読むふるさとチョイス 地域の挑戦者を応援するメディア

「ブランド鯛に希少柑橘類を入れる」高校生のアイデアを採用「日本で一番遠い町」で誕生した愛南ゴールド真鯛とは【愛媛県愛南町】

全国各地のふるさと納税を通した取り組みを表彰する「ふるさとチョイスAWARD」。事業者が主体となって地域のブランド力を高めたり、雇用・経済の活性化やまちの魅力づくりに貢献した取り組みを選出するのが「チョイス事業者部門」だ。同部門で大賞を受賞したのが、愛媛県愛南町が誇るブランド鯛「愛南ゴールド真鯛」を扱う有限会社ハマスイと南宇和高校だ。これまでの取り組みを振り返りながら、多方面で評価されたアイデアとこだわりを探った。

高校生から企業に提案し実現したコラボレーション

「日本でトップクラスの田舎」。愛媛県愛南町に暮らす高校生の浅野希央さんは、自分の住むまちをそう表現する。東京の羽田空港からの所要時間は約8時間。高速道路も鉄道もない四国の辺境で、「日本で一番遠い町」を自称しているという。

彼女が自分の住むまちについてそんなエピソードを披露したのは、「ふるさとチョイスAWARD 2023」のプレゼンテーションの場。多くの知見ある大人たちが集った東京の会場で、背筋を伸ばして語る彼女は、実に堂々とした出で立ちだった。そしてそのプレゼンテーションの後、愛媛県愛南町が誇るブランド鯛「愛南ゴールド真鯛」は「チョイス事業者部門」の大賞を受賞した。

そもそもこの「愛南ゴールド真鯛」は、町名を冠しているだけあり、愛南町でしか生み出せない名品だ。開発のきっかけは、地元で40年以上魚市場の仲買人を務める有限会社ハマスイの濵田嘉之社長のもとに、南宇和高校の生徒たちが訪れたこと。

眼前に海が広がる愛南町では、養殖真鯛の生産が全国2位となるほど、豊かな海の幸がある。当時、濵田嘉之社長はそうした水産資源を活用すべく、稀有な技術を取得し、特許を取得していた。魚の体内の血をすべて抜くという特殊な技術だ。

「決して簡単なものではなく、それなりにテクニックが必要な技術です。特許を取得した技術では毛細血管を含めてすべての血を抜くので、魚特有の臭みがなくなります」。さらに濵田社長は血を抜いた場所に再度液体を注入することで、新たな風味を生み出そうとしていた。魚の体内に入れる液体は、ワサビはどうかショウガはどうか……そう試行錯誤していたときに、特産の柑橘を手に地元高校生が訪れたのだ。

濵田社長はもともと、魚の体内に柑橘類の液体を入れる発想自体は持っていたという。ただし、どんな柑橘類がいいか考えあぐねていた。そこに訪れた高校生たちの手には、特産の愛南ゴールドが乗せられていた。日本一の生産量を誇る希少な柑橘類であり、しかも高校生たちが自ら栽培、農産物の国際規格であるグローバルGAP認証を取得しているものだった。「これだ!」と感じた濵田社長は「愛南ゴールド真鯛」の開発に取り組んだ。

それでも開発は決して簡単ではなかったという。養殖真鯛とはいえ、鯛には個体差がある。どのぐらいの量の愛南ゴールドの液体を注入するのがベストかという試験が繰り返し行われた。さらに苦労したのは、いつの時期の愛南ゴールドを使うかということ。春から夏にかけて収穫できる愛南ゴールドは、時期によって味が異なるのだ。研究を重ね、酸味と糖度が高い1~2月の愛南ゴールドと真鯛の相性が抜群にいいという結論に達するまで、実に2年の月日を要した。

こうしてできあがった愛南ゴールド真鯛は、この地だけの味となった。高校生の浅野さんも「愛南ゴールドのさわやかな風味があり、身が引き締まっていてプリプリで、とてもおいしい」と太鼓判を押す。魚が苦手な人にもおいしく食べてもらいたいという濵田社長の当初の思惑が具現化した商品となった。

15歳未満10%以下の人口消滅都市に潜む魅力

高校生たちが愛南ゴールドを手に濵田社長のもとを訪れたきっかけは、南宇和高校の地域振興研究部の活動の一部だ。その名のとおり地域振興を研究するという珍しい部活動で、以前から地元企業とのコラボレーションなど地域振興活動に取り組んできた。

「若い高校生たちが地域を良くしようと活動している。教員の方々も高校生と地元産業を結び付ける活動に熱心に取り組んでいます。こうした活動があって生まれた愛南ゴールド真鯛は、味はもちろんのこと、ここにしかないストーリーがあります」(濵田社長)

濵田社長は愛南ゴールド真鯛について、「愛南町の海の宝と山の宝が合わさったもの」と表現する。さらに地元企業と高校生が時間をかけて創り上げたという開発の過程も、味を一層ひきたてるストーリーとなっている。

「愛南町のいいところは、海があって山がある。学校帰りに友達と海を見に行くこともあります。とにかく人があたたかくて、歩いていると声をかけられることも多いです。食べ物も豊かだから、近所の人たちからおすそわけをもらう機会も多い、そんな地域です」(浅野さん)

ただし多くの地域同様、愛南町が抱える課題も少なくない。町内には大学がなく、大学進学を機に町外へ転出し、そのまま帰ってこない人が多い。そのため、愛南町はいずれ消滅してしまう危機にある消滅可能性都市と言われている。高齢者の割合が45%を超え、15歳未満の割合も10%を下回っている。昭和60年には3万人いた人口も、令和2年にはついに2万人を割り込んだ。

「地場産業が少なく、仕事がないというのもあります。このまちにいたくても、仕事がないからやむを得ず外に出るという方もいる。だからこそハマスイでは地元の方々を雇用し、地元を誇れる企業になってほしいと40年間続けてきました」(濵田社長)

田舎に住んでいるからこそ「広がる世界」とは

「ふるさとチョイスAWARD 2023」へのエントリーは、こうした愛南町の課題解決に至る、まちへの誇りを育むきっかけのひとつになっている。「ふるさとチョイスAWARD 2023」でのプレゼンテーションの前に、浅野さんと濵田社長は何度も練習を重ね、どうしたら愛南町の良さが伝わるのか、試行錯誤を重ねたという。

「プレゼンテーションが始まる前に浅野さんに『緊張している?』と聞いたところ、『ここまできたらやるしかないです』との答えが返ってきました。肝がすわっている、さすがだなと驚きました」(濵田社長)

こうして堂々たるプレゼンテーションをこなし、晴れて愛南ゴールド真鯛は「チョイス事業者部門」の大賞を受賞。その賞状などは現在、有限会社ハマスイの玄関の目立つところに飾られている。

「田舎に住んで、地域振興研究部で活動してきたからこそ、東京に行って大勢の人の前で発表する機会がありました。今回だけでなく、PRイベントで地元の特産品をアピールする機会もあり、普通の高校生ではなかなかできない経験ができていると感じています」(浅野さん)

地域振興研究部は現在部員4名と決して大きくない部活動だが、それでもこうしてメディアなどで取り上げられる機会が多く、地域振興研究部に入りたいという新入生もいるという。地域へ貢献する活動が「憧れの部活」になり始めているのだ。

「愛南ゴールド真鯛は輸出も始まっており、海外の方々と接する機会も持てています。いずれは彼女たち高校生にも、世界を見せてあげたい。愛南町にいて地域のための活動をしているからこそ世界へ進出できるのだと思っています」(濵田社長)

浅野さん自身は大学進学を希望しているため、高校生の浅野さんはいずれ愛南町を出ていくことになるという。それでも「いずれは愛南町に戻ってきたい」と語る。

「やっぱり海があって山がある愛南町が好きだし、このまちの人のあたたかさが好きです。なかなか普通の高校生ではできない経験ができたからこそ、自分が生まれ育った愛南町がさらに好きになりました。いずれ愛南町に帰ってきて、このまちのために働きたいと思っています」(浅野さん)

「日本でトップクラスの田舎」に根差し、その良さを広める活動をしているからこそ、ハマスイの、濵田社長、そして高校生の浅野さんの前には、大きな大きな世界が広がっている。

TOPへ戻る