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全国で相次ぐバス廃線も「ハイヤー&リゾートでクリア」むらバスで利用者1.6倍を実現した人口約1,100人の村【北海道赤井川村】

全国各地のふるさと納税を通した取り組みを表彰する「ふるさとチョイスAWARD」。ふるさと納税を活用し、未来を考え、そしてそのためのまちづくりを行なっている取り組みに関する部門が「未来につながるまちづくり部門」だ。同部門で大賞を受賞した北海道赤井川村では、路線バスが廃止されるという危機に直面した。赤井川村のみならず、現在全国で多くの路線バスが廃止されている。ただし赤井川村は他の自治体のように路線バスの廃止をただ受け入れたのではなかった。村が主体となってガバメントクラウドファンディング®を実施、新たに「むらバス」を立ち上げることに成功したのだ。ふるさと納税の担当者にピンチをチャンスに変えた秘策について聞いた。

路線バスの廃止により、利便性が下がる危機に直面

路線バスが廃止される――そんな危機に見舞われた小さな村がある。人口約1,100人、札幌市、小樽市に隣接する「日本で最も美しい村連合」のひとつ、北海道赤井川村だ。路線バスの廃止は、北海道はもとより、全国各地で起こっている。自家用車の普及により、バスの利用者が減ったことが背景にある。収益が下がるのに加え、乗務員不足が深刻なのも、全国共通の課題だ。

赤井川村でもほとんどの村民が自家用車を利用している。一方で自家用車を持たない人、例えば高校生や外国人、そして高齢者にとっては、路線バスの廃止は公共の交通手段がなくなることを意味した。

「もともと赤井川村には高校がありません。高校に通うために路線バスを使っていた学生もいて、廃止されることで親御さんの送り迎えの負担が増えることが予想されました。そもそも路線バスも利便性が良いとはいえず、高校進学を機に他の地域へ引っ越す方もいて、村の課題になっていました」。そう語るのは同村の職員であり、この課題に最前線で取り組んだ末次司さんだ。

赤井川村から最も近い高校で約30分程度。その距離を毎日送迎しなければならない親の負担は大きい。中には通学の足がネックになって、志望校に進学できないケースもあった。そのほか隣町への通院などでバスを利用していた人もおり、バス路線の廃止は赤井川村にとって喫緊の課題だった。

一番大切な目的は、「暮らしやすさの向上」

そこで赤井川村ではガバメントクラウドファンディング®を実施することを決定。バスの購入費にふるさと納税による支援を求めた。お礼の品には地元の特産品のほか、木版に寄付者名と都道府県を印字し、バス車内に掲示することも提案した。結果、無事に目標額を達成した。

「資金面もそうですが、クラウドファンディングを実施することにより、赤井川村の課題を多くの人に知ってもらうきっかけができました。支援してくださった方の中には、以前赤井川村に住んでいたり、また訪れたことのある方も少なくありません。中には『ふるさと納税の本質とは何かを考えさせられました』というコメントも。こうした方々に共感いただくことで、関係人口の創出にもつながると感じました」(末次さん、以下同)

クラウドファンディングにより、新たなバスの立ち上げの目途はついた。そんな中、末次さんたち自治体職員が心がけたのが、目的を見誤らないこと。すなわち目標を「バスを運行させること」ではなく、「バスを運行することにより、村での暮らしやすさが向上すること」に定めたのだ。

そのために、使いやすいバスにするにはどうしたらいいか、住民からのヒアリングを徹底的に行った。また事業者の元を訪れ、バス運行を維持する方法も話し合った。こうした過程を経て、令和4年4月1日に「むらバス」は本格運行を開始。以後、路線バス時代と比べ利用者が1.6倍も増加するという成果を残せている。

課題解決の秘策は、丁寧なヒアリング

ただし本格運行までの道のりは、決して平たんではなかった。クラウドファンディングは成功したが、そのほかの課題をひとつひとつ解決しなければならなかったのだ。

「特に乗務員不足に関しては頭を悩ませました。事業者の方々のところに足を運び、地域にあるハイヤー事業者とリゾート事業者がタッグを組むことで、乗務員不足という課題を何とかクリアできました。いまはシフト制で乗務員の方々にバスを運転していただいています。地域住民の方に気軽に声をかけてくださって、評判が非常によく、本当にありがたいです」

地元企業と企業を結びつけることにより、最大の課題は解決した。他の自治体でも課題解決の一案になりそうなアイデアである。

加えて、先述の地域住民へのヒアリングでもさまざまな課題が浮き彫りになった。「そもそも『公共のバスは必要なのか』という反対意見もありました。また『バスに乗るのに予約は必要なのか?』という質問もあり、公共のバスとはどういうものかという前提から考える必要がありました」

さらに地域の生徒が高校に通えるダイヤにすると言っても、赤井川村からは余市の高校に通う生徒もいれば、小樽市の高校に通う生徒もいる。すべての人の意見を取り入れるのは難しいが、対話を重ねることでなんとか着地点を見つけた。

ほかにも使いやすくするため、バス停の場所を移設することも行った。高齢者でもスムーズに乗車できるようにと、運賃も乗車時に運賃を支払うシステムにした。また高校生が乗車しやすいように片道定期券も設定。これにより、例えば通学も行きはバス、帰りは親御さんの迎えということも可能になった。また外国人にもわかりやすいように時刻表や料金表の英語版も作成した。

「むらバス」が運行開始を迎えられたのは、地域を巻き込んでさまざまな課題をひとつずつ解決していく道程があったから。それは路線バスの廃止というネガティブな未来を、持続可能な未来へと変換する作業でもあった。

共に未来を創り上げた持続可能なバス

「むらバス」が立ち上がったことで、先述のように利用者は路線バス時代よりも1.6倍に増加。高校生の利用者が多いが、それ以外の地域住民や観光客、はたまたリゾートで働く外国人従業員などが「むらバス」を利用するようになった。バスを利用して習い事やスキーに出かける小中学生もいて、若い世代の行動範囲が広がっている。

地域のコミュニティにも変化が生まれた。バス停にある個人商店はバスが運行している間、善意でお店をオープンしてくれて、ひとつのコミュニケーションの場になっている。

また地域の中学生が「むらバス応援団」になる動きもあった。いずれ高校生になり、利用する機会が増えるようになれば、さらに「むらバス」への親近感が増すだろう。地域の小学生が思い思いに「むらバス」の塗り絵に挑戦、それが車内を彩るというイベントも行われた。

「クラウドファンディングで支援していただいた方の中には、バス車内に掲示された自分の名前が刻まれた木版を見るために、村外からやってきてくださる方もいます。地域だけではなく、広く応援されているバスだと感じます」

「むらバス」の運行を開始して1年余り。あずき色の車体のバスは、すっかり村でなじみの存在となった。路線バスが廃止される可能性がある自治体から、持続可能なバスのあり方について話を聞きたいと訪れる職員も少なくないという。

「赤井川村は比較的早期に路線バスの廃止が決まった地域でもあります。その点、早く対策をすることができたと前向きにとらえています。むらバスは支援してくれた方々、そして地域の方々と共に創り上げた持続可能なバスです。これからもあらゆるアイデアを出し、そして資源を活用して、新しい価値を生み出していきたいと考えています」

「共創」――末次さんは「むらバス」の成功の秘訣を、この言葉に託している。ひとつひとつ課題を解決し、共に未来を創ること。北海道の小さな村には、今日も「共創」の想いを託されたあずき色のバスが、村民の暮らしに寄り添いながら運行を続けている。

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