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プール跡地をバーラウンジへ〝志あふれる地域のリノベホテル〟【キロ広島】

広島に誕生した KIRO 広島 by THE SHARE HOTELSは、「瀬戸内ローカルへの分岐路」を掲げたライフスタイルホテルだ。ホテルをハブとして、地域の文化やグルメ、アート、人々に触れ合う旅を提案。屋内プールを大胆にリノベーションしたバーラウンジ、日替わりでバリスタが変わるコーヒースタンドなど、なんともユニークな空間が広がる。支配人の膳智弘さんに、KIRO 広島だからこそできる旅の楽しみ方、地域との共生について伺った。

KIRO 広島で深まる瀬戸内ローカルの旅

「瀬戸内ローカルへの分岐路」を目指すKIRO 広島は、街の中心地に位置し、瀬戸内観光の拠点にぴったり。KIRO 広島を訪れたら是非とも立ち寄ってほしいのが、1階にあるドリンクスタンド「cicane -liquid stand-(シカネ リキッドスタンド)」だ。

「シカネのコンセプトは、旅の給水所。コーヒーを淹れるバリスタの腕がまず一流なんですけど、バリスタは毎日同じ人ではないんです。広島各地のローカルプレイヤーであるバリスタさんに、日替わりでお店に来ていただいていて、それぞれのバリスタさんが地域の魅力やディープな情報をお客様にお届けしてくれます。コーヒースタンドではあるのですが、お客様の『この後どうしよう』というところに情報を給水していくかたちです。お客様にはより一歩踏み込んで、地域のディープな楽しみを体験してほしいと考えました」

KIRO 広島は、築29年の地上6階・地下1階建ての複合ビルを、リノベーションを軸に不動産事業を展開する株式会社リビタがプロデュース・運営を手がけ、ライフスタイルホテルへと生まれ変わった。

「リノベーション物件なので、元々がホテルじゃないところをホテルにしています。そこはちょっと異質かなと思います」

クリニックでリハビリテーションのために使用されていたプールは、バーラウンジ「THE POOLSIDE」へと変身。朝は日差しが差し込む朝食スペース、夜はお酒を楽しめるくつろぎのバーラウンジになる。宿泊客が利用するほか、地域住民などもこの場を活用しているそう。

「素材の良さをそのまま残しているんです。THE POOLSIDEの隣にはシェアキッチンを作りました。プールサイドでお酒を楽しんだり、イベントをしたり。地域プレーヤーが仕事やポップアップをすることも。こうした活用方法は形式ばったホテルではなかなか難しいと思うのですが、KIRO 広島はオープンで個性が発揮されやすい環境だと感じています」

館内には地域の物販商品のディスプレイや期間限定でアクセサリーのポップアップなども行われている。

「地域に職人さんやクリエイターさんがいるので、そういった方々の発表の機会の場になってほしいです。旅行者にとっては、地域の作家さんの作品に出会える場でもあります」

瀬戸内ローカルの旅行者と地域をつなぎたい

瀬戸内ローカルの分岐路として、地域と観光客をつなぐことを目指すKIRO 広島。KIRO広島を含む全国に9店舗を展開するホテルブランドTHE SHARE HOTELSのビジョンは、地域との共生だ。

「THE SHARE HOTELSを展開する株式会社リビタは京王グループを母体とする不動産リノベーション会社で、2005年に創業されました。不動産事業を核にコミュニティ作りや場作り、まちづくりの事業にも注力しています。シェアスペースやシェアオフィスなど、人々が集まる場も展開しており、そのノウハウを活かして2016年にホテル事業「THE SHARE HOTELS」をスタートさせました」

THE SHARE HOTELSの事業の中で、7番目にオープンしたのがKIRO 広島。瀬戸内ローカルへの分岐路というコンセプトには、こんな想いが込められた。

「瀬戸内エリアの魅力に触れる旅の出発地点になってほしいです。瀬戸内エリアの方たちにこの空間に来ていただいて、魅力的なコンテンツを発信してもらい、旅人がそこに触れる。旅なんだけど暮らしに溶け込んだり、暮らしている人も旅行者と接点を持ったり、そういう場にしていきたいですね」

初めての場所を旅したとき、有名な観光スポットや目玉グルメを楽しむ人は多いはず。そこからさらに奥深くにある、地域が持つ魅力に気付けるかどうかも大切だ。

「『このエリアならあのお店が美味しい』『締めはこれ』みたいな、ガイドブックには載っていない情報ってあるじゃないですか。旅の上級者なら行けるかもしれませんが、最初からローカルのディープな場所に辿り着くのは難しい。KIRO 広島ではバリスタがそうした情報を教えてくれるので、ホテルをスタートとして街に溶け込みやすいと思いますよ」

旅を通して街に溶け込む感覚を、膳さんはかつて体験したことがあるという。子どもの頃からサッカーひと筋だった膳さん。大学在学中後はサッカー留学のためドイツへ飛び出した。

「アンダーカテゴリーで、ギリギリボロボロの生活をしていました。ちょうど父親が定年するタイミングで、サッカーだけでビザが成立しなかったら辞めると決めていたのですが、僕が23歳のときにその時期が来て、サッカーを辞めたんです」

日本の大学に復学するまでに、半年ほどの空白ができた。そこで膳さんはヨーロッパを巡ることに。

「せっかく来たんだし、できる経験をしようと思ったんです。お金もないので、ゲストハウスや格安空港を使い、いろいろ移動しながら半年ぐらい過ごしました。そのときに現地の人たちがディープな情報を教えてくれたり、良くしてくれたのが原体験になったんです」

瀬戸内に暮らす地域のプレーヤーとの連携

KIRO 広島はホテルでありながら、地域住民が集まるコミュニティスペースの機能も持つ。地域との共生を目指すKIRO 広島にとって、ここに集まる地域プレーヤーはいわば同志のような存在なのだそう。

「CLS(Culture Leaders Salon)という、地域カルチャーの担い手が集まるコミュニティが、KIRO 広島で活動されています」

一階にある CLS counterでは、CLSとKIRO 広島が連携してイベントや物販の販売などをすることも。

「CLSは、広島県内の各方面で活躍するキープレーヤーたちが交流する、会員制の事務所です。工芸やアート、ものづくり、研究者など、さまざまな分野の人が参加しています。企業にお勤めの方もいれば、個人で独立された方もいて、ここで生まれたアイデアで瀬戸内の魅力を発信したりしています」

CLSの集まりに参加することもあるという膳さん。そこではたくさんの刺激をもらえるのだとか。

「経験豊富な地域プレーヤーが集っていますが、皆さんに共通しているのは、自分だけのために動いているわけではないこと。視点が広島であったり、日本を元気にするためであったり、weの視点で語られることが多いんです。自分一人で何かするというよりは、共感してくれる仲間を集めて展開していく。皆さんで推進力をどんどん掛け合わせているようなイメージですね。それがすごく面白いですし、まさに地域との共生だと感じています」

広島で地域のプレーヤーが積極的に動き出しているのは、人口流出など地域の課題が見えているから。総務省が発表した「住民基本台帳人口移動報告」によると、2021年と2022年の2年連続で、転出超過が全国ワースト1位だったのだ。

「広島はめっちゃいい町なんですけど、人口流出が多い。これってすごく寂しいことですよね。未来の人たちのために何かできることをしようというのがキーワードだと思っています」

KIRO 広島が考える、これからの地域のための役割を聞いてみた。

「僕たちは、ホテル単体で地域の課題を解決していこうとは考えていませんし、難しいと思うんです。ですが地域の多様なプレーヤーの皆さんが集まってくれる場になってきています。その方々と連携する中で、地域の魅力を広く発信する場だったり、新たな地域コミュニティや事業を形成する場としての役割を果たしていくことで、地域の発展に寄与していきたいです」

サッカー少年からホテルの支配人への転身

サッカー留学を経て、帰国後は日本企業に就職した膳さん。新しい目標設定には、海外を見てきた膳さんならではの考えがあった。

「サッカー日本代表になりたいと思っていましたし、外国で過ごしたからこそ、日本の魅力や良さを自分でも発信できる人になりたいと思ったんです。それで、日系企業の観光産業で働きたいと考えました。」

その後星野リゾートに入社し、軽井沢や熱海、京都など日本有数の観光地に赴任。企画開発からオペレーションに至るまで、ホテル運営に関する幅広い経験を積んできたという。

「そうする中で、さらに地域に溶け込んでいったり、町と一緒になって事業展開していきたいと思うようになりました。転職活動をしてみて、「地域との共生」というビジョンがすごく僕の考えにフィットして、THE SHARE HOTELSを展開するリビタに入社しました」

2023年にKIRO 広島の支配人に就任。ホテルの運営は、サッカーに似ているところが多いそう。

「サッカーもホテル運営もチーム競技だと思っています。戦略やセオリーはあるんですけど、実際にそれをお客様に対して発揮する瞬間の意思決定は、選手つまりスタッフ個人に委ねる部分がありますし、そこが魅力だと感じているんです」

ホテル運営で悩んだときは、まずはサッカーに置き換えて課題を抽出する。

「『サッカーだったらどうだろう』と、思考を変換しています。サッカーはピッチの内側も外側も大事ですが、ホテルもそうなんです。オペレーションだけやってもうまくいかない。仕事を振り返りながら、『もっとこうした方がいいな』と反省の日々です」

膳さんに、KIRO 広島の支配人として日々意識していることを聞いてみた。

「できるだけ支配したくないんです(笑)。支配という名前は付いていますけど、支えていただいて配っていただいて、という意味の支配でありたいですね。今はチームが勝てるように、自分自身の立ち振る舞いやポジショニングを考えています」

地域の志が集まる拠点としてのホテル像

2019年にオープンしたKIRO 広島。観光客と地域をつなぐこの場所から、広島はどんな街に見えているのだろう。

「KIRO広島周辺にはパルコを中心とした飲食店街がありますし、血が通いやすい構造の街だと思います。歴史や自然環境も豊富。見る・買う・食べるが全部ギュッと詰まっていて、循環にも適しているのではないでしょうか」

5年後、10年後の広島を見据えたとき、KIRO 広島ではどんな展望を描いているか聞いてみた。

「この辺りに引っ越してきたテナントさんや企業さんにとって、『ここから頑張ろう』という場所として選んでもらったり、KIRO 広島が最初のスタートの場になってくれたら嬉しいですね。KIRO 広島はホテルなんですけれども、シームレスに地域の皆さんと関わっていく機会がすごく多いです。バリスタさんと地域の人が友達だったり、その繋がりで『今度はマルシェをやってみようか』みたいなこともありますよ」

膳さん自身、ここに集まる人との出会いを楽しみながら仕事をしているそう。

「地域のプレーヤーの方々に、ディープな情報を教えていただくのも楽しいです。広島の人たちって情緒的なコミュニケーションをされる方が多いなと感じています。機械的にやらされているのではなく、やりたい人が集まって、weの視点を持っている。そういう志がある人がたくさんいるのが、広島のポテンシャルですよね」

ホテルの中にも外にも、地域の志やライフバリューがあふれているのが広島の魅力。これからますます進化を遂げていきそうだ。

「KIRO 広島の施設としての進化には限りがありますので、ここができたことによって地域にいろんな取り組みや事業が生まれたり、広島の良さを充実させる一助になればと思っています」

せっかく旅行に来たならば、地域の魅力や特色を味わい尽くすのが旅の醍醐味。瀬戸内ローカルの旅を計画するときは、KIRO 広島を拠点にディープな体験を楽しんでみてはいかがだろう。

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