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地域の“嫌われもの植物”が特産品に!?アロマオイルに姿を変えた外来種【ネッコ】

島根県大田市の大山隠岐国立公園三瓶山では、外来種のセイタカアワダチソウは駆除対象の植物。ところがこの外来種が持つ効能に着目し、アロマオイルなどを開発しているのが、株式会社neccoだ。SANBE Botanicals(さんべボタニカルズ)プロジェクトとして開発を進めつつ、大田市の指定管理者として地産地消のレストハウス「山の駅さんべ」も運営。necco代表者の梶谷美由紀さんに、セイタカアワダチソウに惹かれた理由、東京から大田市へのUターンなどについてお話を伺った。

地域の嫌われものセイタカアワダチソウの価値

外来種植物のセイタカアワダチソウ。北米原産のキク科の花で、咲き誇ると一面を黄色く染め上げる。梶谷さんは三瓶を拠点として、セイタカアワダチソウの利活用を進めている。

「三瓶のいいところは国立公園では珍しく、人の暮らしと共にあること。完全に何もしないわけじゃなくて、(動物が)放牧されていたり、人と自然が一緒です。三瓶の自然を整えている人たちが環境保護活動などもしています。そうした中で絶滅危惧種を守る活動もあって、植物が残っています」

島根県のほぼ中心に位置する、大山隠岐国立公園の三瓶山。神話「出雲国風土記」にも登場する、標高1126mの雄大な火山だ。古くから日本で愛されてきた自然風景が今も残っており、登山コースとしても人気が高い。

そのため、繁殖力が強いセイタカアワダチソウは国立公園内の生態系を崩すおそれがあるとして駆除対象とされている。

「国立公園なので外来種は駄目なんですよね。生えたら抜かれていきます。でも探せば外来種が生えています。去年も(セイタカアワダチソウを)駆除させていただきましたけど、外来種ってすごいんですよ」

駆除されるばかりだったセイタカアワダチソウだが、実は薬草としての効能を持ち、ただ駆除するだけではもったいないのだそう。

「セイタカアワダチソウは悪いものだと思っている人が多いので、薬草であることが知られてほしいです。発想の転換を楽しんでもらうというか、セイタカアワダチソウのアロマに興味がある方も増えてきていますので、薬草としてのセイタカアワダチソウに可能性はあると思っています」

国の補助金やクラウドファンディングを利用して開始した事業では、セイタカアワダチソウのアロマオイルなどの製品を開発・販売中。

「私も意外だったのですが、アロマオイルを買っていく人がけっこういるんです。一個4000円位するので、バスソルトや消臭・消菌のファブリックウォーターなど他の商品と比べると高いんですけどね」

ヨーロッパでは、セイタカアワダチソウには抗炎症作用や皮膚の収れん作用があると謳われており、商品として販売もされている。日本にとっては外来種でも、外国では人々の役に立ってきた歴史があるのだ。

憧れの東京生活で気づいた自然への想い

島根へUターンするまでは「セイタカアワダチソウは憧れの植物だった」と語る梶谷さん。

「子ども時代は島根で育って、まさに都会に憧れる田舎の子(笑)。いつか出ていってやると思いながら地元の高校を卒業して、東京学芸大学に進学したんです」

念願叶って地元を離れたものの、心は晴れやかというわけではなかった。

「生半可な気持ちで進学したので『何しに来たんだろう』と行き詰まりました。大学一年目が終わったときに休学して、自分は何がしたくて田舎からわざわざ出てきたんだと考えたんです。いろいろとっぱらって自分の好きなことを考えたら、歌が好きだと思いました」

インターネットもなかった時代。雑誌の「仲間募集」のコーナーをきっかけに、作曲家の卵向けにデモテープを作成していた人と出会うことに。曲のデモテープを歌ってみるとそれが業界の耳に留まり、梶谷さん自身も予想外だったアニメソング歌手への道が拓けた。

「セーラームーンのエンディングテーマやクレヨンしんちゃんの映画の歌とか、アニメの曲ばかりでした。私はアニメもテレビも見なかったので、なんだか気恥ずかしかったです(笑)。それからずっと声の仕事をしてきて、結婚と出産をしてからは働き方を変えたくてフリーになり、CMのナレーションなどをしていました」

東京で3人の子どもの育児を楽しみつつ、身近な野草にはいつも目が惹きつけられていたのだとか。

「お台場に住んでいたのですが、ヨモギやツクシをよく摘んでいました。子どもの頃から草花で遊んでいましたし、自然の植物が好きだったんだと思います」

意外にも、当時の梶谷さんはセイタカアワダチソウをその目で見たことはなかったそう。

「『家庭でできる「自然療法」』(東城百合子著)という本を出産祝いでもらったことがありました。おばあちゃんの知恵袋みたいで、読んでいて面白かったんです。その本にセイタカアワダチソウのことも書いてありましたが、実際に見たことはありませんでした」

島根へ帰郷したのが2011年の秋。セイタカアワダチソウを目にしたのはその時だ。

「近隣を(車で)走っていたら景色がまっ黄色。もしやと思ったらセイタカアワダチソウでした。私からすると宝を見つけたみたいで喜んでいたんです」

東京から故郷の島根県大田市へUターン

「東京に行ったから、島根の素晴らしさに気づけた」と語る梶谷さん。三瓶で暮らすことを決めたのは、予定外のことだった。

「夫の父が亡くなって、お葬式のために来たのがきっかけでした。当時は東日本大震災もあって、原発事故や都会で暮らすことそのものに対して不安を感じていました。でもこっちを訪れてみたら、ストレスのためか体調を崩していた子どもが元気に過ごしていたんです。その姿を見て、東京に戻りたくないと思いました。それで夫に『私、残る!』と言って、子どもたちとここで過ごすことにしたんです」

それからは三瓶に滞在しながら家族の話し合いを進め、島根での生活をスタートさせた。

「島根にUターンをしてから12年位になります。移住した年は湧水に感動したり、近所のおばちゃんたちが採れた野菜を届けてくれることに衝撃を受けたり(笑)。消費するだけの町ではないんですよね。物が生産できることの尊さって大事で、私の原点。今、私がお店をしているのも、(作物を)作っている人の顔や育っている場所が見えることの素晴らしさを届けたいからです」

三瓶暮らしを楽しみつつ、梶谷さんは東京でもセイタカアワダチソウに関する取り組みを進めている。東京を離れて島根での生活を始めてから、負担に感じることはあるのだろうか。

「今はSNSで人と繋がりやすくなったし、都会を離れたからといって不自由にはならない。でも三瓶は東京から遠いですよね(笑)。JRで来ようとすると、日本で一番遠い町。青春18切符で丸2日かかりますから」

島根での暮らしは決して利便性はよくない。それでもこの生活に価値を見出しているのはなぜだろう。

「過疎で不便なところにあえて帰ってきたんですけど、人工物が全く視野に入らない場所に立って仕事をするって、すごく贅沢じゃないですか。三瓶は海も山も楽しめる街。一日で縦走できるサイズ感の山々があって、初心者から達人までコンパクトに楽しめます。温泉がまた良いんです。この周辺にある温泉の泉質がみんな違うんですよ。美郷町の千原温泉は、全国の温泉ファンが選ぶ『ひなびた温泉』第一位にもなった炭酸泉です」

百年先の三瓶のために地域の循環を回す

三瓶を拠点にセイタカアワダチソウの利活用に取り組む梶谷さん。地域の人々の存在には、とても助けられているのだそう。

「地域で林業に携わる人たちとお話したときに、セイタカアワダチソウは薬草でもあることを言ったら共感してくださったんです。『わしらもやるよ』と、大田市林友会の方が一緒に草刈りしてくださったり、(セイタカアワダチソウを)集めてきてくれたり。地域のいろいろな方にお世話になっています」

だからといって、外来種であるセイタカアワダチソウばかりを優先しているわけではない。

「ここの環境保護活動をされているNPOの方々に、セイタカアワダチソウのお話を聞くこともあります。環境省の駆除イベントで採った花を届けていただいたこともありました。外来種は大変なんだという話も聞いて、両方の側面を聞きながら取り組みをするようにしています。そうして、地域の中で循環のようなものが小さく始まったのがすごく嬉しいです」

地域でまわす循環の重要性は、三瓶に住み始めてからよく実感しているのだとか。

「三瓶では牛をよく放牧しているんですけど、西の原の放牧牛は山の駅さんべのメニューとして食べられるんです。三瓶の湧水で育ったわさびを収穫して、ローストビーフとして食べられる体験を企画することもあります。放牧牛が食べている稲藁は地元の田んぼからもらったもの。その田んぼは牛糞を受け取り、田んぼでできたお米は山の駅さんべで提供されています。そうやって循環しています。セイタカアワダチソウに関しても駆除して捨てるだけじゃなく、(アロマオイルにしたり)使って循環させていきたいと考えています」

セイタカアワダチソウの利活用に力を注ぐ梶谷さん。そのモチベーションの源を聞いてみた。

「名刺にも書いているのですが、『100年先の三瓶に子どもたちの笑い声を』という想いがあります。私は島根を一度は出た身ですが、この土地に人がずっと暮らしていくことにつなげていけたらいいなと思っています」

離れたことがあるからこそ気づけた地域の魅力。これからの梶谷さんの目標は何だろう。

「この地域に長く暮らしている人生の先輩方は、本当に三瓶山が好きで自然や暮らしを大切にしているんです。この山を残していきたいという想いを先輩方からすごく感じます。私は、循環を生み出すことが好きなのかもしれません。それは、食べ物でも植物でも、人と人との恩送りも同じ。100年先なんて言うと、大それたことを言っているみたいでちょっと恥ずかしいんですけど、明日明後日も大事。みんなが気持ちよく暮らせる居場所である三瓶を、次の世代に繋いでいけたら幸せです」

見方を変えたら、嫌われものや何気ないものにも貴重な価値があるかもしれない。セイタカアワダチソウがどんな風に地域と共存していくのか、気になる人はぜひ島根県大田市を訪れてみてはいかがだろう。

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