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「地方が抱える課題すべてがある」東伊豆町が取り組むプラスワン【東伊豆町観光産業課観光商工係】

日本有数の観光地として知られる静岡県東伊豆町。温泉地や旅館、グルメなど旅の楽しみはキリがない。一方で、「地方の抱える課題のすべてがここにある」と、東伊豆町観光産業課観光商工係の鈴木宏規さんは分析している。そんな課題の解決を目指すのも鈴木さんではあるのだが、いま、女子大学との連携や民間企業との連携など、新たな「プラスワン」が生まれている。「女性の活躍」「人とのつながり」をキーワードにした施策の最前線を鈴木さんに伺った。

「雛のつるし飾り」に宿る東伊豆町の女性の歴史

近年、東伊豆町の町おこしのシンボルとなっているのが「雛のつるし飾り」だ。「雛のつるし飾りには、女性の活躍や健康、幸せを祈る意味も込められています」と語るのは鈴木さん。東伊豆町の町おこしの一環として、鈴木さんが雛のつるし飾りに着目したのには理由がある。

東伊豆町は、江戸時代に始まったとされる「雛のつるし飾り」の発祥の地だ。ひな祭りの時期には、かわいらしい人形や桃などのつるし飾りが町を彩る。

ひな祭りの文化は江戸時代の頃にはすでに存在していたが、きらびやかな雛段やひな人形を用意できたのは裕福な家庭のみ。一般家庭の母親や祖母が娘の健康と幸せを祈るために、お古の着物の端切れなどを使って作ったのが雛のつるし飾りだ。そうして数百年続く伝統として、雛のつるし飾りは現代に受け継がれてきた。

そんな雛のつるし飾りからは、女性ならではの感性や工夫が感じられる。江戸時代から脈々と伝統が守られてきたのも、東伊豆町に根付く女性のパワーあってこそだろう。というのも、女性の活躍にまつわる東伊豆町の歴史は深い。

「東伊豆町稲取の『旧稲取灯台』は、日本初の女性灯台守が誕生した灯台です。ほかにも、東伊豆の温泉旅館では女将文化が残っています。雇われ女将ではなく、温泉旅館に嫁いだ方が女将になる女将文化です。他にも天草漁を担ってきた海女さんなど多くの女性が活躍していました」と鈴木さん。

東伊豆町には女性が元気に活躍する伝統が息づいている。鈴木さんはその伝統を活用し、現代の東伊豆町町おこしにつなげたのだ。

東伊豆町で女性にとっての「プラスワン」を発見

「東伊豆町は女性が活躍してきた町。東伊豆町に来た女性は何か「プラスワン」を得ることができる、というイメージを持ってもらいたいです」と鈴木さんは語る。

「女性にとってのプラスワン」としてスタートしたのが、産学官の三者連携だ。東伊豆町、女子大学、企業が連携し、東伊豆町の魅力の再発見する取り組みを進めている。東伊豆町を訪れた女性に『何かやってみたい』と思ってもらえるように、鈴木さんら町役場が交流の場を提供。2022年現在は、昭和女子大学、跡見学園女子大学、駒沢女子大学、共立女子大学の4つの女子大から学生が参加している。そこへ玉川髙島屋S・Cやサッポロビールなど女性の活躍を推進している企業の力が加わった。

「女性の活躍に共感してくれる企業と連携しています。学生にも女性ならではの感性でアイデアを出してもらいました」(鈴木さん)

跡見学園女子大学とサッポロビールが参加した連携では、東伊豆町の特産品をつかったカクテルレシピの開発している。新品種「いずのはる」を使用したカクテルレシピは、東伊豆町の宿泊施設や飲食店で提供する予定だ。旅行や観光といえば、美食巡りは欠かせない。「いずのはる」を使ったカクテルが、東伊豆町を訪れた観光客の旅の思い出に刻まれる日も近い。

今後も、東伊豆町開催で企業によるワークショップやアクティビティなどが企画されているという。玉川高島屋S・Cなどショッピングセンターを展開している東神開発と昭和女子大による、雛のつるし飾りのイベントの企画・運営が推進中だ。雛のつるし飾りが東伊豆町から全国に広まったように、東伊豆町で活躍する女性が、地域を越えて日本全国を元気にすることが期待される。

「いい町」づくりのための意識改革と価値創造

東伊豆町の町おこしは、ローカルな地元民だけが主役ではない。東京の女子大学や企業など、町の外の人との連携がひとつの軸になっている。このことには、鈴木さんのこんな想いも活かされている。

「大学連携事業では年間30人くらいの学生が参加していますが、東伊豆町の人とご縁ができたという感覚をも持ってもらいたいです。ご縁がある町って、ずっと気にかかりますよね。少しでも『東伊豆町でこんなことをしたな』と思い返してもらえる町にしていきたいです」(鈴木さん)

鈴木さん自身、人とのご縁を感じる出来事に恵まれたという。鈴木さんはいわゆるUターン就職で東伊豆町に戻ってきた。東伊豆町役場に勤務する以前は東京の大手ゼネコン勤務。大手ゼネコンを退職後、二子玉川の玉川高島屋S・Cのテナントに就職した。そのときのご縁は現在にもつながっていると語る。

「二子玉川の玉川高島屋S・Cの協力会社で雇ってもらったのですが、そのときの社長や職場の方々に可愛がってもらい、いろいろな人とご縁をつなげてもらいました。その後は東伊豆町役場にUターン就職し、県庁へ出向をした経験もありましたが、行く先々でご縁をいただいたのが僕のターニングポイントです。二子玉川で働いていたときのご縁があって雛のつるし飾りの展示の話をいただき、いまの玉川高島屋S・Cでの大々的な開催につながりました」(鈴木さん)

自身の経験を通して、ご縁の重要性を実感した鈴木さん。現在も、東伊豆町役場で近隣住民と地域をつなぐ役割や東伊豆町に人を呼び込む仕事を担当している。そんな鈴木さんに、東伊豆町が抱える課題を伺った。

「人口減少、少子高齢化、観光衰退、教育衰退など、全国の地方が抱える課題はほとんど網羅しています(笑)。ただし東伊豆町は観光産業への依存度が高いのが特徴。『観光振興=地域振興』であり、この2つがセットです。観光地として自分たちができることをしっかり考えないといけません。ですがバブルの影響が残っていて、観光客は呼ぶものではなく来てくれるものというカルチャーが残っているような気がします。町全体が一体感を持って人を呼ぶ必要があります」(鈴木さん)

たとえば東伊豆町には6つの温泉郷があるが、統率が取れていないのが課題だという。SNSのハッシュタグも温泉郷ごとに設定されていることが多い。SNSで東伊豆町のPRをしたくても、パワーが分散しているのが現状だ。

「東伊豆町を訪れる意味を、町全体でもっと明確にする必要があります。それはインバウンドのお客様向けの仕事をしていた時に強く感じました。例えば、フランスの世界遺産モンサンミッシェルが何市にあるか、日本人がわからないですよね。それと同じで『東伊豆』といっても海外の人には響きません。それは日本の東伊豆町を知らない人も同じです。ようは自治体の名称じゃないんです」(鈴木さん)

人とのご縁、町の一体感。東伊豆町の町おこしは「人と人がどのようにつながっていくか」が鍵になっているようだ。

東伊豆町で築くコアな人間関係と未来への可能性

東伊豆町は歴史ある観光地で、温泉旅館など居心地の良い宿泊施設が多い。「稲取キンメ」をはじめとする海の幸など、グルメも豊富だ。ところが近年は、東伊豆町の魅力は観光だけではないことに気づいた人が増えている。そのひとつである「地域おこし協力隊」がポジティブな動きを見せ始めているのだ。

「地域おこし協力隊になって東伊豆町に関わりを持った人が、NPOを立ち上げています。町の空き家を宿泊施設にリノベーションするなど、町おこしのキーマンとなっています」と鈴木さん。さらに、ワーケーションのスポットとしても東伊豆町を訪れる人が増えている。

「地域おこし協力隊を中心としたシェアハウスがあるのですが、そこへワーケーションを目的とした人も訪れています。半分東京・半分東伊豆町で二拠点居住をしている人もいます。外から来た人と地元の人との間に、コアな関係が出来てきているんです」(鈴木さん)

さまざまな業界・業種のビジネスパーソンが東伊豆町でワーケーションをしている。新しい技術の社会実験を東伊豆町で試している人もいるという。

山に囲まれ、海が広がる東伊豆町。東京からは公共交通機関を使って2~3時間ほどで到着する。大自然の恵みが豊かでリラックスできるため、ワーケーションで人気が出るのも納得だ。鈴木さんによると、ワーケーションとして東伊豆町を訪れる人にはこんな特徴が見られると言う。

「東伊豆町で何かやろうと思っている人が、10人、20人と集まってきています。町もワーケーションの受け入れに丁寧に取り組んでおり、仕事の委託をすることもあります。濃いかたちで東伊豆町に関わりたい人は、東伊豆町を気に入ってくれることが多いですね」(鈴木さん)

女子大学との連携やワーケーションなど、東伊豆町の町おこしは人と人とのご縁をとことん大切にする。歴史ある観光地だからこそ、温泉や景観、グルメなどご縁を呼び込む観光資源も充実している。魅力あふれる東伊豆町で、これからどんな面白いアイデアや発見が生まれるのか目が離せない。女性も男性も「東伊豆町でプラスワン」を探してみてはいかがだろう。

(文:鈴木舞)

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