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一度の失敗で人生は終わらない。出所後の若者を支える自立準備ホーム【なんとかでき荘】

少年院や刑務所を出所したあと、帰る場所がなく、お金も住む家も持てない若者たちがいる。

若くして過ちを犯してしまったら。もし彼らに頼る人や帰る家がなかったら。その後、彼らはどうやって生きていくのだろうか? 彼らの未来のために、大人や社会は何ができるのだろうか?

そんな彼らを一時的に受け入れる民間施設、自立準備ホーム。今回、2021年12月に横須賀市初の自立準備ホームとして登録された『なんとかでき荘』に訪問。施設を運営する『認定NPO法人なんとかなる』に所属する、寮母・宮入真由美さん、施設長・堀川清さん、共同代表であり前横須賀市長である吉田雄人さんに、身寄りのない若者と施設の実態、地域の大人たちができる自立支援について伺った。

一度の失敗で人生は終わらない

身寄りのない若者の自立を支援する『なんとかでき荘』の活動は、14年前にさかのぼる。

発端は共同代表のひとり、岡本昌宏さん。当時、鳶職の会社『株式会社セリエコーポレーション』を経営する一方、全国の少年院や刑務所で講演活動をおこなっていた。

その中で出会ってきた、過ちを悔んでもがく者、更生しようと努力する者、残念ながら再犯に至ってしまった者。ヤンチャをしていた過去の自分と重なるようで、放っておくことができなかった。

一度コケてしまった若者に「また待ってるよ」と前向きな声をかけてくれる人がいるかどうか。周囲の決して諦めない前向きな思いがあれば、若者たちの人生は変わるはず。

“なんとかしてあげたい” 一心で、頼ってきた若者に手を差し伸べてきた。

刑務所を出所した後、帰る場所が決まっていない人はどのくらいいるのだろうか。

令和2年の満期釈放者7440人中、43.9%の人の帰住先が「その他」となっている。暴力団関係、出入国在留管理庁への身柄引渡しもあるだろう。行方がわからない人もいる。その者たちはどのように仕事を見つけ、暮らし、社会に戻っていくのか。実態はわからない。

自立準備ホームの制度は2011年に始まり、2020年4月時点で全国に432箇所登録されている。横須賀市は、『横須賀刑務支所』『久里浜少年院』が立地する地域にもかかわらず、これまで更生保護施設も自立準備ホームも存在しなかった。

再非行・再犯を防ぐために。一度罪を犯してしまった者が、また社会復帰できるように。施設の数も行政からの支援も、まだまだ足りないのが現状だ。

家がない、食べれない若者が日本にいる

「立ち上げの頃、岡本は頼ってきた子たちを雇い、身銭をきって住居と食事を用意してあげていました。2014年に受け入れ場所として運営しようとなったとき、求人募集を見て入ったのが私です。2016年で、NPO法人として運営をはじめたタイミングでした」

寮母の宮入さんが、施設である一軒家を案内してくれた。常時5〜6名が滞在できるようになっており、20代が中心だが、相談があればどんな人も受け入れるという。

「50歳くらいの人もいましたよ。少年院から弁護士を通じて来る子や、ホームページを見て『何日も食事をしていない』『今野宿で生活している』と連絡してきた子もいます」

施設までの交通費さえ持っていない人もしばしば。山口県まで足を伸ばし、迎えに行ったこともあるのだそう。

「入居してきた子は、翌日からすぐに働き始めます。5時にみんなを起こして送り出すんですが、これがまあ大変。遅刻には厳しい岡本ですから、とにかく鳶の現場に遅れないように送り出すのが私の仕事です」

鳶職が肌に合わず続かなかったり、他の仕事を探したりする子もいるというが、中には8年間勤め上げた子もいるそうだ。保護施設でも就労支援事業でもない自立準備ホームは、あくまで入居者自身で働き、生活を送らないといけない。

管轄である法務省から出る委託費は、1人1日あたり4,000円、期間は最長6か月。この金額で施設の家賃、備品、人件費、すべてを賄うことは正直むずかしい。

「夕飯くらいはみんなで食べられるように用意してあげようと、私含め、3人が交代で作りに来ています。刑務所に8年ほど入っていた人が入居してきたとき、この施設に来て部屋を歩き回って、ホッとした表情で『ああ、いいなあ』と呟いていました。誕生日ケーキを出したら『親にも祝ってもらったことない』と喜んでいた子もいました」

入居者はまるで孫のようだと話す宮入さん。あくまで自然体で接することを心がけているそうだ。

また、なんとかでき荘では、住まいと仕事に加え「学び」を提供している。日本財団の『職親プロジェクト』と手を組むことで、入居者は週に1度、働いた分の日給を受給しながら、学びに時間をあてることができるのだ。

「うちは横須賀の学習サポート・スコラさんと連携しています。英語を勉強したい子には英語を学んでもらうなど、本人の希望に出来るだけ沿った授業をしてもらっています」

食べ繋ぐための労働だけに追われている状態では、明るい未来は想像できない。

学びたいことを学ぶ、好きなことを仕事にする、所帯を持つ。一人ひとりが未来を見据え、自分で選び歩んでいくための自立支援が必要だ。

傷を抱えた子たちをなんとか支えたい

同法人は、自立準備ホーム『なんとかでき荘』のほか、2017年より自立援助ホーム『なんとかなり荘』も運営している。

自立援助ホームとは、児童養護施設(孤児院)等を出た後、自立を目指す若者が一時的に滞在できる施設。6割以上の子どもが、親の虐待や家庭的な事情から入居する児童養護施設は、原則、18歳のタイミングで出なければならない。しかし、全員がスムーズに就職先と住居を確保できるわけではないのだ。

「親から虐待を受けてきた子、自傷行為をする子や、解離性障害を持つ子など、家庭や精神に問題を抱えた子が多いように感じます」

そう話すのは施設長の堀川さん。

24時間体制で対応するなんとかなり荘は特に、スタッフの精神的負担も大きい。障害を持つ子に関しては常時専門家にアドバイスをもらいながら慎重に対応にあたるそうだ。

決して生半可な気持ちでは居られない現場。向き合い続けられる理由を伺ってみた。

「僕は元々経理職で入ったんですが、途中から現場にも関わるようになりました。ここにいる子たちの過去の記録を見たり接したりしていくうちに、僕でも何かできることがあるかもしれないと思うようになったんです。子どもたちって、別に専門家を求めていないんですよ」

朝、また罵倒を浴びせられるかもしれないと、施設に向かう足取りが重くなることがあるそうだ。それでも、自分の子どもと同世代の子たちの姿に、目をそらすことができなくなった。

「施設の現場に出るようになった頃、とある女の子がいたんです。高校生だったその子は、スタッフに常に悪態をついてくる、手がかかる子だと聞いていました。その子が施設を退去する日、僕は事情をよく知らず『なんでそんなひどいことを言うの?』と彼女に言ってしまって。そこから2時間くらい話をしたんです」

「最後に『頑張れよ』と伝えたとき、その瞬間に大泣きしてしまったんです。その場ではすぐにケロッと泣き止んだんですが、そのあと、これまでの失礼な態度をみんなに謝りたいと言い出したんです。この一件からは特に、私の彼らを見るように変わった感覚があります」

入居者が声を荒げたり、急に居なくなったり。少年院を出院して、心を入れ替えて頑張っていると思ったらまた再犯に手を染めてしまったり。スムーズに社会に巣立っていける子のほうが少ない。

「それでも頑張れるのは、スタッフの力も大きいです。このチームなら、関わった子たちがなんとかなる場所にできるんじゃないかと思うんです。NPO法人として、フルタイム社員ほどの給与が出せるわけではないですが、複業や定年後の仕事として、関わってくれる人を増やしたいですね」

NPO法人の多くは、限られた予算と人数で運営している。当団体はもちろん、関心のある分野や、住んでいる地域にどんな団体があるかを知ることから始めてみてはどうだろう。ふるさと納税を利用する団体も増えてきているため、ぜひ活用してほしい。

官民と地域で、若者が希望を持てる社会に

代表理事の吉田雄人さんは、2009年から2017年まで横須賀市長として公務に励んでいた。

「岡本とは幼馴染みなんですが、市長時代に偶然再会した際に活動の話を聞いてから、よく連絡を取り合っていました。市長時代、私は “一票を持たない人のための政治” をしたいと活動してきましたが、児童養護分野(自立援助ホーム)の活動はそれなりにできたものの、法務分野(自立準備ホーム)は国管轄の事業なので、関われなかったんです」

そんな背景から、市長任期を終えてしばらくしたタイミングでNPO法人なんとかなるの共同代表理事として加わることとなる。

「結局、どちらも同じ社会状況から生まれていると考えています。行政の切り分けじゃなく、そういう子たちと向き合いたいと思っています」

吉田さんの参画後、NPO法人としての環境整備を加速。2021年12月、法務省横浜保護観察所から “横須賀市で唯⼀の⾃⽴準備ホーム” として認定を受け、年が明けた2022年1月には “認定NPO法人” となった。

「次は、貯蓄奨励プロジェクトと、もうひとつ施設を作ろうと思っています」

特に貯蓄奨励プロジェクトは、若者の社会的自立のカギになると話す。

「自立準備ホームにいる子たちは働いてますが、自立援助ホームは働いていない若者(働けない若者)が多いんです。幸い国から最大30万円の補助は出るんですが、生活をはじめる自立資金としては不十分。少しでも貯金すればその分をマッチングギフト方式で上乗せされて額が増えるような、貯蓄したくなる仕組みを作りたいと考えています」

施設は、20歳以上の若者のための場所作りを目的に検討中だそうだ。

「自立援助ホームにはハタチの壁があるんです。原則20歳までの若者が対象なので、20歳を超えてからも居られる場所が必要。援助ホーム・準備ホームなのか、別の形なのか。詳細は検討中ですが、施設はまだまだ必要です」

自立準備ホームの432箇所に対し、自立援助ホームは2022年6月現在、全国に232箇所登録されているが、いずれも横須賀には一施設ずつしかない。地域に複数施設があることで、入居者同士のトラブルにもすぐに対処することができる。

「社会問題は、行政だけでは解決できない時代が来ています。民間や地域と掛け合わせ、協力していくことが大事ですね」

家庭に恵まれなかったから、たった一度罪を犯してしまったから。そんな理由で、未来に希望が持てないなんてことがあってはならない。

日本に生まれた若者が平等に生きられるように。あなたの住む地域にもきっと、頑張る大人たちがいるはずだ。

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