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令和時代における「昭和のお土産屋」若者と地元のお店と繋ぐ土産屋の挑戦【ニューアタミ】

山に囲まれ、目の前には海が広がる自然豊かな熱海。昭和の雰囲気を残した純喫茶や温泉宿、商店などが今も現役で残るノスタルジックな街並みは、昭和レトロが詰まった地として再注目されている。今回話を伺った横須賀馨介さんも、熱海に魅了された一人。東京で広告制作に携わっていたが、仕事を辞めて熱海へ移住。ハツヒ株式会社の代表取締役として「新熱海土産物店ニューアタミ」を運営している。東京で活躍していたなか、なぜ熱海へ拠点を移して活動するようになったのかーー。その想いを伺った。

移住時は下火だった熱海の人気

出身は埼玉県行田市という横須賀さん。日本屈指の足袋産地として知られる街に住まいながら、東京で忙しく仕事に没頭していた。そんななか、地元から熱海までの電車が開通することに。何気なく熱海に行ってみたところ、海や温泉、老舗店が軒を連ねる街並みに心が躍った。その理由はシンプルだ。横須賀さんが育った地域は城下町であり、周りを見渡せば個人商店の知り合いが多かった。熱海はそんな地元と似ていて、どこか違う魅力が漂っていた。通い続けることで顔なじみの店も増えたことから、自然と移住も良いなと判断。拠点を熱海に。しかしながら、その頃の熱海は、今の景色とは少し違った。

「熱海は、地元の人があたたかく接してくれるし、とても居心地よい街。ただ、移住した2016年当時は、街もビーチも人通りは少なく、決して活気のある街とは言い難い状況でした」


熱海といえば、かつては団体旅行や新婚旅行の定番で、日本屈指の観光スポットだった。観光客数の最盛期は1969年。年間532万人に上る人が熱海を訪れていたという。だがバブル経済崩壊の1991年以降、観光客数は急激に落ち込み、2011年には246万人程度まで減っている。

「減少のピーク時よりも少しずつ観光客は増えているものの、移住した当時もまだまだ、熱海の人気は下火。その影響で、老舗が閉店していくのを目の当たりにしました。長く続いているホテルや店がたくさん残っているのがこの街の魅力なのに、それがどんどん失われていって……。僕自身、移住前に仕事に忙殺されていた頃、熱海で出会った人々やお店に元気づけられた経験があるので、どうにかこの街に活気を戻したいと思ったんです」

以前は、広告業界でナショナルクライアントの広告制作やデジタルプロモーションをしていたという横須賀さん。マスコミ関係の仕事ということもあり、業務の大変さが伺える。熱海を訪れることでリフレッシュとなり、仕事に励めたようだ。

お土産は旅のおまけではなく、旅の醍醐味

ヒントを探して熱海の街を歩き、辿り着いたのが“お土産”。

「熱海は日本屈指の観光地であり土産物文化が根づいた街。熱海の魅力を伝えるなら、やっぱりお土産だと思いました。お客さんが大切な人と一緒に熱海に来て、いろいろな体験をして、楽しかった思い出をお土産に替えて持って帰る。そしてお土産を見て熱海を思い出し、また行きたくなるーーー。お土産は旅のおまけではなく、旅の醍醐味であり、幸せな循環を生むもの。幸福のコミュニケーションツールだとも思っています。土産物をきっかけに、熱海を目掛けて来てくれる人が増えて街が活気づいていったらいいなと思っています」

その想いを形にし、新熱海土産物店ニューアタミの前身となる実店舗「論LONESOME寒」をオープン。熱海の持つ魅力をオリジナルのお土産に落とし込んで販売をスタートした。県外のイベントなどにも積極的に参加し、ファンを獲得。全国から「論LONESOME寒」を目的に熱海を訪れる人も多くなったと実感することも増えたそう。

お店を展開していくなかで、お土産の素晴らしさを再確認し、次第に活動は熱海にある個々のお店のお土産プロデュースへ発展していった。

「熱海で過ごすなかで、個性がつまった店の魅力を多くの人に伝えていきたいと考えるようになりました。お土産プロデュースによってお店のPRや売り上げに貢献し、熱海全体を盛り上げていきたいです。街を活気づけることこそが、僕が熱海に移住してからお世話になった人々やお店への恩返しになると考えています」

お土産を軸に熱海のカルチャーを発信していくために、今の会社の仲間とともに「新熱海土産物店ニューアタミ」をオープン。

2〜3名程度が入れるこじんまりとした店内。秘密基地のようなワクワクする空間。熱海観光の歴史や文化を体感できるなど

地元人と観光客のコミュニケーションツールになる土産物

新熱海土産物店ニューアタミがあるのは、サンビーチからも近く、いつもにぎわっている熱海銀座商店街のすぐそば。

全国の温泉ラバーにおすすめしたい「熱海温泉・温泉BOY/GIRL」シリーズ。桶などのグッズやアパレルも豊富。

店内にはお土産の定番であるキーホルダーやTシャツ、トートバッグなど、新熱海土産物店ニューアタミのロゴをあしらったものや、海や温泉など熱海をテーマにしたアイテムがずらり。どれもレトロ感漂うスタイリッシュなものばかりで、これまでのお土産店のイメージとは異なる。

ニューアタミのロゴとお土産ピクトグラムをあしらったTシャツ。シンプルで普段使いしやすいのも新熱海土産物店ニューアタミのお土産の魅力。

「販売しているお土産は熱海を象徴的にあらわせるものとして、50-60年の歴史・レトロの文脈で一番栄えた観光地だということを大切にし、レトロブーム以前から昭和感のあるモチーフがベースとなっています。僕や会社の仲間が好きなのは、最も賑わいを見せていた『昭和の熱海』。僕は平成生まれなのであくまでも想像ですが、かつての熱海をイメージして歴史や文化を徹底的に調べて、デザインをピックアップしていったら、レトロな雰囲気のアイテムが集まっていきました」

さらに新熱海土産物店ニューアタミのおもしろいところは、オリジナル商品だけでなく、1950年代創業の喫茶店「ボンネット」や、1930年代創業の「レストランフルヤ」など、老舗とコラボレーションしたお土産「LEGECLA(LEGECD CLASSICS)シリーズ」があるところ。熱海の観光スポットやおすすめのお店をモチーフにしたアイテムがあるので、それをもとに熱海の観光紹介ができるというから驚きだ。

老舗店「レストランフルヤ」のキーホルダー。お店の商品の特徴をいかしたイラストがかわいい。

「うちで買ったTシャツを着て観光してくれる人もいるんです。その姿を見てモチーフとなったお店の人も喜んでくれたり、Tシャツをきっかけに観光にきた人とお店の人の会話が弾んだり。そういう地元の人との交流やちょっと仲良くなれる経験って、普通の旅ではなかなかできないことですよね。コミュニケーションになる土産物というのは、うちのおもしろさの醍醐味なのかなと思います」

プロデュースアイテムは、その店のリピーターやファンにも人気に。

「老若男女問わず、お土産をきっかけに新規のお客さんや常連さんができることも多いそうで、新しい風が吹いていると喜んでいただいています」

老舗店のロゴなどはあえて新しいものに作り変えるのではなく、古くからあるものを再編集することで、親しみやすく、昔も今もこれからも愛されるデザインにするように意識しているとのこと。

お土産文化を築いてこられた人々の想いを次の世代に

横須賀さんの想いはただお土産を売るだけでなく、先々の土産物文化の継承と発展にまで繋がっている。

「これまでお土産文化を築いてこられた方の“想い”を、次の世代に引き継いでいきたいです。お店側には、僕たちが魅力を掘り起こし、プロデュースすることで、これまで繋いできた歴史が本当に素晴らしかったことを再認識もしてもらいたい。また、それをお土産を買う旅行者に伝えていきたいです。そうすることで、文化の継承や観光地の魅力発信に繋がると思います」


一過性のヒットではなく、次の50年、100年と愛されるロングセラー・定番をつくっていきたいという横須賀さん。熱海の街全体が最盛期の頃のような自信を取り戻し、技術や伝統を次の世代へ受け継いでいくために、新熱海土産物店ニューアタミは走り続ける。

(文:池上裕美)

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