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「夕張市はメロンだけじゃない」学生が市と組んで魅力を発信【北海道CLASSプロジェクト】

夕張メロンで広くその名を知られる北海道夕張市。この町では今、市内唯一の公立高である夕張高校の3年生が新たな地域活性化プログラムに取り組んでいる。生徒たちが自ら地域の課題を探究し、企業や自治体と連携して解決を目指すという「北海道CLASSプロジェクト」。それは一体どんなものなのか。夕張の町や、ここに住む人たちとどのように関わっているのか。当事者である生徒と、プロジェクト推進に関わる人たちに話を伺った。

国内唯一の財政再生団体となった夕張市

yuubaricity(1960年頃の炭鉱住宅の様子)/夕張市石炭博物館より借用)

まず、北海道夕張市について紹介しておこう。かつては国内有数の「炭鉱の町」として栄え、1960年頃には人口約11万7,000人を抱える一大都市であった。その後のエネルギー革命により、国内の主なエネルギー資源が石油へとシフト。1970年頃からは炭鉱の閉山や鉱業所の閉鎖が相次ぎ、仕事を失った若年層が都市へと流出した。結果、急速な人口減少と少子高齢化が進むこととなり、財政破綻により国内で唯一の財政再生団体となる(2007年)。

“人口減少社会”のモデルケースとして、その再生と対策に関心が集まるなか、夕張市がとあるクラウドファンディングに挑戦したことが話題になった(2017年)。すべての寄付がふるさと納税の対象となる、自治体主導の「ガバメントクラウドファンディング」だ。

市は、定員割れが続いて存続が危ぶまれていた夕張高校の魅力化を目指し、教育環境のさらなる充実やチャレンジ環境の整備を提言。前述のガバメントクラウドファンディング制度を利用して資金支援を募り、なんと330%超えで目標を達成した。夕張高校とともに地方創生に繋がるさまざまなプロジェクト推進に向けて動き出したのである。

高校生たちが自ら課題解決に取り組む

今回取材した「北海道CLASSプロジェクト」もまさに、市と高校生がタッグを組んで夕張の魅力を発信する地学協働プログラム。外部講師による授業で夕張の歴史や文化、基幹産業について学び、その知識をもとに地域活性化プロジェクトを推進していくというものだ。

今年度は、夕張高校3年生の17名が4グループに分かれ「夕張産のそば粉を使った商品開発」に取り組む。

7月某日、この日のグループワークのテーマは「商品の改良」。道の駅や学校祭で試作品を販売した際に購入者にヒアリングを行い、それをもとにディスカッションを行っていた。

A班が開発した商品は、夕張名物のカレーそばをイメージした焼きカレーパン。

「もっとそばの風味を出したいのですが、そば感がなかなか出なくて……」と製造担当の小西さん。営業担当の夏目さんは「パンの製造を請け負ってくださっている事業者さんにもレシピの相談をするのですが、その電話のやりとりはすごく緊張します」と笑う。

デザイン担当の本間さんは「カレーパン自体に夕張っぽさがないので、ポスターのデザインやロゴの色使いで夕張らしさを表現するのが難しいです」と語り、販促担当の大西さんとともにiPadを使ったポスター作成に取りかかっていた。

慣れない作業にみんな戸惑っているかと思いきや、「こういった地元の活性化に繋がることを授業でしている学校は少ないと思うので、貴重な経験ができているなと思います。面白いです!」と新しい挑戦を楽しんでいる様子。

「この商品が、夕張に興味を持つきっかけになってくれたら嬉しいです」

A班からD班まで、自治体の職員や講師とともにレシピの改善やPR方法についてそれぞれ熱く議論を繰り広げている。自分たちが住む町のため、真剣に取り組んでいる姿が頼もしい。

成功体験を積み重ねていく

今回、各グループはそれぞれ夕張市内のレストランやカフェ、製菓店、居酒屋などの事業者と連携し、商品製造など実作業の協力を仰いでいる。この橋渡し役や特別授業の講師役を担い、プロジェクトを総合コーディネートしているのが「そば粉農家・小野農園」の代表・元澤洋さんだ。

「農家がなぜプロジェクトのコーディネートを?と思いますよね(笑) 実は、僕はもともと札幌で経営コンサルタントの仕事をしていたんです」

小野農園とも元々はコンサルタントという立場で関わっていた。だが経営改善のための6次産業化や販路開拓を進めるうち、自らが農園主となって本腰を入れる必要性を感じ、今に至るのだという。

夕張市出身でこの地域との関係も深く、人脈も広かった元澤さん。地元夕張がさらに活性化する道を模索するなかで、自然と人材育成に意識が向いた。経営コンサルタントである自らの知見を生かし、高校生を巻き込んで地域の活性化を進めていくこのプロジェクトは元澤さんにとっても刺激的で面白いそうだ。

「彼らの素直さと一生懸命さを見ていると、応援したくなりますよね。このプロジェクトが生徒たちの成功体験や達成感につながるようサポートしたいし、それは必ず夕張市のためにもなると思うんです」

人口縮小社会のメリット

「小さな町なので、高校生と事業者の間にはすでに繋がりがあったりするんです。幼い頃から見てきた子どもたちが高校生になり、大人顔負けの企画を考えて相談しにくる姿に感激して涙を流す事業者さんも。夕張の子どもたちや町のためならと、どの事業者さんも本当に快く協力してくれるんです」

そんな話を聞いていると、人口が減少している分、地域内の人と人との繋がりや結び付きはより強くなっているようにも感じる。課題が明確に見えているがゆえに、市民の力でそれを解消していこう、地域をより良くしていこうという共通意識が強くなる。それは、人口縮小社会のメリットとも言えるのかもしれない。

今回、プロジェクトに取り組んでいる生徒たちからも「自分たちが頑張って取り組んでいることが、夕張のためになるのが嬉しい」という声が多く挙がっていた。

地域の課題を行政だけに任せるのではなく、住民たち一人ひとりが自分事と捉え、主体となる。これからを担う“人財”を、地域一丸となって育てていく。この地域密着型の愛情こそが、これからの地方創生のキーになるのだろう。

この時代にこそ必要な地方創生の在り方を、夕張市に見た気がした。

北海道CLASSプロジェクトで開発中の4商品は今後さらなる改良を加え、11月頃に完成予定。12月以降には夕張市の道の駅や小売店で販売されるほか、ふるさと納税の返礼品としても登録される予定だ。

集合写真を撮影している間、プロジェクトをサポートしている元澤さんや自治体職員と生徒たちが他愛もない話で盛り上がっていた。年齢や職業の枠を超えてひとつの課題に取り組んでいる姿は、まるで青春映画の1ページのようで眩しかった。

Photo:辻茂樹

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