで鈴鹿市からシャクヤクを何株かもらって、相可高校で育てることにしました。ただしシャクヤクって、植えてから結果が出るまでに4年から5年かかるんですよ(笑)。1アール当たり平均300kg位を生産することを目標にしましたが、課題は量だけではありませんでした」(新谷先生)

「シャクヤクはぺオニフロリン含有量も大事で、このシャクヤク成分の含有率が2%以下なら漢方薬としての商品価値がないんです」(生徒)

育てると決めたならば、品質も維持しなければいけない。規格に定められた含有量2%以上を目指し、生徒が世代交代しながらシャクヤクを育てた。そうして数年かけて育てたシャクヤク初収穫の日。ペオニフロリン含有率を調べてみると、なんと3%を超えていたという。目標を達成し、商品価値の高いシャクヤクを多気町で生産できることがわかった。

「シャクヤクは収穫した後に株が残るんです。しかもその株は3つから5つぐらいに分けることができる。つまり1株を育てれば3倍~5倍に増えるので、シャクヤクの生産を増やしていけます。シャクヤクの栽培は年数がかかるので、下級生にも引き継いでもらわないと。今後は多気町より少し南方の大紀町でも生産できるか、生徒が中心になって調査する予定です。多気町から始まって大紀町へ、ゆくゆくは三重県南部の尾鷲市や熊野市もシャクヤクの産地になったら面白いですよね」(新谷先生)

クラスメイトと開発した商品「デオドラントスプレー」

無事にシャクヤクの栽培に成功した現在、相可高校ではシャクヤクを使用した商品開発も進めているそう。

「シャクヤクの花や葉には美白効果があるということが研究でわかってきまして、『デオドラントスプレー相可オリジナル』という商品を開発中です。生徒たちが始めたプロジェクトで、株式会社サカキL&Eワイズさんをはじめ多くの企業に協力してもらいました。」(新谷先生)

デオドラントスプレー相可オリジナルの開発を担当したのは、生産経済科2年生の3人。高校1年生のときからクラスメイトで、放課後に3人で集まっては商品開発にエネルギーを注いできたそう。相可高校の生徒の一日は忙しい。生産経済科の授業に実習、放課後は商品開発。さらに、農業高校の生徒を対象とした研究発表大会に参加することもあるのだとか。そうした学生生活の中で開発が進められたのがデオドラントスプレー相可オリジナルだ。

「生徒同士で会議をして、香りにもこだわったんですよ。シャクヤクの香りはそんなに強くないので、多気郡大台町にある宮川森林組合さんに協力してもらい、ヒノキやクロモジ、ユズなどのエッセンシャルオイルを加えています。デオドラントスプレー相可オリジナルのパッケージのデザインも生徒が考えたもの」(新谷先生)

原料のシャクヤク栽培だけでなく、資金集めやデザインも生産経済科の生徒が主体的に取り組んでいるのが面白い。シデオドラントスプレー相可オリジナルは、2022年8月20日販売予定。発売開始後は本数限定で、生産開発を手掛けた相可高校生徒のメッセージが添えられるという。相可高校では現在も、さらなる商品開発に意欲的だ。

「10年ほど前に宇宙飛行士の山崎博子さんが宇宙へ持って行った大豆があって、『宇宙大豆』と呼ばれています。その宇宙大豆を相可高校でも育てているんです。育てた宇宙大豆を、三重県名産品の伊勢茶と掛け合わせたらどうかと考えています。三重県はお茶の生産地として日本一の時期がありましたけど、最近は3位。伊勢茶復活への想いがありまして、できることを探しています。宇宙大豆のような製品をふるさと納税返礼品にできたら面白いですよね」(新谷先生)

大学さながらに研究し、大人顔負けのビジネスを展開している相可高校の生徒たち。若いながらも、多気町役場や地元企業から頼られる存在だ。地域に根ざす県立高校だからこそ、生徒の活動が多気町や三重県に与えるインパクトも大きいはず。相可高校の取り組みによって、作物だけではなく地域の人々のエネルギーも循環していくのだろう。

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