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青果卸が生産者の声を代弁。岩手県産の野菜を全国そして、学校や保育園に【P&Cリンク】

「P&Cリンク」という社名の響きからIT系の会社を想像する人もいるかもしれない。少々意外かもしれないが、農家さんが作った野菜を“届ける役割”を担う会社だ。Producer(生産者)とConsumer(消費者)の両者の意見をつなげるという意味を込め、2017年から活動を続けている。農家さんの畑に足を運び、野菜の特徴や収穫時の感想をヒアリングする。日々、黙々と野菜づくりに励む農家さんのリアルボイスを胸に、届けるべき人や場所に野菜を渡していく。ゼロからこの仕事を始めたのは、農家さんを支えたいという想いがあったから。代表の菊池康弘さんと取締役の菅原遥奈さんたちの取り組みについて話を聞いた。

学校や病院、保育園に野菜を届ける

菊池さんがいまの職業に就いたきっかけは、同級生が卸業をやっていたこと。その前はIT業界でエンジニアをしていたそうだ。

「最初は同級生と共同経営をしていて、7年前に独立していまの社名に変更しました。社名は青果卸らしくないほうが同業者と差別化できそうに思えて。最初は店舗販売を含めて運営しようと考えていましたが、いまは宅配サービスがメインでほぼ店舗販売はしていません。僕らの事務所に来てくれた方に直接販売することが稀にある程度で」

それぞれ役割分担があり、主に菊池さんが仕入れを担当し、菅原さんが梱包やそのほかのサービスを担う。いまでこそ事業は軌道に乗っているが、ゼロからのスタートはなかなか大変だったという。

「学校給食や病院などに野菜を卸すために立ち上げた会社なのですが、営業をして取引が決まるのは1〜3軒程度。これは参ったな、というときに、ふるさと納税の返礼品の話をいただいたので始めてみました。そうした活動を地道に続けて、今は、学校や保育園の給食、病院、老人施設や障がい施設など、地域の学校や施設に『岩手県北上市産』の野菜を伝えたくて、卸しています。午前中はずっと仕入れ。午後は給食の準備や次の日の納品の準備がルーティーンになっています」

八百屋が地元の雇用に貢献すること

活動を続けるなかで、予想以上にふるさと納税で売り上げが立った。そのお金を地元の雇用に貢献しようと菊池さんは動いた。

「市役所の福祉課に声をかけていただいてご紹介をしていただき、袋詰めや単純作業をお願いすることにしました。子育て世代のお母さんたちが梱包をしに来てくれます。メンバーは20人くらい。みなさんフルタイムで働ける方ばかりではないので、午前中だけとか2時間だけ働いてくださる方も受け入れています。八百屋で雇用することは難しい、と周囲の人に言われましたが、僕はできると思って自分を信じて突き進んできました」

写真提供=P&Cリンク

そうした協力のもとひとつひとつの「岩手県産の野菜セット」が出来上がっている。

「京野菜や加賀野菜というブランドがあるなかで、全国的に岩手の野菜は無名なんです。岩手県はしいたけの生産量は上位にありますが、それでも、全国4〜5位くらい。りんごも4位とかですし。生産量的にナンバーワンを誇れるものはありません。けれども、お付き合いのある農家さんのところに行くと個性的でおもしろい野菜があります。里芋は同じ北上のものでも全然違います。農家さんによって土壌の特徴があるところも面白いと思います。そういったものに加えて、一風変わった野菜を混ぜてセットで売るようにしています」

手作りの野菜のおいしいレシピを届ける

「お客さんを楽しませたい」という想いで始まったアクションはそれだけではない。

「野菜を収穫している風景の写真を一緒に届けるようにしています。それと、料理のレシピをつけています。特に珍しい野菜は食べ方を知らないということもあるので。フードコーディネーターの人に考案してもらったものや一緒に働いているスタッフがよく作るメニューを手書きで封入しています。野菜を注文してくれた人に故郷を思い出してもらえるようなニュアンスで送りたいと思ったことから生まれたアイデアです」

「地元特有の食べ方があるから、ローカルな情報も一緒に届けたくて」と話す、菊池さんの表情は朗らかで優しい。菅原さんは「ときどき私が書いた時短レシピも届けています。これがとても人気で」と笑う。定期便を注文してもうらとレシピ4枚とお品書きが封入される。レシピは材料が少なめで、作り方もシンプル。日々、忙しく過ごす人の日常を支えてくれるメニューが嬉しい。

ある食材にフォーカスして、イラスト付きのレシピを紹介することも。このときはみんなが大好きな「簡単ピーマン肉詰め」の作り方をお届け。

「実際、注文してくれる方は関東近郊の人たちが圧倒的に多いです。ハガキやメールでコメントを送ってくださる方のなかに岩手県出身の方もいますね。そうしたリアクションが励みになっています。いま、お住まいのエリアでは手に入らない野菜もあるというお話をしてくださる方もいますね」

県内の学校給食に納品する野菜も「岩手県産」だ。

「岩手県北上市産まれ」の野菜の価値を伝える

「地産地消ということを意識しています。担当の教諭の方々も喜んでくだいます。私が納品に行くときは、『これはどこどこの農家さんが作ったものですよ』というお話をさせてもらうようにしています。その方がリアルに地元の農家さんや野菜のことが伝えられるように思います。あとは、変わったナスがあったら、保育園関係にサービスでつけます。ナスにも種類があるんだよ、と子どもたちに教えてあげることをアドリブでやっていますね」

どこで誰が作った野菜なのか。食べる人間がそのことを知ること、知ろうとすることはとても大切なことだ。意識することで、地域特有の味や味わい方への理解が深まることもある。さらには、地域経済への貢献にも繋がる。

「今はまだやれていないですが、北上市内の八百屋と農家さんを多くの方に知っていただくため、保育園などに出前八百屋企画をやれたらいいな、と思います」と菊池さん。

“訳ありりんご”に手を差し伸べて、フードロス問題に向き合う

「P&Cリンク」は野菜以外にも“訳ありりんご”の取り扱いも積極的だ。つまり、形が変形していたり、若干傷があったりするものを受け入れるということ。これらを売ることが課題だった、と菊池さんは話す。

「訳ありのものでも全然食べられるので。大体、りんごはおしり(底の部分)で値段が変わるんですよ。おいしいりんごは、スイカと同じでコンコンとやれば、音がします。高い音がシャキッとしていて、低い音だともさっとした感じになる。食べてもらって、ダメなものがあったら返品を受け付けるようにしています」

さらにりんごの出荷に関する背景を教えてくれた。

「りんごはひとつの木でならないんです。たとえば『ふじ』と『王林』とか品種を二つ用意して交配させるんですね。そうしたときに、JAさんは『ふじ』だけを出荷して、もう片方の『王林』は使われない。それってもったいないし、農家さんが困っているところに私が手を差し伸べて、売るようになりました。なので、聞いたことがないものが結構あると思います」

「P&Cリンク」の地道な活動は、地元、北上野菜や果物の存在価値を上げていくと同時にフードロスにも貢献している。彼らが届ける野菜にアクセスすることで、いままで触れたことがない野菜の味わいや食べ方に出合うことができるだろう。

P&Cリンク

photo:阿部 健

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