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「ピンチをチャンスに」子育てしやすい街11年連続1位の市職員の底力【福岡県北九州市役所】

コロナ禍に「ふるさとチョイス」を活用して、ピンチをチャンスに変えた自治体がある。「子育てしやすい街」11年連続第1位、「オトナが住みたい地方」第1位など、子どもから大人まで住みやすい街として知られる、福岡県北九州市だ。

政府から全国へ緊急事態宣言が発令され、誰もが暗闇を彷徨っていた中、北九州市職員の内海友宏さんらは、「ふるさとチョイス」を使った新型コロナウイルス対策への支援プロジェクトに素早く参加し、光に向けて一歩踏み出していた。

未曾有の事態が起きたことで皮肉にも、「ふるさと納税」が困っている人を救うことのできる制度ということが証明され、今ふたたび地方の創生に向けて自治体が行動を起こすべきときは来た。北九州市はどのように取り組んできたのだろう?

※本記事は「ふるさとチョイスAWARD2021」時の内容となり、最新の状況と内容が異なる場合がございます。

「やっても地域内に残らない」サイクルを断ち切る

「税金を意思ある地域の、意思あるプロジェクトに、国民自らの意思を反映できる仕組み」として「ふるさと納税」が生まれたのは、周知の事実だ。全国の自治体はこぞって、地域外から地域内に入ってくるお金を増やすためのツールとして、この仕組みを積極的に取り入れたのだが、多くの地域で経済循環がうまくいっていないのが現状だ。

「本市は数年前まで寄附件数・金額ともに受入れが多くはありませんでした。また、人口が減少している状況が続いており、地場産品事業者は地元での商品販売のほかに、商圏の拡大が必須となってきています」とは、北九州市職員の内海友宏さんの言葉である。

その真因の一つに、「域内の循環」をおざなりにしていることが考えられる。

「本市ではこれまでふるさと納税に関する運営業務の全てを仲介事業者へ委託をしていました。そのため、返礼品提供事業者との信頼関係も築けていませんでした」(内海さん)

返礼品提供事業者と市が仲介事業者を介さずに直接やり取りするようになったことで2つの効果があったという。

  1. 経費の節減(仲介手数料がかからなくなったことで返礼品代金を抑えること)ができ、寄附額に対する返礼品の内容・魅力アップができたことと。
  2. 返礼品提供事業者との直接のやりとりで信頼関係が築け、魅力ある返礼品の提案に結びついたこと。

「街のためにやるべきことは、将来的に何かを残すこと」だと内海さんは話す。「ふるさと納税」の活用について、これまでの考えを改め、中長期を見据えて市職員一丸となって取り組みを始められたことで、令和2年度には同市で過去最高の約12億円もの寄附が集まった。

「街の同伴者」になれたことで歯車が動き出した

街の人と信頼関係を築くために、まずは業務分担の見直しに取り掛かった。

「平成30年度から寄附証明書・返礼品受発注処理などのバックヤード業務は、引き続き委託し、それ以外の返礼品の発掘やPRなどは、地元出身の市職員自らが行う体制に変更しました。市内各地を足しげく通い、パソコンの操作方法のレクチャーやネットショッピングの価値を伝えることなどの交流を通じて、少しずつですが着実に、街の事業者の方々との信頼関係を築くことができました。ここにある土地のよさを知り、街の人たちの暮らしを見ることは、地場の魅力あるモノを返礼品に加えて磨き上げることにつながり、これまで以上に返礼品が魅力的になりました」(内海さん)

「大都市」と「自然」が共存する街、北九州市の返礼品には、豊富な海の幸・山の幸のほか、オリジナリティのある地場産品が揃っている。

例えば、本場のとらふぐ料理。熟練の職人がていねいにさばいたとらふぐが、最高のタイミングで家庭に届く。

1923年創業の100年企業がつくるペット用ソファは、細部に家具職人集団の技が光る。

商品開発で地場産業の強みを生かしきる

さすが「鉄の街」北九州。最盛期には、国内で作られる鉄のおよそ70%を生産していたという、街の特長を生かした返礼品も目に留まった。

「これまで部品や金型加工など、一般の消費者にはちょっと遠いところのお仕事をされている事業者の方々とタッグを組み、焚き火台、鉄板、グリルなどのアウトドア・キャンプ用品を開発しました。軽量・ミニマム・コンパクトにこだわった自信作です」(内海さん)

新製品開発は一朝一夕で実行できるものではない。街の事業者と市職人が一枚岩となって、職人の技術の粋を集めた返礼品で、市の魅力を発信しようとする強い意思を感じる。

真価が問われるのは人か、ツールか?

外出を控えざるを得ない状態が続くコロナ禍、ネットショッピングに注目が集まり、ふるさと納税もその影響を大きく受けることとなった。

「これまで3年間で取り組んできた効果が大きく出ることとなりました。飲食店の休業によって地場産品の消費の減少を補う大きな効果をもたらしました」(内海さん)

時を同じくして、「ふるさとチョイス」が全国の自治体と連携して始めた、「新型コロナウイルス対策をふるさと納税で応援しよう」というプロジェクトにも同市は素早く反応し、参加を表明。感染症対策事業に対して寄附を求める「ガバメントクラウドファンディング(GCF)」※1を立ち上げて、目標達成率148%、およそ7400万円もの寄附を集めた。

その成功も、街の人たちの絆があってこそ。

「仲介事業者に任せず、市職員自らが関係者と調整するなどを行い、関係機関のご協力もあったことから、短期間で『ガバメントクラウドファンディング』を立ち上げることができました。その後、2020年5月中旬頃から新型コロナウイルスの第2波が全国に先んじて本市で発生するなど危機的な状況に陥ることになりましたが、全国の皆様からのご支援によって目標金額を達成することができました」(内海さん)

「ふるさとチョイス」には大きく3つの役割がある。

  1. 地域の産業支援となる「ふるさとチョイス」
  2. 地域の課題解決のための資金調達である「ガバメントクラウドファンディング」
  3. 有事の際に被災地に直接寄付できる「災害支援」

内海さんらが今回活用したのは、使い道から地域を応援する「ガバメントクラウドファンディング」。同じ課題を持つ自治体らが連携する機会が増えれば日本を大きく変えることができそうだ。チャレンジする人のもとで、ふるさと納税はこれから真価を発揮していくだろう。

もちろん、税金の使い道を選ぶ国民一人ひとりにも問われていることを忘れてはいけない。

福岡県北九州市

※1ガバメントクラウドファンディングとは、「ふるさとチョイス」がふるさと納税制度を活用して行うクラウドファンディングのこと。クラウドファンディングとは、不特定多数の人がインターネットを通じて他の人々が組織に財源の提供や協力を行うこと。ソーシャルファンディングともいう。

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