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地域は“覚悟と再投資”でもっと良くなる【北海道・地域商社】スプレス

ローカルに根差す地域プレイヤー。そんなプレイヤーが複数集い、日々、魅力創出に邁進しているのが地域商社。北海道札幌を拠点とし、北海道に特化して、地域のブランディングやふるさと納税のディレクションを手掛ける企業・スプレス。利尻富士町や白老町を含む複数の自治体から事業を受託し、深くコミットしながら地域を活性している。

加納綾代表は「自治体と共に歩む覚悟で事業に取り組んでいます」と語る。新千歳空港のお土産店店長から地域商社創設へとキャリアチェンジしてからは、ふるさと納税事業を中心に、エネルギッシュに活躍中。自治体と事業者、地元の皆が楽しく満足できる仕組みを構築し、北海道内の地域を活性化させている。

自治体を裏切らない中間事業者でありたい

北海道はふるさと納税で寄付額が多い自治体が存在する一方で、制度の活用に苦労している自治体も少なくない。中間事業者は自治体を支える責務がある。

「実は、ふるさと納税事業に悩む自治体から、直接私たちスプレスに依頼が寄せられることがあります。中頓別町のように、大手企業に事業を委託していても、寄付金が100万円程度と低迷している状況のところもあるんです。そんな時に、私たちの会社がこの事業を担うことになったんです。自治体の方々が直接私たちを見つけ、「引き受けてくれますか?」と尋ねてくるんです。その問いには、担当者の切実な思いが込められていて、それに対しては真剣に、全力で応えなければならないと感じましたね」

北海道北部に位置する中頓別町。山岳に囲まれ、かつては砂金採りがさかんだった地域だ。林業や農業、乳業が主産業の自然豊かな町だが、道内でも北端に位置することからスポットライトが当たりづらいことが悩みだった。

「中頓別は町がお金を出して牧場がある程度成り立ち、ようやくお肉が育ち始めました。そのタイミングでスプレスでお肉を買う話になったんです。町とスプレスがダブルで事業者さんをサポートする形になり、返礼品が増えたりしました。『手数料がかからないんですか。すごいですね。頑張ってもっと牛を育てます』と事業者さんも言ってくれたんですよ」

「私たちは、担当者との関係を何よりも大切にし、決して裏切ることはありません。裏切らないというのは、「スプレスを選んで良かった」と感じてもらえるような成果を確実に残し、期待に応えるという意味です。良い成果が出れば、その評判は周りにも広がり、地域社会からの信頼を獲得できます。そうなると、自然とスプレスと仕事をしたいと言ってくれる方が増えていくんです」

2016年のスプレス設立から数年で、9つの自治体からふるさと納税事業を受託。寄付額も右肩上がりで推移しているという。順調に見えるが、その道のりは平坦ではなかったそう。

「いつも褒められていたわけではなく、時には自分の甘い考え方が原因で、自治体や事業者の方から叱られ、涙を流すこともありました。それでも、毎回、どうやって立ち直り、どう結果を出して挽回するかに集中し、その過程を何度も繰り返してきました」

送るのも受け取るのも嬉しい寄付受領書

スプレスはサービスの質はもちろんだが、寄付受領書のデザインにもこだわりを持っている。千歳市の寄付受領書は、新千歳空港をイメージしたデザイン。目の覚めるような青色を見ていると、北海道の広くて綺麗な空が頭に浮かぶ。

黒松町のブナは「緑のダム」とも呼ばれる、地域の自然を保つ大切な木々。浜頓別町のクッチャロ湖には水鳥が訪れる。そうした地域の特色が寄付受領書を通して伝わってくるのが嬉しい。

「返礼品だけでは、どの自治体に寄付したか忘れがちです。寄付受領書が届く瞬間こそが、実際に自治体を意識する最初の機会だと考えています。『あ、千歳市に寄付したんだ』と、寄付者が自治体について再考するタッチポイントになります。そのために、町の魅力が記憶に残るようなデザインにこだわっています」

寄付受領書については自治体をリサーチし、スプレス社内でデザインコンペをしてから自治体にプレゼンする徹底ぶり。

「寄付受領書は、自治体にとても喜んでいただいています。他の町の寄付受領書を目にした後、スプレスに連絡を取ってくる契約外の自治体もありました。寄付者の方々から好評で、『素敵な寄付受領書が届いた』とレビューに書かれることがあるのは、本当に嬉しいです」

地域の特色が表現された寄付受領書は、離れた距離にいる寄付者と自治体のコミュニケーションになる。

「デザインにこだわると、確かにインク代はかさみますけどね(笑)。でも、自治体の特色や魅力、観光スポットを伝える上では、それは必要なコストだと思いますよ。提案を続けていると、首長から『こんなことを実現したい』という特別なオーダーや相談を受けることもあります。面白いプロジェクトに取り組むコミュニティを自治体とスプレスで築いていくような感覚があるんです」

自治体と寄付者を繋げることは、地域を盛り上げるコミュニティづくりには欠かせない。返礼品の登録や寄付受領書のデザイン企画、レビュー対応などきめ細やかなサポートをするために、こんな悩みと手応えを感じているという。


「実は、手がけていること以上に、やりたいことが山ほどあるんです。ただ、マンパワーや時間の制約で、なかなかすべてに手をつけられない状況です。どうしたらもっと多くの人と繋がりを深め、地域貢献を拡大していけるか常に考えています。進展はしているものの、私の理想とするスピードではないのが正直なところです(笑)。今は、しっかりと基盤を築く時期だと思っています。私たちを信じて期待してくれている自治体があり、問い合わせや興味を持ってくれる方も増えています。スプレスの取り組みが形になりつつあるのを実感しています」

問われるふるさと納税地域商社の存在意義

2023年6月、総務省から「ふるさと納税の次期指定の見直し」として改正が通達された。これは地域商社など中間事業者にとって大きな変化となる。

「告示改正があって、中間事業者がピンチだとも言われました。だけどむしろ地域商社にはチャンスかなと思っています」

地域商社の課題となり得るのが、募集適正基準の改正だ。募集に関する費用についてはワンストップ特例事務や寄付受領書発行などの付随費用も含め、5割以下とすることが決定された。

「私たちは、ふるさと納税事業を受託して手数料を受け取るだけでなく、地域に投資して循環を促進していると考えています。私たちの取り組みは、ふるさと納税の業務にとどまらず、地域の雇用を創出、商品の製造やイベントへの参加を通じて地域を盛り上げるなど、いろいろです。地元の事業者や運送業者を支援するように意識しています。単にコスト削減を目的として事業を地域外に移すようなことはしていません。

確かに、関東の倉庫から発送すれば送料は安くなるかもしれませんが、それでは地域の雇用は生まれず、お金も地域外に流出してしまいます。私たちは、地域内での循環と外貨獲得の仕組みにできるよう工夫します。これこそが地域商社の役割です。この考え方を引き続き伝えていきたいと思っています」

「地域商社がどのような業務を行い、自治体とどのように関わっているかを広く知ってもらうことが私たちの願いです。8月末には、参議院総務委員会の調査室のメンバーがスプレスを訪れ、私たちの業務内容について詳しく質問されました。私たちの話を聞いた彼らは、『そんなにも地域を訪れるのですね』や『こんなに多くの事業者と直接打ち合わせをするのですね』と、驚いた様子でした。自治体とのふるさと納税業務以外の取り組みがあることに感心されていました」

ふるさと納税で地域に集まったお金を域内でいかに循環させるかが、全国的な課題となっている。地域商社に注目が集まるに伴い、その存在意義が改めて問われ始めているのだ。

「過去に何度か総務省の担当者との意見交換の機会がありました。その経験を踏まえ、告示改正後、地域商社会として総務省にアポイントメントを取って訪問しました。そこで私たち各社の取り組みについて話したところ、総務省の担当者たちは非常に真剣に耳を傾けてくれました。

最終的に、彼らから『圧巻です。とても幸せな気分になりました。普段はなかなか良いニュースを聞くことが少ないのですが、こんな素晴らしい取り組みが行われていることを知らずにいました』という感想をいただきました」

自治体と事業者から愛され親しまれる中間事業者

地域商社の取り組みは、支援する地域に飛び込むことから始まる。事業者との返礼品開発では、スプレスのスタッフが地域で仕事体験をすることも。利尻富士町では昆布干しにチャレンジし、事業者との距離を縮めながら漁師たちの声に耳を傾けた。

地域商社の取り組みは、支援する地域に飛び込むことから始まる。スプレスのスタッフが地域で仕事体験をすることも。利尻富士町では昆布干しに挑戦し、事業者との距離を縮めながら漁師たちの声に耳を傾けた。またウニ漁の繁忙期には島に滞在し、伝票を貼り発送作業を一緒に行った。

「ワイワイ言いながら仕事できるのが楽しいですし、事業者さんが喜んでくれることが嬉しいですね。利尻島産の昆布はとても高価で、一般の人が数十kgも買うことはほぼありません。事業者の方々もふるさと納税に出品したくても、どれだけ売れるかわからないため、大量の在庫を抱えることに躊躇してしまいます。そこでスプレスが積極的に100kgとかまとめて買い取ることで不安を解消しています」

「私たちが昆布を先に買い取ることで、漁師の方々は事前に収入を確保するというメリットがあります。また、利尻昆布は熟成によって価値が高まるため、スプレスでは買い取った昆布を新物、2年物、3年物といった熟成年数別に管理し、付加価値を高めています。通常の流通ルートを通じては卸価格が低く抑えられることがありますが、私たちは「利尻島産昆布」の真の価値を認識し、それに相応しい価格での購入を選択しました」

ふるさと納税を通して利尻昆布の価値を広めるため、ブランディングにも力を入れた。


「商品のパッケージと掲載ページを一新し、見た目も魅力的にリニューアルしました。販促費はスプレスが負担し、利尻島産昆布の良さが伝わるよう工夫をしました。その結果地域の価値ある昆布が、正しい価格で取引されるようになり、付加価値をつけるビジネスモデルが機能し始めました。我々は中間業者として、知識を地域に逆輸入する役割を担っています。このような取り組みにより、事業者のみなさんに喜んでいただいています」

今では利尻昆布は町を代表する返礼品に。家庭で使いやすいサイズの商品も揃い、高級感あふれる豊かな味と北海道北端の小さな町がぐっと身近になった。

「『ふるさとチョイス大感謝祭』(全国から自治体や事業者が集まるふるさと納税イベント)で複数の自治体さんが集まったときは、自治体の担当者さんの発案で「スプレスファミリー」と題した集いを催すことができました。複数の自治体の関係者が一同に介し、スプレスと共に情報交換を行いました。『こんなプロジェクトを始めたい!』や『あのような取り組みを実現したい!』といった意見交換が活発に行われ、参加した職員の方々も和気あいあいとした雰囲気の中で意見を交わしました」


こんな風に自治体や事業者から愛される中間事業者は、これからの地域商社のひとつの理想形かもしれない。

「スプレスファミリーなんておこがましくて自分たちからは言えないですが(笑)、自治体さんからそう言っていただけるのは本当に幸せです」

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