読むふるさとチョイス 地域の挑戦者を応援するメディア

「規格外品『ハネモノ』を迎え入れる」新潟の旬の味を届けるスイーツ店【旬果甘味店ルコト】

果物や野菜を育てる際に必ず発生する規格外品。大きさや形などが規格に合わず、”撥ねられる”ことから「ハネモノ」と呼ばれ、その量は収穫量の2〜3割におよぶと言われる。新潟市にある「旬果甘味店ルコト」は生産者からハネモノを適正価格で買い取り、新潟の旬の野菜や果物がもつ素材本来のおいしさを生かしてジャムや焼き菓子などをつくる。さらには製造過程の一次加工を福祉施設と連携して行うことで、障がいをもつ人たちの力も生かしている。農業、福祉、食の3者がつながって、無駄になっているものが生かされる仕組みとは? また、その仕組みを成り立たせるためにどんな工夫をしているのだろう? ルコトの代表で料理人の佐藤千裕さんにお話を伺った。

ハネモノを適正価格で買い取る

ルコトが扱うバリエーション豊かな新潟の野菜や果実。新潟の特産品である苺の「越後姫」や洋梨の「ル・レクチェ」をはじめ、夏はトマト、そらまめ、とうもろこし、桃、いちじくなど。旬の作物の勢いをそのまま閉じ込めたようなジャムや焼き菓子は、余計なものを使っていないシンプルなレシピで、素材そのものの味わいが楽しめる。品揃えは、その季節や農家さんの「ハネモノ」次第。だからルコトには、いつでも必ずあるような「定番商品」というものがない。「規格外品であるハネモノはいつ出るのか予想がつきにくいので、来たものを受け入れて柔軟に商品を生み出すスタイルをとっています」。

気候は毎年違って災害なども発生するなか、野菜や果樹栽培にはハネモノがつきものだ。たとえば、平年より夏が暑かったことなどが影響していちごの形が不揃いで、なかなか規格に合うものができなかったという場合。若手の農家などはSNSを使って「取りに来てくれる人には1キロいくらで売ります」というような発信をする場合もあるが、多くの場合は近所や親戚に配ったり、家庭内で消費したりする。それでもやはり限界はある。

「前は泣く泣く捨てるしかなかったんです。農繁期の忙しいときに、ハネモノを売るために労力を使うよりは、畑に埋めて土に返してしまったほうが早い。二束三文にしかならないようなものに時間をかける代わりに、正規の立派な品に力を注いだほうが効率的です。でもやっぱりもったいないですよね」

この事情を農家さんとの会話から知り、ハネモノを買い取ることにした佐藤さん。「加工用として適正価格で買い取ることで、多少なりとも農家さんの収入になればと考えています」。ある桃農家は以前、収穫量の2〜3割がハネモノとなって廃棄していたが、ルコトとの連携により1〜2%まで廃棄量が減ったという。

さらには「農家さんに手間をかけさせたくない」という思いから、佐藤さん自ら農家のもとへ仕入れに行くこともある。その際には今年の栽培計画や作物の出来などを入念にヒアリングする。「今年は暑すぎたからもうすぐトマトのハネモノがいっぱい出そうだ」と農家から聞けば「じゃあトマトの新しいジャムを作ろうかな」とアイディアを思い浮かべる。佐藤さん自身が農家のところへ直接行って話をすることに意味がある。

「私も新潟に住んでいるので、『今年の夏は暑かったね』『梅雨が短かったね』と肌で新潟の気候を感じられるなか、同じ土地で育った作物たちを無駄にしたくないんですよね。そして顔の見える生産者さんからいただくものなので、大事にしたいという気持ちが生まれます。農家さんや作物の都合に合わせるので計画的には物事が進まないんですけど、小規模なイチ民間事業者だからこそ柔軟に対応できるのかなと思います」

ハネモノが出ないのは喜ばしいこと

ハネモノは正規品より安く仕入れられるため、原材料を抑えられるというメリットがある。しかし傷み具合によっては歩留まりが悪く、傷んでいる場所を取り除く手間などがかかる。

「過熟なもの、未熟なもの、形が悪いものなどすべて十把一絡げにして『規格外品』とされますが、まずはそれらを選別することが必要です」と佐藤さんは言う。例えば、未熟なものと過熟なものを一緒に加熱すると一部は煮崩れているのに、ほかは火が通っておらず硬いままということも起こる。マニュアル通りには行かず、状態に合わせた調理法が必要だ。

そして一番難しいのは、仕入れのタイミングがなかなか読めないところ。天候や日照量によって、大量のハネモノが突然発生することもある。ある年の夏には、300キロのすももを引き取ってほしいと生産者から連絡が入った。聞くと、すももに斑点が出てしまい出荷ができなくなってしまったということ。ルコトにとって、夏はイベント出店などで一番忙しい時期。しかしハネモノは人間の事情など関係なく、出る時には出る。さつまいもやりんごであれば多少は長持ちするが、桃やいちごなどは足が早いので一刻を争う。「わかった、連れておいで」と受け入れた佐藤さん。即座にジャムやドリンクのペーストといった長く楽しめるものに加工した。

一方で原材料であるハネモノが足りないというケースも。ある農家さんから「今年はハネモノが出ないんです」と言われて、今年はその果物のジャムが作れないのではないかと内心焦ったこともある。

「困ったなと最初は思ったのですが、ハネモノが出ず、正規の品が順調に出荷できるということが農家さんにとって一番いいことです。だから、出た分だけでいいんです。お互いに負担のないやり方で続いていくことが重要なので、そういう場合はほかの農家さんを当たります」

ひとりひとりに合わせて仕事をつくる

2013年ごろからは福祉施設と連携して、ルコトの商品をつくるための一次加工などを障がいをもつ人たちにお願いするようになった。

「ある福祉施設がオーブン付きの立派な厨房を持っていて。でもあまり使われていなかったんです。私は『食のアドバイザー』として新潟県産の農産物を使ったメニュー開発でその施設をお手伝いしていたのですが、それをきっかけにルコトの一次加工を依頼するようになりました」

依頼する仕事内容は利用者ひとりひとりに合わせている。例えば、集中力があり細かい作業が好きな人には、枝豆を茹でて一粒一粒を出す、いちごのヘタをとるといった仕事をお願いする。「強制的に特定の仕事をしてもらうのではなく、その人が好きな作業から仕事をつくるようにしています。『障がい』と一言で言っても、できることや得意なことはそれぞれ異なりますからね」と佐藤さんは言う。

「ミキサーのボタンを押すのが好きな障がい者の方がいます。それを受けて、古紙回収で集めてきた紙と散歩の間に摘んできた草花を一緒にミキサーにかけて、季節の花や草が漉き込まれた再生紙(「葉野花実(はのかみ)」)をつくっている施設さんがあります。その紙をルコトの商品のパッケージとして一部使用しています」

福祉施設の利用者にとってもルコトの作業は新鮮のようだ。白衣を着て調理場に入れば、気分も変わる。食品加工を経験することで、普段の食事が楽しくなるという。「枝豆を茹でる時は枝豆の香りが、いちごのへたをとるときはいちごの香りがキッチンいっぱいに広がるんです。素材の香りや色、旬の時期などが分かれば、家での食事の見方も変わります」。

ハネモノありきでレシピを考え、人ありきで仕事を考える。必要なものをオーダーする形ではなく、今すでにあるものを生かすのがルコトのスタイルなのだ。

あるものを生かして「おいしさ」を生み出す

佐藤さんは新潟に来る前、東京・銀座にあるフレンチレストランの厨房で働いていた。新潟に来てからは料理人としての意識が大きく変わったという。

「最高級〇〇と言われるような高価な食材を使って、新しくて奇抜な料理をつくることを目指していた時期もありました。けれど新潟に来てからは、毎年変化する素材の味をいかにおいしくするかということが料理人としての腕の見せ所かなと思うようになって。たとえばある年の桃が、渋みが強くて甘味が乗っていないというときに、いかにおいしくできるか。しかも素材の個性が生きる形でです。農家さんにとっても、自分がつくったものの持ち味や美味しさがわかる形が一番嬉しいだろうなと思うんですよね」

ルコトはお店を持ちつつ、休日を中心にキッチンカーの出店も精力的に行なっている。その仕事を支えるメンバーは女性7人。うち5人は子どもを育てる母親だ。飲食業界の課題としてよく挙げられるのが長時間で不規則な労働条件だが、ルコトでは家族との時間を大切にしてほしいと午後6時には仕事を終える。スタッフが子どもの学校行事などで都合がつけられないときでも、ワークシェアリングを採用しているため仕事を補い合うことができ、働き方が持続可能。大自然のなかでのイベント出店などでは子連れ勤務でもよく、キッチンカーに乗って子どもと一緒に出勤。会場で母親たちは働き、子供たち同士は自由に遊んでいるということも。また、たとえば人員が少なくとも回るように「シロップをソーダで割る、かき氷にかける」といったシンプルな工程でできるレシピを選ぶことで、作業の負担も減らしている。

最近は県外の地域でもルコトの取り組みを導入したいと各方面から声がかかる。それに伴い佐藤さんはこのルコトのスタイルを仕組みとして確立したいと考えており、農家からの仕入れや加工、福祉施設との連携のノウハウなどをまとめている。

ルコトが円滑油となり、作物も、人の力も、無駄になったりうまく生かされていないものがその力を発揮してポジティブな循環が生まれていく。「おいしさ」の背景に含まれるものまで理解して選択する人が増えれば、きっと社会は変わっていくはず。

Photo:大島彩

この記事の連載

この記事の連載

TOPへ戻る