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「地域の人が活躍する場所として」リゾート施設の先駆的なチャレンジ【VISON】

三重県多気町に誕生した、日本最大級の商業リゾート施設「VISON(ヴィソン)」。2021年7月のオープンから一年が経ち、約75施設や店舗が賑わいを見せている。VISON代表の立花哲也さんによると「VISONは地域の人が活躍できる場所」だという。地域の山の恵みや海の恵みを味わえる店舗のほか、林業がさかんな三重ならではの木工体験施設、発展を続ける農園エリアなども充実。全国的にその名が知られつつあるVISONの先駆的なチャレンジについて、立花さんにお話を伺った。

何度も訪れたくなる商業施設VISON

VISONの敷地面積は54ha、実に東京ドーム24個分に相当する。一度や二度訪れただけでは、VISONを隅々まで楽しむことはできない。複数のエリアが設けられ、それぞれがユニークなコンセプトを持っているからだ。

マルシェ ヴィソンやスウィーツ ヴィレッジのエリアには、地域の生産者が出店する「軽トラマルシェ」、地産地消をコンセプトとした辻口博啓氏のパティスリー「Confiture H」などが並び、オープン当初から話題となっている。

木育エリアにあるのは、大人も子どもも楽しめる体験・体感型施設「kiond(キオンド)」。ワークショップや木製の大きなジャングルジムなどを通して自然と触れ合うことができる。健康志向が高い人は、薬草湯やウェルネスメニューを味わえる本草エリアもおすすめだ。持続可能な農業をテーマにした農園エリアは、学びの場として活用されることも多い。美食をコンセプトにしたサンセバスチャン通り、日本食の魅力を伝える和ヴィソンでは、質の高い食事を堪能できるなど、どのように滞在するかは、訪れる人次第で変幻自在なのだ。

「サンセバスチャン通りには、マルコメさんが発酵カフェ『糀茶寮 Produced by 魚沼醸造』を出店。ホテルにはH.I.S.ホテルホールディングスと住友林業さんが運営するホテルが入っています。これまでは地方に出店することが少なかった企業が、いま、出店してくれているんです」

地方の大型商業施設というと、ナショナルチェーンによってパッケージ化されたものが多いと立花さんは感じていた。VISONでは多種多様な企業に出店してもらい、ここにしかない魅力を発揮し始めている。「minä perhonen museum shop」「D&DEPARTMENT MIE by VISON」「くるみの木 暮らしの参考室」といった、暮らしに寄り添うアイテムを扱う個性的なショップも集う。

D&DEPARTMENT MIE by VISON

「VISONに出店した企業を通して、日本の食文化やデザインといった価値を地域に提供できたのではないかと考えています。地域の雇用という意味でも価値があるかもしれません。VISONにこれだけの企業が出店しているならと、大阪や東京からIターンやUターンする人もいらっしゃるようです」

minä perhonen museum shop

宿泊機能も無視できない。HOTEL VISON(ホテルヴィソン)は、6棟のプライベートヴィラおよびホテルタイプの客室で、ホテルタイプは全155室と大型だ。また、4棟40室で構成される旅籠ヴィソンは、1棟ごとに異なる演出をしているため、選ぶところから楽しめるだろう。身体と環境を2つの「野=フィールド」とし、「野に遊び、野に学べ」をコンセプトに心身と自然環境をつなぐ場を提供する宿泊施設となっている。日帰りではもったいない同施設を十分に堪能するには、いずれも必要不可欠なものだ。

VISONで再評価される生産者のこだわり

マルシェ ヴィソンで扱っている野菜や魚介、肉などは、多気町を始めとする地域の生産者によるものが多い。オーガニック野菜や獲れたての魚など、こだわりの食材に出会うことができるのだ。

「紀北町で底引網の漁師を営んでいるご家族がいるのですが、お母さんが相談に来たことがありました。息子さんとおじいちゃんが獲った魚をVISONで売りたいという相談です。紀北町ではのどぐろやガスエビなど珍しい深海魚が獲れます。ですが東京の築地ならば十倍や二十倍の値が付くのに、地域の市場に出すと数百円程で買い叩かれてしまう。僕は『(大阪や名古屋のような)高い値段で売ってもいいよ』と言っています。

そんななか、そのお母さんは頑張って仲買いの権利を買い取ったんです。息子さんが獲った魚を市場で自ら落札し、自分が業者になって価格を付け、VISONで売るようになりました。名古屋や大阪の人はその値段を見て『安い!』と言って買っていくんです」

地方と都市部との間で生じる価格差が、生産者を悩ませている実情がある。価格が安いことは消費者にとって利益になるが、そのものの価値が数字に現れにくくなっているのかもしれない。

「毎日、家族で海に潜っている海女さん家族もいますし、那智勝浦の鮪を売りに来る𦚰口水産さんもいます。VISONで売っているものは高いという声もありますが、ブランディングしていかないことには生産者さんも成り立たない。地域から人がいなくなっていますから、地域の値段で売っていけばいいというものではなくなってきました。昔と比べると、漁師さんも農家さんも少なくなっています。VISONで売られているものの価格が高いのは、こだわりのあるものをブランディングして生産者たちに売上歩合で還元するため。Win-Winな関係を作っていってもらいたいんです」

VISONが生まれたことで、地域の生産者のこだわりが価格にも反映されるようになってきた。ただし都市部からの訪問者の満足度が高い一方で、地域住民との関わり方には課題を感じているという。

「本当は、生産者と地域コミュニティの関係性が大事なんです。地域の方々にこそ、VISONの良さをわかってもらわなくてはいけません。今はVISONに来てがっくりする人と、来て良かったという人と半分半分で極端なんです。(アーケードではないから)雨が降ったら濡れるし、コンビニも自販機もない。こういったところを不便に感じる人もいるようです。『VISONは高い、暗い』という声も聞こえてきます。ですが価格は生産者に還元されますし、照明が少ないから夜になると星が綺麗に見えるんですよ」

デジタル技術の活用で目指す、持続可能な地産地消

第一期のオープン以来、新しいエリアが次々と追加されてきたVISON。現在特に力を入れているのが、農園エリアのさらなる発展だ。VISONの農園エリアはキユーピー株式会社の協力のもと運営され、公益社団法人 全国愛農会元会長の村上真平氏が監修。オーガニック野菜や土の香りを満喫できるのが魅力だ。そんな農園エリアで目指すのは、100年、200年続く村づくりだという。

「将来的には、農園エリアをサステナブルな自給自足エリアにしたいんです。電気を自家発電にしたり、水道も自給できたらいいですよね。VISONでは地域とDXにも取り組んでいて、デジタル田園都市国家構想に採択されました」

デジタル田園都市国家構想とは2021年に国が掲げた政策だ。地方創生の一環として地方都市のデジタル化を推進し、人口減少や産業の空洞化、インフラ衰退などの課題解決を目指す。

「2022年は、三菱電機さんがVISONで無人搬送ロボットの実証実験を本格的に取り組んでいます。あとはデジタル地域通貨の取り組みを開始します。なぜ地域通貨なのか。観光客がホテルを予約するときは大手の予約サイトを使うことが多いですよね。ですがその場合、ホテルは手数料を取られます。つまり予約サイトを経由すると、宿泊施設の儲けが減るんです。クレジットカードやデジタルマネーの支払いもそうですよね。手数料が取られますので、地域の負担が発生します」

収益の問題に加えて、情報の利活用の面でも立花さんは課題を感じているという。

「予約サイトを経由すると、宿泊客のデータもプラットフォームに吸い取られてしまいます。すると地方が自分でマーケティングしにくくなるんです。お金と情報を都市部に吸い上げられてしまって。VISONでは、地域にしっかりとお金と情報が残るようにしたいんですよね」

VISONで地域の魅力を発揮してもらい、得られた収益を地域で循環させる。立花さんはそのためのデジタル化を進める一方、昔ながらの自給自足モデルとの両立も目指している。

「かつての里山モデルの復活を目指しています。たとえばオフグリッドの自給自足。太陽光やバイオマスなどの技術を使えば直利用できるのではないかと考えています。多気町が地産地消のモデルとなれるように動き出しています。『やれる』ではなく『やろう』。そういう気持ちを持った人たちが集まってくれているところです」

地域の人が輝ける場所としてVISONのこれから

VISONがチャレンジしているのは、地方が持つポテンシャルとデジタル技術を掛け合わせ、町の価値そのものを高めること。未来を見据えたこのチャレンジで、多気町はどのように変わっていくのだろう。

「VISONは地域の人が遊ぶための商業施設というよりも、地域の人が活躍する場所。地域の生産者が作っているもの、育てているもの、地域で働く人をVISONでクローズアップしたいんです」

立花さんの目に映る多気町は、多様な魅力を持った可能性あふれる町なのだという。

「地方では、便利さを求める傾向があって、その分、自分たちの良さを忘れてしまうこともあります。たとえば地域のまんじゅう屋さんや漬物屋さん。手作りだったり何かしらのこだわりを持って仕事を営んでいる生産者さんたちがたくさんいたのですが、最近はとても少なくなってきました。そういう人たちやその家族にVISONで活躍してもらいたいんです」

VISONでは多気町のみならず、三重県の特に中南勢地域の活性化にも積極的だ。2022年5月から6月にかけては「熊野フェア in VISON」を開催。このイベントは熊野市との共催だったそう。

「VISONに熊野市の生産者を招いて熊野の特産品や加工品を販売してもらったり、VISON内のレストランで熊野市の食材を使ったりしました。VISONではこうした地場産業の取り組みを今後も続けて、三重県内の全部の自治体と一緒にやっていきたい。多気町だけのための施設にするのではなく、外に向けて開放するプラットホームになれたらいいですよね。多気町が案内役のようになって、外へ向かって送客するんです。そのためにはVISONが単に商業施設として存在するのではなく、デジタルの階層でも地方創生に繋がっていくことが重要。デジタル田園都市国家構想が多気町で機能するようになったら、周囲の町にも広げていきたい。たくさんの企業が集まってくれましたので、これからVISONでいろんなことが起きるだろうなと楽しみにしています」

VISONは地域の人が活躍し、その価値を高め合うことができる場所。訪問者もまた、VISONで過ごすうちにワクワクドキドキが湧いてきて、自分の中の輝きを見つけられるはず。三重県やその周辺に立ち寄る予定があるときは、車やバスに揺られながらVISONを目指してみてはいかがだろう。

VISON

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