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郷土芸能は「カッコいい」を貫く100年を超えて愛される染工場【京屋染物店】

岩手県一関市の京屋染物店は、創業100年を超える染工場。祭りの半纏や鹿踊りの衣装、浴衣や手ぬぐいなど和のものを中心に製造しつつ、スノーピークとのコラボや伝統工芸のリデザインにも積極的だ。2019年には自社ブランド「en•nichi」の商品がグッドデザイン賞を受賞。時代を超えて愛される京屋染物店が、ものづくりの現場で大切にしていることとは。

100年続く染物店が目指す、感動できるものづくり

岩手県南の城下町として栄えた一関市。その一角に、100年の歴史を紡ぐ京屋染物店(以下、京屋)がある。デザインから染め、縫製まですべての工程を自社で担うのが京屋の特徴だ。

京屋の「染め」の作業場を覗いてみると、祭りで着用する半纏の生地が色鮮やかに変身していくところだった。専務取締役・蜂谷淳平さんは、岩手の伝統的な芸能衣装についてこう語る。

「赤色を使うことが多いですね。岩手の芸能の衣装は派手。背中に(柄を)流したり、色合いもすごく華やかです。エンタメがなかった時代において、芸能はすごく楽しみなものだったんでしょうね」(蜂谷さん)

「引き染め」と呼ばれる技法を駆使し、刷毛を使ってグラデーションを生み出すのは、職人のセンスが問われる工程。京屋では、岩手の郷土芸能「鹿踊(ししおど)り」の衣装作製も受注している。

岩手県内で継承されてきた鹿踊りは、厄払いや豊穣を願う民俗舞踊。踊り手は鹿の面と鹿角を付け、「前幕」と呼ばれる衣装を身にまとう。色鮮やかな文様が見るものの目を奪い、太鼓の音や踊り手の足踏み、歌などが辺り一帯に響く。

「鹿踊りは、踊り手に雄と雌がいたりボス的な鹿と脇鹿がいたりします。それぞれ衣装の柄が違うから別々に用意して染めなきゃいけません。団体によって柄も形もひとつひとつ違うんです。手間暇かけて作るため、採算は取れません(笑)。使命感のようなものでやっています」(蜂谷さん)

地域の人々によって代々受け継がれてきた鹿踊り。縫製部の関茉莉奈さんも、お客さんの思い入れの強さを実感しているという。

「(半纏の)7割ぐらいはお誂えのオーダーメイドです。スリーサイズを教えてくれるお客様もいて、着る人の体型に合わせてサイズ調整します。『自分が死んだときには棺に半纏を入れたい』と仰る方も」(関さん)

京屋の半纏は一生物。仕上がった半纏に袖を通すと、その人の体にぴったりと馴染んで一層気合が入る。「お客様から『すごくカッコ良く着こなせた』とお写真が届いたりすると嬉しいです」と、関さんが微笑んだ。

「郷土芸能はカッコいい」を当たり前に

近年は各地の伝統や風習の価値が再評価され、地域活性化につながることが増えてきた。ただし廃れてしまうものも少なくない。「一回なくしてしまうと戻ることは絶対にない」と、蜂谷さんもその危機感を感じている。

「インクジェットや昇華転写なら一瞬で柄ができるし、ストも安く済みます。でも『本当にそれでいいの?』と考えてしまうんです。神事で使われる衣装でもありますし、やっぱり微妙なニュアンスや深みは機械と手作業とでは違うんですよね」(蜂谷さん)

岩手の芸能と馴染み深いのも京屋染物店の特徴。蜂谷さんを始め、鹿踊りに親しんでいるスタッフが複数在籍している。

営業部兼コーディネーターの庄子さおりさんは、岩手県北上市出身で幼い頃から田植え踊りに親しんできたそう。現在は京屋で働きながら、鹿踊りの踊り手として活躍している。

「8月から9月までは夏祭りや秋の収穫で忙しくなります。鹿踊りはお祭り以外でも踊ることがあるんです。お盆はお墓で供養のために踊ったり、お祝い事があると家の門口で踊ったり。暮らしの中に踊りがあるんですよ」(庄子さん)

「鹿踊りってカッコいいと思うんです。衣装もですし、(踊りの中で)変身するとさらにカッコいい。岩手の芸能は信仰とはちょっと違っていて、巡りの中に神様がいるような感覚。鹿踊りも高く崇められているものではないんです。獣も人もフラットで平等なんですよ」(蜂谷さん)

地域の暮らしに根ざすのが鹿踊りの本質だが、近年は鹿踊りを披露する機会が多彩になってきた。アウトドアブランドのsnow peak(スノーピーク)が開催したイベントにも招かれたという。

「スノーピークさんの『ローカルウェアツーリズム』では、染めや鹿踊りの体験を実施させてもらいました。参加したお客さんがすごく感動してくれたんですよ。(地域に根差した芸能は)お金を出してもなかなか見れなかったり体験できなかったりしますから、そこに触れられることに価値を感じて、リピートしてくれるお客さんもいます」(蜂谷さん)

伝統をなくさないためのリデザイン

仕事で東京に行くことも多い蜂谷さん。「東京に行くと人がたくさんいますけど、『この中に郷土芸能をしている人は何人いるんだろう』とよく考えます」と、現代における郷土芸能の存在感に思いを馳せている。

「お祭りや郷土芸能を、皆さんが取り入れやすいようにリデザインしていくことが京屋の課題。お祭りや伝統というと構えてしまう人もいますので、軽やかに見せていきたいです」(庄子さん)

京屋の自社ブランド「en・nichi」では、東北地方の刺し子や裂き織りといった衣類文化に着目。昔ながらの工夫を取り入れて、いつの時代にも馴染むファッションを提案している。

「2019年にグッドデザイン賞を受賞した『SAPPAKAMA(さっぱかま)』が大人気です。ベースは東北地方で野良着として山仕事をするときに履かれていた猿袴(さるばかま)。昔の野良着をベースとして開発し、現代でも履きやすい形に作り変えました。『着心地が良くて毎日履きたいから』と色違いで購入される方もいます」(庄子さん)

SAPPAKAMAはサルエルパンツのようにゆとりがあり、可動性も抜群。農家などが履く作業着としてはもちろん、ルームウェアやカジュアルファッションにもぴったりだ。

「京屋では草木染めのOEMを始めて、漆染めの製品を開発しています。漆は岩手県が生産量全国一位。木を切ったときに出る木くずも購入して、染色の工程で利活用しているんですよ」(庄子さん)

伝統を守りながら一関に新しい風を吹き込む

伝統を守りつつ、「SAPPAKAMA」のような時代性も取り込む。京屋が新しい風を吹き込んだのはデザイン面だけではない。業務システムの刷新にも積極的だ。

「サイボウズのビジネスツール『kintone(キントーン)』を業務改善で活用しています。『kintone AWARD 2017』ではグランプリを受賞させてもらいました。まだDXが浸透していなかった時代でしたけど、地元の経営者仲間に教えてもらって使い始めたんです。今では地域でお店をやっている人にkintoneについて聞かれることもありますよ」(蜂谷さん)

地方創生は、その地域の伝統や特色のブランディングが大事であると同時に、デジタル化や効率化を推進して地域の担い手の負担を軽くすることも重要。地域の人が輝く取り組みこそが求められている。

さらに岩手県で課題となっているのが、害獣被害だ。蜂谷さんは狩猟をしているご縁から、駆除された鹿の皮を商品化するプロジェクトを発案。クラウドファンディングで資金を募ったところ、目標額100万円を遥かに超える500万円以上の資金が集まった。

「本当に反響が大きかったです。鳥獣が原因の日本の農作物被害は160億円ほどにもなっていて大きな問題。各地でジビエ活用などの動きがありますが、京屋のスタンスとしては岩手らしく自然との関係性を保つことを、常に心の出発点にしていきたいです」(蜂谷さん)

京屋ではお祭りや神事など、地域との距離がとても近い。だからこそ一関市の現状についてこんな印象も抱いているそう。

「一関は高校や高専、短期大学があって若者がすごく多い。ですが定着しないのが課題です。京屋は他県から人材が集まってきているのが強みですので、I ターンなどで一関にやってくる人の受け皿になれたらと思うんです。補助金などを活用しながら、新しい事業を立ち上げる人もいます。酒造会社の『世嬉の一』さんも日本酒復活を目指していたり、20代30代40代の人たちが頑張っているんですよ」(庄子さん)

「移住者も増えているみたいですし、2代目や3代目など、僕と同じくらいの年代で一関にUターンしている経営者仲間も多い。お祭りなどの文化もつないでいますし、世代を超えて地域への愛があるんです」(蜂谷さん)

京屋はこれからも愛情たっぷりに地域の伝統をリデザインしていくのだろう。SAPPAKAMAや手ぬぐいが気になる人は、ふるさとチョイスで寄付して、お礼の品としていただくことも可能。一生ものの半纏を誂えたいという人は、京屋にオーダーメードを頼んでみるのもおすすめだ。

※京屋染物店は「Power of Choice project -私たちの選択が地域事業者の力になる-」の支援対象事業者です。

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