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「未来をつくる熱量に投資するのは今」小さな島の大きな挑戦【AMAホールディングス】

突然ですが、クイズです。「鎌倉時代に承久の乱に敗れた後鳥羽上皇がご配流になり19有余年、島でお亡くなりになった歴史のある島はどこ?」

——正解は、隠岐諸島の「島前中ノ島」。

海士町は、島根県の北60キロ、日本海に浮かぶ隠岐諸島の有人島の一つ「島前中ノ島」にある。人口約2,300人の半農半漁の町に生まれる子どもは年間約10人、人口の4割が65歳以上という超少子高齢化は深刻で、2000年初めには“島国日本の縮図”と喩えられるほど問題視されていた。

そんな町も、今では同じ課題を抱える地域の手本。人口の流出と財政破綻の危機から脱却した独自の行財政改革と産業創出に注目が集まっている。その転機となったのが、海士町長自らが代表取締役として舵取りを担う「AMAホールディングス株式会社」設立であり、ふるさと納税の一部を原資とする「海士町未来投資基金」運営のスタートだ。島の未来に不可欠な事業を生み出すために日々奔走している、海士町自治体職員でありAMAホールディングス正社員第1号の松田昌大さんだ。

※本記事は「ふるさとチョイスAWARD2021」時の内容となり、最新の状況と内容が異なる場合がございます。

「集めればいい」ふるさと納税からの脱却

海士町のふるさと納税には特徴がある。返礼品の品揃え、ブランド力、鮮度など、内容を充実させることに軸足を置く自治体が多い中、「使い途」に注力したのが海士町だ。海士町ふるさと納税使い途の中に、「海士町未来投資基金」というものがある。

「これは海士町の産業に対する投資基金。これからの町を支える産業や、残していかなければいけない産業を支援するためのものです。一つの事業者、一人の漁師、一人の農家、どれが欠けても島全体に関わります。過去にある事業者が廃業したことにより、雇用や流通に大きな影響がありました。誰も倒れさせない、そして育てていく。そんな思いがこの基金に込められています」

とは、松田さんの言葉。次の世代へ事業を継承したい、活気ある事業を創出したい。その思いを具現化するための基金の資金調達のスキームに、ふるさと納税年間納付額の約25%を活用する。

また、同基金の事務局運営業務行う「一般社団法人海士町未来投資委員会」を、海士町とAMAホールディングス株式会社が共同で担うことで、一つの会社を超えて、海士町を挙げて経営面からも支援する座組みまで抜かりない。

創生総合戦略にある住民・行政の共創によって生まれる「ループ図」

「町民だけでなく、海士町と縁が深い様々な分野の経営者を委員会の理事に迎え、投資決定などの重要な意志決定してもらうこともあります。海士町の未来づくりの「伴走者」として、多角的な視点でアドバイスをいただいています」(松田さん)

ふるさと納税年間納付額 2億円達成の秘策とは?

海士町のふるさと納税がいかに画期的で、町に還元される仕組みだとしても、納税額が増えないことには始まらない。海士町のふるさと納税に関する全般を担当する松田昌大さんの、町の事業者の魅力発見・発信に奔走する日々が始まった。

「暖かい対馬海流の影響を受けた豊かな海と、名水百選に選ばれた豊富な湧水に恵まれ、人々は季節ごとに漁業、農業と仕事を変えながら暮らしを営んでいます。この離島で何が起きているのか、誰が頑張っているのか。とにかく今の海士の町を知る人を増やしたいという気持ちがありました」(松田さん)

松田さんは県外からの移住組。移住前に人材会社のタイ国駐在員や、台湾での飲食店経営をしていた経験から、多種多様な人材、企業との触れ合いの中で、さらに大きな枠で人を活かす戦略を持つことができるのは地方だと確信し、地方創生に興味を持ったという。

「たくさんの事業者を訪問し、町民との交流を重ねる中で、声をかけてもらうことも増えました。『農家の〇〇さんとこ、なんとか助けられんかね』とか、『漁師さんをもっと助けられるような仕組みないかな』みたいな話もよくもらっていて、島の誰が欠けさせてはいけないと、あらためて考えさせられました」(松田さん)

松田さんの地道な声がけによって一つひとつ意志ある賛同が集まり、島の未来への応援団は増えていった。そして、海士町未来投資基金設立が契機となり、2020年度の海士町ふるさと納税の返礼品は70品目から倍増(2023年現在、約350アイテム)、年間全納付額1,4億円(2019年度実績4,900万円)を達成した。

歴史をさかのぼると、海士町には2005年にも全国から注目される出来事があった。

当時の町長が50%、課長級が30%の給与カットを自ら実施。その年の公務員の給与水準で全国最低となったのだ。そこまでして得た資金を元手に、最新の冷凍技術CAS導入を決行。全国の自治体に先駆けて、海産物のブランド化により全国をはじめ、海外展開も始めた。

この時からすでに、離島というハンデイキャップをアドバンテージに、未来への挑戦は始まっていたのだ。当事者たちが島の海産物の価値にいち早く気づき、輸送コストや鮮度などの課題を一気に解決していたことを背景に、海士町のふるさと納税の返礼品にある数々の特産物の、現在の高い評価があるのだろう。

「ないものはない」。島の魅力発信は産業復活のため

島の存続を懸けた「攻め」のまちづくりを実践し始めて早20年。島の価値や暮らしぶりを島内外に発信しながら、様々な分野で島の生き残りをかけた挑戦は続いている。

「島のスローガンとして掲げられた『ないものはない』という言葉には、『なくてもよい』と『大切なものはすべてここにある』という2つの意味が込められています。便利なものはないが、必要なものは知恵と想像力で創り出すという、この島らしい生き方や価値観を表しています」(松田さん)

全国各地から訪れる方々を熱く迎えては紙テープと共に見送る。これが海士町の日常であり、大きな魅力のひとつだった。

しかし、コロナ禍で人の往来がストップし——、

「島との距離は離れていても気持ちでつながっていられるように、『町のファン』との交流に特化したLINE公式アカウントを開設しました。

はじめて海士町を知る方にも気軽に島を知っていただけるように、島へのアクセス方法や観光情報も紹介しています。自信を持っておいしいと思えるものを提供している「ふるさと納税」の返礼品も然り。すべていつか海士町に来てもらうためです」(松田さん)

ファンという“町の財産”を獲得するため、コロナ禍だからこそ、その関係性を一歩前進させて、関係人口(観光以上・定住未満)の行動の枠を超えてつながる策に打って出た。

投資すべきものは島の未来を創る「熱量」

これまで幾度もピンチをチャンスに変えてきた海士町の原動力はどこにあるのか。

「日本の課題先進地である海士町で挑戦することは、島の未来だけでなく、日本の未来を拓くと信じているからかもしれません」(松田さん)

そこにあるのは、島の持続性が失われてしまうかもしれないという焦り?

「だからこそ、島の未来をつくる熱量に『今』投資し、新たな挑戦を支援しています。そして、人材が島に還流し続けることを実現していきたいですね」(松田さん)

第1回「海士町未来投資基金」の審査を通過した一貫した2件の事業が動き始めている。

「ナマコとともに生きていく」なまこ漁師会

「ナマコは“海の掃除屋”と呼ばれていて、ナマコを増やすことは、生態系豊かな海の環境を少しでも長く維持することにつながる。本事業では育成場の設置を機に、適切な資源管理など考えながら未来にナマコを残し、自然と共存する姿を維持したい」

「海が好きになるマリンボート事業」宇野将之

「海士町内には気軽に釣りを体験できる遊漁船は少なく、観光客の満足度やリピート率に影響している。本事業では、遊漁船をはじめとするマリンボート事業を展開して観光コンテンツの充実を図る一方、水産業の複業という形で船長を集め、収入の安定化につなげたい」

松田さん曰く、島の現在地は「地方課題最前線」。

「最後尾から最先端への可能性を秘めています。そんな海士町だからこそ、攻めの姿勢を崩さず、同じような課題を抱える地方を牽引できるよう走り続けたいですね。この島には日本らしさがまだ残っています。そこには新しい価値観と問題解決のヒントがあるはずです」と力強く話してくれた。


海士町LINE ID

島根県海士町

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