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みのわの魅力発信室は、「売り方が分からない」職人の仲介人【長野県箕輪町役場】

長野県のほぼ中央に位置し南アルプスと中央アルプスに囲まれる箕輪町は、自然がそばにありながら、どこにいても市街地は車で10分圏内。東京、名古屋どちらからも3時間ほどという交通アクセスがよいこの地域を、役場の横内裕汰さんは”ほどほどの田舎暮らしができるまち”と表現する。

そんな箕輪町の2021年度のふるさと納税の寄付金額が前年度比で約5倍に増加し、2億4064万円を超えたという(出典:2022年7月総務省)。驚異的な伸び率の影に「みのわの魅力発信室」の存在がある。2015年10月の発足以来、徹底した地域資源発掘の取り組みが実を結んだといえる。町の一番の資源は「人」。とりわけ地域の職人に着目した発信室配属1年目の横内さんが奮闘する日々から、作り手の思いを仲立ちに人をつないでいく、役場のこれからの姿が見えてくる。

※本記事は「ふるさとチョイスAWARD2021」時の内容となり、最新の状況と内容が異なる場合がございます。

役場は「伝い手」。作り手と使い手をつなぐ

横内さんが職人さんと二人三脚の商品づくりを始めるきっかけは、町の広報紙制作で出会ったある職人さんからの一言だったという。

「ものづくりは好きだけど、売り方が分からないんだよね」と相談を受けて以来、横内さんは職人の手仕事から生まれる商品の魅力を見つめ直すことになる。どんな方に買ってほしいかなど作り手の思いを聞き取り、その魅力を伝えるために自分は何をすべきなのか、掲載用の写真の撮り方から考え始めた。

「職人には頑固で物堅く、気軽に話しかけられないイメージがあったので、初めてお会いする時に変な緊張をしていたのを覚えています。実際に会ってみると、違い物腰が柔らかく親切な方ばかりでした。

熱い想いを持つ一方で、商品の価値や魅力を伝えるのが苦手で、売り方がわからない職人さんがいることを知りました。たくさん売るために価格を下げるのではなく、商品の価値がわかる人、ものづくりのストーリーに共感してくれる人に届けたいと願っていると聞き、会って話し尽くしたいという思いが芽生えたのです」(横内さん)

箕輪町に「みのわの魅力発信室」が設置され、移住定住、空き家対策、情報発信に力を入れてきたことで、少しずつ町に人が入ってきていた。新天地でものづくりを始める人、ましてや未経験の人にとって、ものづくりの可能性へ挑戦することだけが原動力であることは往々にしてある。そんな時に寄り添ってくれる存在は、とてつもない強さになる。

地域の人と直に触れ合える役場だからできること

これまで国の方針で地域力を高めるために自治体間の交流が盛んに行われてきた。箕輪町も古くから東京都豊島区と友好を深めていて、その一環の人事交流で横内さんは外の世界に触れることになった。

「豊島区では2年ほどお世話になりました。そこでは区民のみならず、他地域を巻き込んだ様々なイベントの企画、実施に明け暮れる日々でした。任期を終えて箕輪町の役場に戻った時、あらためて住民との関わりの多さに気づかされました。一人ひとりと向き合う機会が多いことに戸惑いつつも、それが箕輪町なんだなって」(横内さん)

外との交流で視野が広がり、故郷のよさに気づいた横内さんだったからこそ、あの日、一人の職人の声に耳を傾けることができた。

「ふるさと納税の返礼品について、作り手のこだわりを担保しながら寄付者に選んでもらうにはどうすればいいのかを職人さんと話し合いを重ねて完成したのが、セミオーダーのパスケースです。このお礼の品は、素材を数種類から選べて刻印ができる。どんなデザインにするかを寄付者が職人と直接相談できるというものです」(横内さん)

使い手は自分だけのパスケースを作ることができ、作り手は使う人のイメージにあったものをていねいに作ることができる。職人と共感者をつなげたいという横内さんの思いがかたちになり、これまでにない“お互いの思いを伝え合える返礼品”が生まれた。

人を知って、もっと街を知ってもらいたい

それにしても、木材と革を組み合わせたパスケースとは珍しい。硬い素材と柔らかい素材が仲良く手のひらに収まるのか?と、“引っかかり”のある作品に出合うと、作り手を想像して心が弾む。

木も皮も経年変化が楽しめる素材だから、時間を大切にする人だろうか。ものを大切にしてほしいという思いが込められているかもと、作品に共鳴するものがあればなおさらである。暮らしで大切にしたい思いがあるならば、それを体現してくれる作り手に思いを馳せるのは、工芸品を使う醍醐味だろう。

「箕輪町は人口25,000人の小さな町ですが、職人がたくさんいます。例えばパスケースを作る「PLYLIST」の小尾口さんは、理系出身の技巧派。接着剤一つとっても、なぜその接着剤を使うのか、他のものではだめなのかと疑問を持って成分の論文まで納得するまで読み込んだことのあるほど、作品に関わるものに妥協を許さない職人らしい方です」(横内さん)

屋号に込められた意味がウェブサイトで紹介されていた。

「Ply(プライ)=重ね合わせる、撚り合わせるPlaylist(プレイリスト)=音楽の再生リスト(曲を再生する順番をリスト化したもの)という二つの単語を組み合わせた造語です。人それぞれの価値観、生き方、理念、ライフスタイルに応じた素材や技術、デザイン、アイデアを組み合わせた作品というリストを提案することで、心から豊かな生活を送るために、少しでも役に立ちたい。そんな想いからこの名前を決めました。音楽のようにその人にとってかけがえのない存在になるものを、そして、暮らしと心を少しでも豊かにしてくれるものをつくれるように、私達はなりたいです」(「PLYLIST」ウェブサイトより抜粋)

「職人さんが作る商品の素晴らしさと、箕輪町という名前、箕輪町のよさを全国のみなさんに知っていただけるよう、“ずくだして(一生懸命)”頑張っていきたいですね」(横内さん)

工芸品と並んで、作り手の顔が見たくなるのが農作物。箕輪町の名物といえば、赤そば。秋には東京ドームほどの広さのある畑が一面赤いじゅうたんのように染まる。そばの花が咲く頃に、箕輪に足を運んでみるのも面白そうだ。

長野県箕輪町

PLYLIST

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