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寄付金は「子ども一択」で保育園児の逆上がり100%達成!「子どもたちへのラブレター」で地域を巻き込む職員【京都府宇治田原町】

2024年に実施されたふるさとチョイスアワード。まちのために頑張っている、ふるさと納税担当職員の熱い想いやその取り組みを選出するのが「チョイス自治体職員部門」だ。同部門で大賞を受賞したのが、京都府・宇治田原町の自治体職員の勝谷聡一さん。これまでの取り組みを振り返りながら、多方面で評価されたアイデアとこだわりを探った。

「子ども限定」だからこそ伝わるもの

そもそも、ふるさと納税と聞くと、まずお礼の品について注目が集まりがちだ。それはもちろん重要だが、一方で本来のふるさと納税の意義、すなわち応援したい自治体に寄付ができる制度を考えてみると、「寄付金がどう使われるか」という視点も重要だ。

京都府の宇治田原町ではふるさと納税で集まった寄付金は全額、未来を担う子どもたちのために活用すると限定している。多くの自治体で、「高齢者支援」「まちづくりに活用」など複数の使途を提案していることが常だ。広く開かれたふるさと納税で、寄付金の使い道を限定することは、納税者を限定してしまうというリスクにはならなかったのか。地域から反対の声は上がらなかったのか。ふるさと納税の担当者である自治体職員の勝谷聡一さんは言う。

「寄付金の使い道を子ども支援に絞ることに対しては、地域から反対の声は上がりませんでした。もともと子どものためと限定したほうが、自治体としてのメッセージが一層伝わるのではないかと思っていました。宇治田原町の人口は9000人弱。一学年の子どもの数が年間で50人以下と、決して多くない地域です。だからこそ、寄付金の使い道を限定したほうが結果は出やすいのではないかとも考えていました」

「保育園児の逆上がり達成率100%」より大切なこと

そこで宇治田原町が寄付金の使途として立ち上げたのが、「未来挑戦隊チャレンジャー育成PROJECT」、通称「ミラチャレ」。子どもたちの夢を全力応援するというコンセプトのプロジェクトで、特色ある様々な取り組みを令和2年から展開している。

ミラチャレのプロジェクトには、例えば「50メートル走を1秒速くなる講座」や「ソフトボールを2m遠く投げる講座」といった体を使ったものがある。一方でフィンランド教育の第一人者による「読解力を高めるための講座」もあったりと、文武両道、多種多様だ。

そのミラチャレの象徴的なプロジェクトのひとつが、保育園にサーキット運動を導入すること。子どもたちが毎日楽しみながらコースを周遊できるアスレチック施設に投資、なんと半年間で年長児の100%が逆上がりをできるようになる、という大きな成果が得られた。通常、小学校1年生で20%ほどの達成率というから、いかにこのプロジェクトが明確な結果を残しているかがわかるだろう。

ただし、と勝谷さんは言う。「逆上がり達成率100%という数字が重要なのではありません。保育園の先生たちいわく、子どもたちが意欲的に物事に取り組み、自己肯定感の高まりを実感できたと。そうした子どもたちの気持ちの変化こそ、もっとも大きな成果だと思っています」

さらにミラチャレのプロジェクトのひとつとして、宇治田原町の子どもたちが登場するオリジナルポスターの制作も実施した。地域の子どもたちが将来の夢に変身した姿を撮影し、オリジナルのポスターにしたものだ。ひょっとしたら今はまだ、子どもたち自身はこのポスターの本来の意味がわかっていないかもしれない。けれどきっと大きくなったら気づくはずだ。まちの大人たちに見守られ、愛されて大きくなってきたことを。

「私自身、宇治田原町で生まれ育ちました。幼少の頃は地域の人との距離が近くて面倒だなと思ったこともありました。けれど大人になって初めて、周囲の人々に見守ってもらっていたんだと気づくんですよね。だからミラチャレもそんな機会になってほしいです」

3年前からは公立中学校での本物の商品開発の授業にトライ。初回は想いに応えてくれる地元企業を探して、ゼロ予算で行うというプロジェクトも実施した。高校生でこうしたプロジェクトは散見するが、公立中学校での取り組みは全国でも初めてのことだという。

人を頼りつつ進める「シビックプライド」の醸成

着々と進んでいるミラチャレだが、すべてが順風満帆だったわけではない。勝谷さんがふるさと納税の担当者に着任したのが5年前。その当時から、地域で現在のように士気が高まっていたわけではない。多くのプロジェクトがボトムアップで進み、時間を要することも多々あったという。

「少しずつ関係者や住民の方を巻き込む形で進めてきました。取り組みの中で、地域の方や関係者からいろいろと意見をいただくこともあります。そういうときは逆にご意見をくださる方に力を貸してもらえるようにお願いしてきました」

数々の取り組みを行うミラチャレだが、その秘訣のひとつが「人に頼ること」だと勝谷さんは言う。その結果、多くの協力者が生まれ、議会や庁内だけでなく、住民の意識の高まりが感じられるようになった。

「この『ミラチャレ』はシビックプライドの醸成、つまり地域の方々にこの地に対して誇りを持ってもらい、そして自分事として向き合い行動してもらうということを目標としています。ただしそれは決して短時間ではできないもの。ミラチャレをスタートさせて3年ですが、まだまだ時間が足りていないと感じています」

人口減少が進むまちで未来を悲観しないために

現在もふるさと納税の担当者として、新たなミラチャレの取り組みについて日々奔走している勝谷さん。自ら発案した事業は50を超え、今では町の主要事業に成長している。

こうした功績もあり、勝谷さんは「ふるさとチョイスAWARD 2023」において、チョイス自治体職員部門で大賞に輝いた。「自身もチャレンジしてよかった」と語りつつ、大賞受賞は応援してくれる人がいたからこそだと強調する。先日は「こどもゆめマルシェ」と題し、住民・返礼品事業者が自らマルシェを開催した。子どもたちが自分で考えたお店が並び、子ども店長さんたちがマルシェを盛り立てたという。

ミラチャレに取り組んでいく中で、一自治体職員であっても、ふるさとは変えられるという意識も勝谷さんの胸の中に宿っている。

「宇治田原町はほかの自治体同様、人口減少の時代に突入しています。ただし危機感を持っている住民の方は決して多くありません。いずれ消滅してしまう……そんな思いを持っている人は少ないのが現状です。子どもたちのほとんどが新興住宅地に居住していますし、バスの便の減少など、担い手不足も顕著です」

だからこそ、長い目でシビックプライドの醸成、すなわち地域に対しての誇りを持つことが必要だと勝谷さんは考えている。たとえ人口が減少しても、主体的にまちづくりを担ってくれる活躍人口、さらには宇治田原町に積極的に関わってくれる関係人口が増えていけば、決して未来は悲観するばかりではないからだ。

勝谷さんはミラチャレに関して、「子どもたちへのラブレター」と言い続けている。宇治田原町の子どもたちは今日も、愛情たっぷりのラブレターを受け取り続けている。後押しとなるのが、宇治田原町のふるさと納税であり、子どもたちに限定した寄付金の使い方なのだ。

宇治田原町の取り組みについて、「保育園児の逆上がり率100%」という数字にひかれ、話を聞きにくる他の自治体の職員も少なくない。それに対し勝谷さんは、地域を巻き込んでいく「頼る力」、何より長い目を持って子どもたちの未来を考える重要性を語る。一職員の熱量、そして使い道を限定した寄付金があってこそ、ミラチャレはこれだけの成果をなしえているのだろう。

「ふるさと納税のお礼の品合戦から一歩進んでいきたいと思っています。何をもらうかだけではなく、それをどう使うか、どうやって共に未来を創っていけるかというフェーズに移行していければと考えています」

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