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「麹や発酵の敷居はまだまだ高い」ガラス張りの麹室でひらく発酵文化

京都駅のすぐ西。人気のレジャースポットが集まる梅小路エリアを歩いていると、「梅小路醗酵所」と書かれたガラス越しに、座布団のようなものが入った木箱が並んでいる。米麹作りを行う、麹室(こうじむろ)と呼ばれる部屋だという。その奥には、カフェやショップのような空間が続く。ここは、麹をはじめとする発酵の魅力を五感で感じられる複合施設。運営するのは、昭和10年創業の大阪の酒屋「上田酒店」だ。発酵文化をベースに、一体どんな仕掛けを作っているのか?上田酒店のデザインチームであり、醗酵所の企画全般を担う山口真央さんに話を聞いた。

日本で初めて、麹室をガラス張りに

コロナ禍で、健康志向の高まりとともに発酵食品ブームが再来している。けれど、その発酵の元になる「麹」については、あまりイメージがわかない人も多いかもしれない。ここでは、そんな麹菌を使った米麹作りの工程を間近に見ることができる。

まずは麹のタネである麹菌を白米にふりかける。発酵ムラがでないよう1日1回入念にかき混ぜるうちに、菌が培養され、5日ほどかけて米麹が完成する。麹室の内部は、麹菌が活動しやすい温度(30〜45度)と湿度(50〜60%)をキープ。麹室がガラス越しに見られるのは日本、いや世界でもここだけだそう。

「麹室は古くは女人禁制で、それどころか酒蔵さんでも杜氏さん1人しか入れない神聖な空間でした。菌の世界はよくバトルロワイヤルに例えられます。納豆やヨーグルトなど様々な菌との戦いが行われ、勝ち抜いた菌だけが培養に至ることができるからです。その意味では、他の菌が入り込まないよう、外との接触を遮断する目的もあったのでしょう」

見られないのが“普通”だった麹作りを、梅小路醗酵所はオープンにした。ちなみに梅小路醗酵所ではスタッフ全員がこの麹作りを学び、身につける。「学校帰りの小学生や観光客の方。色々な人が物珍しそうに覗いて行かれます」と山口さんの言うように、ここでは麹作りが何気ない風景の一つになっている。

ここでは米麹作りの「かもす」に加えて、その米麹を使った甘酒やぜんざいなどを「のむ」、発酵にまつわるアイテムを「かう」、またワークショップで「まなぶ」の4つの角度から、発酵文化を五感で感じられる。注目したいのが、ユニークな学びのプログラム。自分好みの塩麹・醤油麹が作れるワークショップは予約無しでOKという気軽さが人気で、かたや不定期開催のワークショップは発酵アドバイザーに京都の老舗味噌屋にスープ作家……など毎回様々な専門家を呼んで行う本格派。「玄米鮒鮓を漬ける会」「味噌で豚汁レボリューション」など、内容はどれも濃い。発酵を軸に、世代・ジャンルを超えた人のつながりが生まれている。

デザインで発酵文化の敷居を下げる

内装や商品のデザインはシンプル&モダンで、伝統食の重たいイメージは一切感じられない。山口さんは店舗立ち上げから、商品企画やパッケージデザインを一任されてきた。そんな彼女も入社前は、発酵は未知の世界だったという。

「麹がお米からできているのを知った時にびっくりして。乾燥麹のパッケージは、その時の米粒のイメージから生まれました。麹、発酵、伝統食品の敷居はまだまだ高いです。なので、できるだけハードルを下げて発信していきたいです」

乾燥麹は、こちらの麹室で作られた米麹を乾燥させたもので、一番の人気商品。実際に麹室での手作業を見た後では、その有り難みもひとしお。麹があれば、甘酒、味噌、塩麹、醤油麹、ドレッシングやソースなどが手作りできる。もともと和食と麹の縁は深い。だから麹を知れば、毎日の食の世界も無限に広がる。

京都の食に麹は不可欠

西京味噌に粕漬け、漬物、日本酒……などと、京都の伝統食には発酵食が多い。なんと室町時代には既に、北野天満宮が麹屋の同業者組合「北野麹座」を結成し、麹の製造や販売の独占権を取り仕切っていたというから、その歴史は古い。それを受け継ぐように京都には、今では珍しくなった麹菌を作る種麹屋、通称“もやし屋さん”も残っている。創業300余年という「もやし屋 菱六」さん。現存する種麹屋は全国でも10軒程度で、そのうち京都にあるのは菱六さんのみ。

上田酒店はこうした醗酵所を全国4箇所に構える。梅小路醗酵所は、その総本山的存在だという。

「もともと麹文化の根付く街として親和性は感じていましたが、出店のお話をいただいた際に、梅小路という名前に偶然『梅』と『小路=麹』が入っていたのにも不思議なご縁を感じました」

目標は、醗酵所を47都道府県に作ること

上田酒店は、先代までは酒蔵から卸したものを小売りする小さな酒屋だった。が、今ではスーパーでもお酒を変える時代になり、3代目である当代より、日本全国の小さな蔵元の美味しいお酒だけを取扱う酒専門店へ方向転換。オンラインの梅酒専門店や、お酒の造り手と飲み手の関係性をデザインする「上田酒店デザイン事務所」を立ち上げるなど、新しい領域の開拓が、業界を超え注目されている。

近年では、細菌・酵母・カビなどの生物と、生産者・職人・杜氏さんなどの、お酒の醸造に欠かせない存在に着目。2つの“視えない”造り手たちの魅力を伝えるために、「醗酵所PROJECT」と称して、醗酵所や麹をテーマにした飲食店を展開している。

「商品企画やデザインをする上では、その商品がどんな場所でどのように作られているかを知らないと、良い伝え方は決してできません。こうして自分たちが製造から販売まで一貫して携われる場所があることが、新しい魅力発見や発信にも繋がっています」

山口さん曰く、醗酵所PROJECTが始まってからは、社員と作り手の距離がぐっと身近になったという。酒蔵の方で廃棄予定だった酒粕を分けてもらい、パッケージに詰めて販売することもある。コロナ禍ではこんなこともあったと教えてくれた。

「お酒の販売が芳しくなく、『酒米が余っているからもらってほしい』と酒蔵さんからいただいたり、こちらからも積極的に酒蔵さんから購入するようにしました」

上田酒店の大きな目標は、醗酵所を47都道府県に作ること。例えば滋賀の鮒寿司や茨城の納豆のように、発酵文化は土地の数だけあるからだ。醗酵所は発酵の玄関口であると同時に、地域の食の真髄が垣間見える。そんな場所になっていくのかもしれない。

写真:町田益宏

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