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上越妙高のコンテナ商店街は街と人を育てる【フルサット】

北陸新幹線の上越妙高駅は2015年3月14日に開業した。その翌年・2016年6月17日、駅の西口には風変わりな商店街ができていた。貸倉庫や大型トラックの輸送などで使われるコンテナが道路側面に扇形に並べられ、そのコンテナの一つひとつが店舗となっている。

提供:株式会社北信越地域資源研究所

商店街の名称は「フルサット」。上越市の建築物でよく見られる、通路部分に伸びたひさし(雁木)を備えることで地域性も見せるコンテナ商店街だ。

新駅の周辺に広がる更地に、1台のコンテナを置いたところから始まったフルサット。今や3棟のホテルや日帰り温泉などが建つ象徴的なスペースであり、人と情報が行き交う場所となった。

フルサットを立ち上げ、運営している株式会社北信越地域資源研究所 代表取締役 平原 匡さんに、お話を伺った。

コンテナを活用した商業施設パッケージ「フルサット」とは

フルサットとは、建築用コンテナを使用して店舗を建築し、その組み合わせによって商業施設を設計する同社のサービス名、及び設計された商店街のこと。スペインのサグラダ・ファミリアのように完成形にとらわれることなく、その時点で揃っている施設が機能する。

コンテナは利用者の希望に応じて空調や水道などのインフラや、デッキやテラスなどの装飾を加えることも可能。(大きさは2.4メートル×6メートル、もしくは2.4メートル×12メートルのサイズ)

「コンテンツという言葉は『コンテナ』の中身の『コンテント』が由来になっていると言われています」

平原さんに言われて、すっと腑に落ちた。まさにフルサットが、一つ一つの店(コンテント)が集まって商店街(コンテンツ)になっているからだ。

大きな商業施設やビルの中にテナントが入る形ではなく、お店が増えることにコンテナを増やす。そうすると、商店街の形が変わってくる。フルサットはコンテナというユニットを使った、完成形を定めない柔軟な商業施設と言えるだろう。

コンテナはそれ自身が「空間」

学生時代は建築を学び、卒業後に移住した佐渡島で、古い建物の調査をしながら地域活性化に励んでいた平原さん。

「コンテナは、それを持ってくるだけで空間になります。増築もしやすく面白いシステムだと考えていました」

と構想を練っていた。ただし、すでにあるコンテナを使い回すのは難しい。

「雪国ということもあり、中古のコンテナの利用が現実的ではないと分かりました。建築物としての申請としては、許可が難しいのです。そこで、建築家の中野一敏さんと相談し建築用のコンテナを用いることにしました」

つまり、オーダーメイドのコンテナを用意することにしたのだ。コンテナに窓や換気面などのニーズに応じた加工を行い、電気や水道などインフラ面の基礎工事を施したうえで設置している。そうした工夫を重ねて新幹線駅前の広場のような建築空間を実現した。

地域活性の課題とフルサットが貢献できること

提供:株式会社北信越地域資源研究所

フルサットの開業時には、上越妙高駅前にはほとんど施設がなかった。駅前の野原に、コンテナ施設がぽつんと在るような状況だった。

そこからホテルが複数建ち、日帰り温泉・全国チェーンの人気珈琲店・立体駐車場・複合商業施設なども揃った。世界的な感染症の流行で成長は鈍化したものの、街は少しずつ成長の兆しを見せていると平原さんも感じているという。

ここから、駅を中心としたエリアはどのように活性化し、伸びていくのだろうか。平原さんは語る。

「これから、より積極的な公民連携に向けたアクションが欲しいですね」

提供:株式会社北信越地域資源研究所

フルサットは、行政の支援を受けずに構築した商店街。平原さん自身が出店企業と契約し、出店したい人と語り育ててきた。土地も借地だ。資金調達の苦労も、コストを抑える出店方法も、前例がない中で一つひとつの事象に取り組んでいくことで、彼の元には、ノウハウも人も情報も集まってくるようになった。

コンテナの商店街目当てではなく、平原さんの知見を学びに人が訪れることも増えてきたのだ。

コンテナ型商店街の他エリアへの展開はこれからだが、新しいことをしたい人が集まってくる場としてのフルサットは、すでに確立しつつある。

一方、エリア全体の成長を考えると公民連携でのまちづくりが欠かせない。

「上越妙高駅がジャンクション(連結・交差点の意味)化していくのでは、と思っています。環境を整えながら、進出してくる企業が増えてくれるとありがたいです」

上越市には、港もある直江津地区や・江戸時代から城下町として栄える高田地区といった大きな街がある。関東からの玄関口となる上越妙高駅近辺は、より伸びしろの大きいエリアと言えそうだ。今後、西へ新幹線が延伸して行くと西からの玄関口にもなる。

たとえばアートに触れることができる博物館のようなものが出来ると、人々が訪れる目的ができる。そうした「空間」を整えることが環境整備の一つだ、と平原さんは語る。

さらに空間を整えるには、新しくビジネスを創出し、人流的にも経済的にも貢献できる人材が育たなければならない。

上越新幹線駅の充実とフルサットビジネスのこれから

数年にわたるフルサットの運営経験を経て、コンテナの用意や工事・設置に関するノウハウは蓄積されてきた。これからのビジネス上の課題について、平原さんはこう語る。

「コンテナによる商店街だけでなく、全体を見渡してマネージメントできる人材の重要さを感じ始めています。今後はコーディネーターを育てることが大切だなと思っています」

お店・機能・人のパーツをどう組み合わせると全体として機能していくか。それを考え実現する人がフルサットのビジネスを伸ばすためには必要だ。

2024年には北陸新幹線は敦賀までの延伸開業を予定しており、2025年に上越妙高駅も開業10年を迎える。

「区切りの良いタイミングでもあるので、フルサットも大きくしたいですね。マンパワーを増やして、フルサットを拠点とした情報発信力を高めたいです」

そう思いを語る平原さん。今は管理側として、ほぼ「2.5名」でフルサットのビジネスを回している。

「将来、どんな変化が起きるのか? 地元・上越の人間が未来のビジョンの中になく、そこで一緒にビジネスを出来なければとても残念です。30年後もフルサットという街区が残り続け、明るい未来が来たときに、その中にフルサットがあって欲しい」

と笑う。以前は「身の丈に合わない伸びしろを考えることもありました」が、数年前に大病を患ってから、背伸びをせず、今の自分が今出せる最大限の力を発揮することを考えているという。

2022年4月からはコワーキングスペース「フルサットアップス」の運営もはじめた。これは上越市ワークスペース整備支援・施設活用事業補助金を得て開業したもの。これまでも行っていた起業などに関連したセミナーを、さらに充実させていく予定だ。

すでに情報発信やプログラミング・SNSの活用・動画・写真など、これからのビジネスの基礎になるラインナップを構えているほか、起業を検討している段階や組織内で漠然とした不安や不満を抱えた人が、第一歩を踏み出すための講座まで揃えている。

「まだまだ、何かに満足していないけれど具体的にどうしたらよいか分わからない、というモヤモヤしている方が多いように感じています。『何かはじめたい』という人に、具体的な道筋を見つけられるようにしていきたいです」(平原さん)

こうした活動を通して、上越妙高駅前のフルサットは情報・人のハブになっている。

店舗展開だけでなく人も育つフルサットに

東京中心の経済成長モデルが苦しいと言われ、地方創生・地域共創などといった言葉が
飛び交うようになって久しい。

行政が意思を示してサポートし、大手企業が民間として事業作りに取り組んでいくことが、地方・地域を活性化させる大きなポイントではある。がしかし、そこにはエリアを知る努力、問題に取り組む気力・体力・発信力を備えた、地元の人の存在が不可欠だ。

平原さんが創りあげたフルサットは、魅力的な店舗展開だけでなく、人材育成もセットにすることで地域活性に貢献できる。そんな可能性を感じられた。

フルサット

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