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「変えようとしないと変わらない」農業生活37年目の起業家が描く未来【ウーマンファーマーズジャパン】

日本屈指の豪雪地である新潟県十日町市に、あるワーキンググループが誕生した。その名は「women farmers japan」。略して“ウーファ”だ。発起人の福嶋恭子さんは、その街で子育てをしながら農業&農家レストランを営んできた。これからの世代の女性農業者のアイデアと意欲を農業に発揮できる環境をつくるために立ち上がった彼女のもとには、ぞれぞれに課題感を持つ女性たちが集い、今まさに小さな渦が生まれはじめていた。

※本記事は「ふるさとチョイスAWARD2021」時の内容となり、最新の状況と内容が異なる場合がございます。

農業をこの地でずっと続けられますように

ワーキンググループにはキャッチフレーズが付いている。「里山農業を、心動く世界に」。農業課題を解決し、十日町市でワクワクしながら農業を続けられるように、という想いが込められている。

「女性農業者の課題は、ここで変えようとしないとずっと変わらない」。発起人である福嶋さんが日頃から口にしている言葉である。その覚悟に共感せず、励まされない女性農業者はいない。それもそのはず、30年前に壁に直面していたのは、当時子育て真っ最中の福嶋さんだった。

「十日町市では冬に農業ができません。また、雪深く春が遅いため露地野菜は“走り”になりません。どこでも大量に収穫されるようになってからの出荷になるので高値では売れないのです。市場に軽トラックにいっぱい積んで出荷しても千円にしかならないことも多々ありました。早朝から暗くなるまで子どもを背負い、畑に連れてきて畑仕事、少し大きくなると留守番をさせて頑張っているのに生活は全く楽になりませんでした。

そこで思い切って24年前、34歳の時に始めた対面販売で、もぎたて、掘りたて、さらに安くて好きなサイズを選べるようにすると、飛ぶように売れました。この時、ニーズに合わせて栽培して販売し、お客様に喜んでもらうという快感を知りました」(福嶋さん)

子育てがひと段落ついた45歳の時に農家レストラン『ごったく』を開店した。

「飲食業の経験はなく、勢いだけでオープンしたようなものだった」と福嶋さんは当時を振り返っているが、兼業農家の男性と結婚して3子をもうけ、農家の嫁として家業を支える一方で、市の食生活改善推進委員や市内の食育体験施設の講師としての顔を持つ、自身のキャリアの延長線上にあった。

「地産の安心安全な農産物と手作りにこだわり、日々の食事から美味しく健康になれる飲食店を作りたいという思いがあふれてきての「ごったく」オープンでした。多くの助けがあって10年続けることができましたが、お店に集う仲間との交流の中で再認識させられたこともありました。それは、女性農家の課題は私がみんなくらいの歳だった頃から、30年以上変わっていないということです」(福嶋さん)

コミュニティだからこそできること

農家として母として、仲間からの応援を受けてチャレンジしてきた福嶋さんは、今まで積み重ねてきたものを持って次は自分が応援する番だと、就農し母となった娘さんとともに女性農業者の前に立ちはだかる壁を打ち破るために踏み出すことを決めた。まず着手したのが、ともに成長し合える仲間がそばにいる環境をつくること。

「女性は出産子育てを機に、現場から遠のき、繋がりが絶たれ、孤独に感じる期間があります。さらに女性農業者は家族経営の一員として農業に従事しているため、行政から「農家」として認識されず、農家の会合に声がかかることもありません。そんな仲間を作りにくい環境や成長の機会不足のため、不安を一人で抱えやすい状況でした」(福嶋さん)

新潟県十日町市では、人口減少に加え農家の担い手不足が問題となっている。ここ10年で約6,200軒あった農家数も約4,900軒まで減少していた。

そんな中でも、女性ならではの経験と感性を生かして規格外品を使った食品加工に挑戦しようとする若手農業者は増えていたものの、一人で不安を抱えきれずに挑戦意欲が挫かれていたのだ。「彼女たちがふつふつと心の中に仕舞い込んである、アイデアと意欲を発揮する場所になるようにとワーキンググループを作りました。ノウハウを共有し、成長し高めあえるプラットフォームがあれば、たくさんのワクワクが生まれてきます」と福嶋さんは話す。

誰でも使える「チャレンジ」加工室

続いて取り掛かったのは、共同食品加工所の設立だった。

「規格外品を使った食品加工には、初期投資のリスクが大きいという壁もありました。衛生的な問題もあり食品加工所建設には莫大なコストがかかります。試作の販売もできず、小さく始めることが非常に難しいのが食品加工でした。

それならばと、共同の食品加工所をつくることを思いついたのです。惣菜加工室と菓子加工室をつくり、利用料をお支払いいただく形で運営する。誰でも使える加工所があれば、自分の農産物を使って、作りたい時に試作できるようになります」(福嶋さん)

早速クラウドファンディングで寄附を募り、食品加工所をつくるための空き家のリノベーション、機械設備の購入のために200万円を超える資金を集め、2021年5月に共同食品加工所「ウーファキッチン」の運営をスタートした。奇しくもコロナ禍でテイクアウトの需要は高まり、地元食材を使った健康的な惣菜は食卓を支えることになった。「日々の食事から美味しく健康になれる飲食店を作りたい」という福嶋さんの思いがまた一つ、形を変えて広がっていた。

6次産業化が里山の未来をつくる

「6次産業」という言葉をご存じだろうか。

数字の由来は、1×2×3=6! 1次産業(生産)、2次産業(加工)、3次産業(販売)それぞれの産業を融合して農業の可能性を広げることから、1994年に現東京大学名誉教授の今村奈良臣氏に名付けられ提唱された取り組みで、農林水産業の事業者の所得向上や雇用機会の創出につながるとして、国や地域を挙げて推進されている。

言葉だけを聞けば目新しく思うかもしれないが、漁師が獲った魚を干物にして販売したり、農家が採れた野菜を漬物にして販売したりするといった、昔からある経営形態は6次産業の一つ。「ウーファキッチン」から生み出されるレシピは、地域活性化につながり、ひいては日本の農林水産業の未来をつくることが期待されているのだ。

「雑味のない、染み入るような美味しさが、こころをほぐす時がある。そのとき、やさしい時間が流れる。 やわらかい人、価値観、農業から生まれた、しあわせな食べ物たちを届けたい」(「women farmers japan」ウェブサイトより)

人は食べたものでできている。

「生産者として、加工者として、もっともっと美味しくできる」と、前向きな気持ちでつくられたものを受け取った人の中には、きっと温かいエネルギーが宿るだろう。「women farmers japan」がつくる加工品は、オンラインでの販売の他、十日町市のふるさと納税返礼品にも登録されており、寄付を通して味わうことができる。農業、経済の好循環のみならず、ウェルビーイングな社会のためにできることを、私たちも消費行動から考えていきたい。

(リンク先)

十日町市

women farmers japan

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