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「東北6県の米」をおいしくブレンド。お米の目利きが米農家の笑顔を守る【グリーンライト】

農業は自然環境の影響を受けやすく、日当たり、土壌条件など、年ごとに環境が変わってしまう。それによって、農家の収入が安定することはなかなかに厳しいものがある。そのことを、私たち消費者は忘れてはならない。しかも、昨今は食生活の多様化でパンや麺類を主食として食べる人が増え、そうした現象によって米が余ってしまう問題も出てきているという。それでも、農家を生業にする人たちは土地に根を張り、あらゆる工夫を凝らし、おいしい米を作ることに全力を注いでいる。

岩手県を中心に、東北のたくさんの米農家と深く交流した経験を持つ「グリーンライト」の有馬司さんは、身近な農家の人たちの笑顔を守るために、大きく舵を切った。その矢印は、「米の専門店」を立ち上げるというアクションへと向いている。ひとりひとりの食習慣や味の嗜好にあわせて米を“オリジナルブレンド”し、農家をサポートしようという試みである。こうした新しいスタイルの店を作った想いやふだんの活動内容について話を聞いた。

農家のひとたちを救うために

有馬司さんが岩手県北上市で始めたのは、オーダーメイドのブレンドした米を定期便でお届けする「My gohan」という画期的なサービス。農家の人たちをサポートするために何ができるのか。有馬さんはあるとき、自分に問いかけた。その誠実な想いは、農家の皆に助けてもらった感謝の気持ちが原動力になっているという。

「グリーンライト」の有馬司さん(写真右)と農家さん。写真提供:グリーンライト

「東日本大震災が起こったことで、仕事場や住む場所が岩手県釜石市から岩手県北上市に変わりました。この事業を始める前に農機具屋で働いていて、そのときに見た情景がずっと目に焼き付いているんです。それは、農家のおじいちゃんとおばあちゃんが田んぼの横に座って小休憩して、自分たちの米で作ったおにぎりを食べている姿。一緒になって『こうした時間を来年も持てたらいいよね』なんて言い合っていました」

目の前で頑張っている「農家の人たちの笑顔を守りたい」という一心で事業をスタートした。

継続的に付き合い、育まれるもの

「農家の皆さんが、『なんでも食え、食え。ひとり、大変だろ。米も野菜も持ってけ』と言ってくれて。損得勘定なしに僕のことを受け入れてくれるすごく温かい人たちだったんです。だから、何かで返せればいいなと。自分も経験値が増えてきたので会社を作ってみようと思いました。いろんな農家の方々と継続的にお付き合いを繰り返し、経済のシステムを作っていく。その活動を続けて10年ほど経ちました」

お互いを気遣い、助け合う姿は純粋で美しい。「My gohan」というサービスは「自分専用ごはん」という意味合いだ。東北6県のおいしいお米に限定して販売するスタイルをとっている。親しみのある品種をただ漫然と繰り返し食すのではなく、何種かの米をブレンドすることで“自分仕様の味”にする楽しさを提案している。

写真提供:グリーンライト

食べ方に合わせた米選びをする

「米屋に行って米を購入するときに『何をおかずに食べるんですか?』と質問してもらえることがあります。そんな専門店でも、ネットで販売するときは、『○○産のコシヒカリ』といったように品種ありきの紋切型で販売するところが圧倒的に多くなります。そうしたやり方をしてしまうと、米の本当のおいしさがきちんと届かないように思うんです。マニアックな視点だけど、お客さまの『どう食べたいか』に寄り添い、提案できた方が断然いいと思っているんです」

有馬さんが自信を持って話すように、「My gohan」の提案は細かいところまで配慮が行き届いている。たとえば「ごはんを食べる時間帯」「1か月に必要なお米の量」「よく作る料理、好きな料理」「ごはんの好み」(甘め、さっぱり、もちもち感、ねばりなど)「炊飯の仕方」について事前に尋ねるチェックリストがあり、その内容に応じて、米をカスタムブレンドして毎月届けてくれる。

「カスタムオーダーは、1週間ほど時間をいただいて対応しています。スケジュールの都合で僕が対応できない場合は、米屋やブレンダーに手伝ってもらうことも。そうやって、チームで運営しています」

経験で培った、米の味を見極める力

アッサンブラージュ(「混ぜ合わせ、組み立て、組み合わせ、調合」という意味)というワインづくりの考え方になぞらえて、1粒1粒の米の個性を見極め、おいしいお米をさらにおいしく配合するスタイル。実際、米の味を見極める力はどうやって身につけたのだろうか。

「6、7年前くらいから秋になったら地域の人たちで集まり、米を食べ比べていました。米と水を用意して炊飯器で炊いて、食べ比べてみると本当に見事に違うんです。同時に5、6種類食べると味が違うのがよくわかって、それで初めて理解しました。それに加えて、農家さんの家でご飯を食べさせてもらった経験も大きいと思います。その経験で20kg体重がプラスされましたしね(笑)」

写真提供:グリーンライト

有馬さんの農家さんとの付き合いについて深く尋ねてみると、ご飯を食べさせてくれるところは約400世帯くらいあるというから驚く。

「北上市の農家の方々のやさしさが染みました。農家さんが作る米はどれも味が違います。2種類くらいのおかずと味噌汁に合うごはんや濃い味のおかずに合うごはんなどいろいろで。意外と農家さん本人はその味の特徴に気づいていないことが多いんです。僕は毎日、農家さんのところを訪れてごはんを食べているので自然と味の違いがわかるようになりました」

ブレンド米のイメージを払拭する

食事に合わせてワインを選ぶように、食べるおかずに合わせて、米を選ぶ。そうした米の見方は意外と盲点だ。そして、食べることが大好きな人こそ、このサービスを体験したいと思うはず。だが、その一方で、「ブレンド米」に対してネガティブなイメージを抱く人も少なくはないのかもしれない。そうした固定観念に対して、有馬さんはどのように対応しているのだろうか。

「いわゆるブレンド米はいい米が2、悪い米が8という割合になっているのではないか。ごまかされているんじゃないか、と勘ぐる人もいると思います。正直なところ、昔のブレンド米はそうした指摘をされてしまうマイナス要素がありました。僕らのブレンドは、その年の品質の良い米を吟味しているのでその心配は必要ないことをお伝えしています。お茶碗一杯分のお米を収穫するために約45リットルのお水が使われるのですが、日本の貯水技術は優れていて、それによっておいしい米を作れる土壌が整っているんです。ちゃんと教えてあげれば、理解してくれる人は理解してくれます」

○○産という単一種で販売するだけでは、農家さんのことを助けられない。だからこそ、価値のある米を選出してブレンドする。それによって引き出されるおいしさを日々、深く研究しているのだ。

「何かアクションを起こすならば、本当に生産者の人たちのためになるようなことではないとやる必要がないと思っています。今後は農家さんを支援するコンクールのようなものを企画したいですね」

2023年11月に催された「ふるさとチョイス大感謝祭9」では、ふるさと納税の寄付者の方々にお返しできるものを考え、来場者向けに無料で配布するお米を用意した。

未来にかける情熱を持って語ってくれた有馬さん。彼が立ち上げた会社の「グリーンライト」という名前は、「走者自身の判断で盗塁を判断する」という野球用語だと教えてくれた。農家さんをはじめ、一次産業に従事する人たちが自信を持って次の行動へ向かって走り出せるようなきっかけを作れるような会社でありたい。そんな想いをスローガンとして掲げた。有馬さんのピュアな願いが伝播し、農家の人々や米を愛してやまない人たちの笑顔が守られる未来を信じていたい。

写真提供:グリーンライト

My gohan

photo:阿部 健

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