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市内で唯一の銭湯を残したい!後を継いだ星良則さんの想いとは?【幸の湯】

栃木県南部に位置する小山市(おやまし)。小山市の中心にある小山駅は新幹線が停車し、首都圏へ通勤する多くの人が利用している。小山駅西口から8分ほど歩いたところにある銭湯「幸の湯」は、小山市内で唯一の銭湯だ。

約60年間、地元に親しまれていた銭湯「幸の湯」。2020年に先代が病に倒れ、存続の危機が訪れた。急きょ三代目として後を継いだ長男の星良則さんに、「幸の湯」への想いや、各地方で姿を消しつつある銭湯の役割と未来について話を伺った。

銭湯「幸の湯」に 存続の危機が訪れる!

銭湯「幸の湯」は創業1961年。営業中はのれんがかかり、いかにも昔ながらの風情がある外観が特徴だ。

のれんをくぐり、番台でお金を払う。先に汗を流し、熱めのお湯にゆったりとつかる。

男湯には富士山、女湯には立山連峰の立派なペンキ絵が描かれている。常連客が足繁く通い、隣県から訪れるお客さんも多い。

今では市内で1つだけとなってしまった銭湯「幸の湯」。2020年10月末に先代の星良行さんが病気で倒れ、やむなく休業に追い込まれた。星良行さんは約60年間、84歳まで番台に立ち続けていた。

先代の長男・星良則さんは、「幸の湯」がなくなるかもしれないと思ったときに、後を継ぐことにまったく迷いはなかったそう。子供の頃から当たり前にあった「幸の湯」がなくなってしまうことは、到底考えられなかった。「なくなると困る」という常連さんからの切実な声も、励みとなった。

当時、勤続39年の運送会社で働いていた星良則さん。会社をすぐに退職し、「幸の湯」を継ぐための準備をした。お風呂を沸かすための機械の操作から、帳簿の付け方まで、すべてを一から学んだ。

先代が病気に倒れやむなく休業に追い込まれた約1ヶ月後に、星良則さんによって「幸の湯」は営業を再開した。

地域からの支援、星良則さんの想いとは?

「幸の湯」の再開にあたり、地元からの支援もあった。1961年の創業当時から使われ、古くなり傷んでいた鏡は、地元の店舗の協賛により新しいものに張り替えられた。

鏡の張替えの協賛を募り、取り換えを実施したのは、地元のガラス店「増山硝子店」の店主・増山さん。

「子どものころから親しみがある幸の湯。自分ができることをしたかった。1人ではできなかったことなので、協賛者にも感謝している」(増山さん)

星良則さんが「幸の湯」の後を継いだとき、今まではやっていなかったことにも力を注いだ。その1つが情報発信。ショップカードやパンフレットを作成し、SNSでの発信も始めた。TwitterやInstagramの使い方を勉強し、今では毎日のように更新を続けている。

「日本全国の銭湯が、どんどん姿を消していっている。これも時代の流れなのか。さらにコロナ禍で追い打ちをかけられて……。このままではいけない、何かしないといけない、そんな想いが強かったですね。60年以上この地で続けていても、意外と知らない人が多いんですよ。小山に銭湯があるということを。知ってもらいたい、銭湯に来たとこがない若い人にも来て欲しい。そんな思いがありますね」(星良則さん)

銭湯の魅力はコミュニケーションがあること

いわゆるスーパー銭湯では得られない魅力が、銭湯「幸の湯」にはあると話す星良則さん。
その1つがコミュニケーション。番台を通して会話できるのは、銭湯ならではだ。おしゃべりが楽しみで通う常連さんも多く、憩いの場になっていることが伺える。

初めて訪れたお客さんが、通い続けるうちに他のお客さんとも仲良くなり、友達が増えていく様子を嬉しそうに語ってくれた。一人暮らしのお年寄りが多い世の中で、「幸の湯」が担っている地域の役割は大きい。

発信を続けている「幸の湯」のSNSを見て、遠方から来るお客さんも増えてきた。部活の遠征で利用する学生や、幼稚園のお泊り保育で利用するケースもある。子ども心に覚えていて、大人になってから懐かしみ訪れてくれるお客さんもいる。

「とにかく若い人に来て欲しい。世の中、昭和レトロブームだそうだが、昭和レトロをリアルに体感できる場所がここにはある。広いお風呂にゆっくりと浸かるのは、家の風呂とは全く違う、銭湯ならではの体験。女風呂には番台との間についたてがあり、プライバシーが守られているので女性の方もご安心を。そして、お風呂のあとはぜひ番台に話しかけてほしい」(星良則さん)

地域をつなぐ銭湯「幸の湯」に行ってみよう

最後に、銭湯に来たことがない人のための、入浴の心得を伝授しよう。

タオルとシャンプー、石鹸を持って。風呂上がりにはコーヒー牛乳を飲んで、番台の星さんと一言二言おしゃべりするのもいいだろう。

幸の湯の魅力は、一言ではあらわせない。

星さんへ話を伺うことで、銭湯での会話を通しての人や社会とのつながり、現代では貴重なコミュニティ形成の大切さを実感できた。レトロな雰囲気を懐かしみつつ、ゆっくりとお湯に浸かるだけでも、非日常の体験となりそうだ。

今日も常連さんが足繁く通い、遠方からもお客さんが訪れる「幸の湯」。
これからも地域と人をつなぎ、コミュニティを提供していくだろう。タオルと石鹸を持って、ぜひ「幸の湯」へ訪れたい。

(文:しょう)

▼「幸の湯」の情報
住所:栃木県小山市城山町2丁目5−21
電話番号:0285-25-0356
ホームページ:http://tochigi.k-o-i.jp/koten/sachinoyu//

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