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宮島で人力車から伊都岐珈琲経営へ「意識されないスペシャルティを」【伊都岐珈琲】

広島県廿日市市宮島町(はつかいちし みやじまちょう)で「宮島生まれ宮島育ち」のスペシャルティコーヒーを味わえる。厳選されたコーヒー豆を自家焙煎して提供するのは、伊都岐(いつき)珈琲 宮島だ。オーナーの佐々木恵亮さんは、宮島で複数のコーヒーショップやカフェを展開。佐々木さんが起業以来ずっと続けてきたのが「宮島でコーヒーのあるライフスタイル」を提供することだ。宮島に惚れ込んだという佐々木さんに、スペシャルティコーヒーが身近にある暮らし、宮島の魅力などを伺った。

スペシャルティコーヒーをぐっと身近に

伊都岐珈琲が位置するのは、世界遺産の嚴島神社や五重塔がある宮島。オーナーの佐々木さん自ら毎朝コーヒー豆を焙煎し、店内にはスペシャルティコーヒーのフレッシュな香りが漂う。

「本当にいいものを調達したいんですよね。伊都岐珈琲でなぜスペシャルティコーヒーを扱うかというと、僕自身がスペシャルティを飲みたいから(笑)。だって美味しいコーヒーがあるとわかったら、絶対に飲みたくなるじゃないですか」

スペシャルティコーヒーとは、コーヒー豆に関する国際基準をクリアしたコーヒー。テイストのみならず、豆の産地である農園の生産管理・品質管理も審査対象だ。伊都岐珈琲では仕入れたコーヒー豆は自家焙煎する。ここにも佐々木さんが譲れないこだわりがある。

「僕が大事にしてるのは、いかにフレッシュローテーションしていくか。豆をたくさん焙煎してストックするのではなく、こまめに焙煎しているんです。焙煎したら、焙煎日を記します。賞味期限だけでもいいですけど、やっぱり焼き立てが嬉しいし美味しい。人気のパン屋さんもそうですよね。『あのパン屋さんに行けば焼き立てのパンを買える』というのが嬉しい。そこの焙煎に関して、僕たちは正直にやっていこうとしています」

産地や品質、鮮度にもこだわった伊都岐珈琲のスペシャルティコーヒー。宮島観光の足休めにぴったりの味わいで、絶景を眺めながら飲むのがおすすめだ。

「本当に美味しいコーヒーを身近に、という考えでやっています。今のところに行き着くまでに、焙煎機だって何台変えたかな」

試行錯誤を経た伊都岐珈琲のスペシャルティコーヒーは、直営店のカフェやショップでも味わえる。手作りケーキやモーニング、ランチなどカフェ利用も人気の「sarasvati」(サラスヴァティー)、庭園カフェ「天心閣」、ショッピングモールレクト内にある「伊都岐珈琲 LECT」(レクト)、フェリーのターミナル沿いにある「伊都岐珈琲 etto」(エット)、ettoの2階に位置する「伊都岐珈琲 the terrace」(テラス)といった店舗がある。

コーヒー豆はオンラインショップからも購入可能。宮島の豊かな自然の中で焙煎されたスペシャルティコーヒーを、自宅でもまったりと堪能できる。

宮島で人力車からコーヒーショップ経営へ

広島市安佐南区出身の佐々木さん。宮島に魅せられたのは大学生の頃だったという。

「大学時代に友人3人と学生ベンチャーを立ち上げ、宮島で人力車をしていたんです。人力車って観光案内が主な仕事になるので、お客さんから宮島のことを聞かれたら答えないといけない。生まれも育ちも宮島の人間じゃないんで、いろいろ調べたり教えていただいたりしていました。土日は宮島で人力車をして、平日は大学生として勉強したり、コーヒーショップでアルバイトもしていたんですよ」

周囲の学生が就職活動をする中、佐々木さんは2006年に喫茶店をオープンさせることに。

「起業の経験があったので、お店を運営できるという漠然としたものがあったんですね。それで自家焙煎で小さくスタートさせたんですけれども、やっぱり生きていくのに精一杯。路地裏の、誰も来ないような場所で始めたので、お客さんもそんなに来なくて、夜12時まで開けていました。23歳だったので、多少失敗してもどうにかなるかという軽い頭と、無知でやっていました(笑)」

コーヒーショップでのアルバイト経験はあったものの、いざ経営者となってみるとその難しさを痛感したそう。

「そもそもコーヒーの仕入れって結構難しいんです。特に当時はコーヒー生豆を販売するオンラインショップが普及していなかったので、生豆の入手自体が難しい状況。ですから創業時は、コーヒー生豆をたくさんの量で仕入れることができませんでした。ちょっとずつ量を増やして、店舗も増やしてという感じでやってきました」

スペシャルティコーヒーを提供するようになったのも、その味わいが好きだからという理由以外にも、こんな事情があった。

「スタンダードコーヒーのゾーンは、巨大企業がいるので勝てない。中小零細企業は、大きい壁に針で小さい穴を開けるようにして、活路を見出すしかないんですよね。そうしていたらスペシャルティブームが起こったんです。お店のスタート時期が2006年だったのは、めっちゃラッキーでした」

2009年には、2店舗目のカフェ「sarasvati」を開店。その頃には、日本でも高品質なコーヒーを愛飲する人が増えていた。2015年には東京にブルーボトルコーヒーが上陸。スペシャルティコーヒーの存在がさらに浸透するように。

「サードウェーブという言葉もあるように、コーヒーブームのおかげでうちの業績も伸びてきたんです。今ではコーヒーの仕入れでちゃんと取引できるようになりましたけど、最初の頃は今みたいにネットも発達していなかったので、難しかったですね」

sarasvatiは大正初期に建てられた土産物卸問屋をリノベーションした古民家風カフェ。

「それまでは、焙煎は人に見せない裏の場所でやってたんですけど、思い切って店の一番前で焙煎してみたんです。カフェだけど、コーヒーのカラーが出るお店になりました」

現在、saravatiでは焙煎機が撤去されたが、ケーキやサンドイッチなど軽食を楽しめるカフェとして愛され続けている。

宮島でコーヒーのあるライフスタイルを

国内外から観光客が訪れる宮島は、自然も豊かで心落ち着く時間が流れる地域。宮島で暮らしを営む佐々木さんに、その魅力を聞いてみた。

「僕は宮島に惚れ込んで来たんです。焙煎所を作る場所を探していたとき、宮島の外に拠点を作るかという話もありました。ですが悩みに悩んで、自然豊かな宮島のこの場所に焙煎所を作ることに決めたんです。裏には山もあって、美味しいものを作れそうじゃないですか」

宮島は広島湾に浮かぶ小さな島。海に囲まれ、神社仏閣を包み込むようにして森林も多い。

「コーヒーが好きなんですけど、ライフスタイルもすごく大事にしています。焙煎室もそうだし、自分の拠点となる場所選びは重要視しました。やっぱり自分の心って、環境に左右されやすいですよね」

佐々木さんのお気に入りスポットのひとつが、古くからの伝統や自然が色濃く残る弥山(みせん)だ。

「弥山は空海が修行したなど、いろいろな言い伝えがある山。僕も年間で2、30回は絶対に登ります。水筒にコーヒーを入れて登るんですよ。弥山から見る瀬戸内の多島美がすごく綺麗。たくさんの島々が見えて、天気がいい日は四国まで見渡せますよ」

瀬戸内海に面する宮島は、ビーチの美しさも抜群。ここで暮らす人だからこその楽しみもあるのだとか。

「週に3回は夕方の仕事終わりに海に行きます(笑)。自然が本当に豊かですね。僕は宮島の外で生まれ育ってきているから、やっぱり新鮮なんです。外国からの観光客って多いんですけど、そういう宮島の良さがもっと国内の人にも伝わってほしいですね」

心洗われるロケーションでいただく、格別のスペシャルティコーヒー。なんとも贅沢に思えるが、佐々木さんが考える理想的なコーヒーの味わい方は実にさりげない。

「うちのコーヒーを飲んでもらうなら、意識されないぐらいが嬉しいんです。コーヒーには独特のフレーバーを持つ商品もありますが、(伊都岐珈琲の)ベースになっているのは、深煎りのしっかりとした味。自家焙煎しているから、クリーンな味になります。でもそんなことは意識せずに、宮島の景色を見ながら飲むコーヒーがいいなと思うんです。意識されないぐらい生活に溶け込んでいたり、その時間とかに溶け込めるコーヒーがいいですね」

23歳で一号店をオープンさせてから十数年。佐々木さんの宮島ライフはこれからも続いていく。

「旅する感覚でここに来て、今も半分位はそういう感覚でいる気がします。それが一生続けばいいなと思うんです。旅に出るときは多分、より新鮮な何かを求めているじゃないですか。そういう感覚を持ち続けたいですね」

友人と飲む一杯のコーヒーや旅の休憩のお供になるコーヒー。宮島で味わうスペシャルティコーヒーは、そんな風にさりげなく寄り添ってくれる。自然や文化を感じつつ、宮島生まれ宮島育ちのスペシャルティコーヒーをぜひ堪能してみてほしい。

伊都岐珈琲

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