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地域は“人から人への熱意のバトン”でもっと良くなる【岩手・地域商社】フロムゼロ

ローカルに根差す地域プレーヤー。そんなプレイヤーが複数集い、日々、魅力づくりに邁進しているのが「ふるさと地域商社」です。彼らのユニークな取り組みを紹介する連載をスタート。株式会社フロムゼロをご紹介します。

代表取締役の登内芳也さんは、中小企業の支援活動を長年続けてきた経営者だ。リーマン・ショック時には、群馬や栃木の町工場を支援。東日本大震災では復興支援団体を立ち上げ、岩手や宮城、福島のために駆け回った。

2013年に北上市役所に入職し、地域の資源発掘をしながら沿岸部の被災地復興を目指していた。2021年には、岩手県内のふるさと納税寄付額100億円を達成。フロムゼロ創設後は念願だった沿岸部の事業支援に乗り出し、岩手県5自治体、福島県1自治体をサポート中だ。

ふるさと納税のノウハウ継続を目指して

北上市役所にいた当時、登内さんは魅力ある名産品を発掘し、次々と返礼品として出品。県内でふるさと納税勉強会やふるさとチョイス東北サミットを開催するなど、ふるさと納税事業の浸透にも力を注いだ。

「ただし市役所の中にいて痛感したのが、人事異動で職員が変わってしまう難しさ。毎年寄付をしてくれる方がいるのに、連絡をいただいても『あれ?どちら様でしょう』となる。市役所内でノウハウを蓄積するのは簡単ではないんですよね」

熱意やノウハウが途切れてしまうのは、地域にとっても寄付者にとってももったいない。ふるさと納税事業のクオリティにも大きく関わる課題だった。

「サイトに載せる写真もそうです。返礼品の写真って大事なんですよね。農家さんに商品の写真を頼むとガラケーで撮影したものを送ってくるので、そこは市役所の職員でカメラ好きな人がいて、撮ってもらえるようにしていました。ですがプロのカメラマンを使う自治体がどんどん増えていて、自分たちで写真を撮るのには限界が見えていた。市役所の外に業務委託先を作らなくては、と考えるようになったんです」

当時の副市長と相談し、2016年に北上観光コンベンション協会(以下、協会)にふるさと納税事業を委託することに。登内さんは事業部責任者として市役所から転籍した。

「協会の中に『きたかみチョイス』という地域商社を作り、ふるさと納税事業を受託するようになりました」

北上市の小規模事業者の支援、地域の問題解決などの取り組みが評価され、2016年にはふるさとチョイスアワードの大賞を受賞した。

地域を元気づける寄付制度と6次産業化

登内さんが岩手に来てやりたかったことのひとつが、沿岸部の被災地支援。北上市の支援を経てフロムゼロを設立し、営業所を陸前高田市に作ることができた。

「フロムゼロの考え方のベースはファンドレイジングです。昔の僕みたいな中小零細企業の経営者を応援したいんですよ。例えば工場の売り上げが上がってきたので、工場を増設したいとします。すると設備や人材確保にお金が必要。ですが追加融資を受けられないとしたら、やはり寄付が役立ちます」

地域の中小企業の可能性が寄付で広がる。これは自治体にも当てはめることができるという。

「地方自治をこれから運営していくためには、寄付に頼らないと厳しい。自治体の中でファンドレイジング専門部署を作りましょうと提言してはいるんですけど、今のところ実現している自治体はなくて。ふるさと納税が強烈な武器なので、今はフル活用しています」

登内さんは地方経済の活性について、6次産業化の必要性も強く感じている。6次産業化とは、農林漁業の1次産業の生産物の価値を高めるために、食品加工や流通・販売・サービスにも取り組むこと。産業の垣根を越えて、相乗効果と収入アップを目指す考え方だ。

「6次産業化を進めて、生産物を改良して消費者が求めているものに仕上げていく力って、地域は持っていると思うんですよ。ですが生産、加工、販売を事業者さんが全部やるのは難しい。かといって分けてしまうと、儲かる人と儲からない人で差が出てしまう。それがひとつの会社で公平に利益を分配できたらいいと思います。そういう仕組みを作りたいですね」

産業の構造や少子高齢化など、地域が抱える課題は少なくない。

「地域にはいろいろな課題があるじゃないですか。福祉や医療、介護などの分野があって、そこの課題を絶対に解決するんだという想いが必要。『解決した方がいいよね』位の熱意がない感じだと、課題は解決できないと思うんです」

震災後の岩手では、障がい者施設のスタッフの働く場がなくなるという課題も出ていたという。こうした課題にも、ふるさと納税を活用した。返礼品の梱包発送業務を障がい者施設に依頼。現在でも障がい者施設への依頼は継続され、地域でふるさと納税のサイクルを回す大切な役割を担ってもらっている。

「どうしてその課題を解決しなくてはいけないのか、という動機も必要ですよね。そうじゃないと熱意も湧いてこない。片や熱意を持った人がいても、その人がいなくなったときに次へと継続させなきゃならない。そこが非常に難しい。ですが考え方などに近いものがあれば、継続性はきっとある。単発の解決だけでは、なかなか大きくは広がっていかないでしょう」

人から人へ熱意を繋いでいく。世の中のためになる仕組みづくりの第一歩として、フロムゼロでは働くママたちの役に立つプロジェクトを計画中。

「うちの会社はママさんが多いんです。皆がワクワクする仕事って何だろうと考えると、ママさんたちの困りごと解決でした。それで高田の営業所からもスタッフを全員呼んで、困り事を全部出してもらいました。目標は一年間で一万人のママさんを応援すること。今は、ママさんの困りごとを解決する企画を提案しているところです」

他にも、経営者として直面した挫折や復活、関東の中小企業経営者と紡いだ絆などについて、登内さんが『ふるさと納税地域商社会』で語ってくれた。

『ふるさと納税地域商社会』

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