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1缶5000円。年商を10倍へと引き上げた最高級のツナ缶【モンマルシェ】

1缶5000円。その価格から、一体、何の缶詰だと思うだろうか。静岡県静岡市清水区にある会社「モンマルシェ」が作るのは、素材と製法にとことんまでこだわった最高級のツナ缶『BLACK LABEL』だ。そのこだわりについて話を聞くと、いいものを作りたいという思いはもちろん、大切にしたい技術から、国産野菜のこれからについてまで、話が広がっていった。モンマルシェの常務取締役の河野雄士さんに、こだわりの商品にかける思いを聞いた。

ツナ缶のパイオニアとしての想い

黒いラベルが巻かれた、漆黒の箱を手に河野さんが話し始める。その箱の中には、くだんの1缶5000円という最高級のツナ缶BLACK LABELが入っている。

「ツナ缶というと、世の中にあるほとんどのものにカツオが使われています。そのほうが価格が安く抑えられるから。しかし、このBLACK LABELでは、南三陸の気仙沼に引き揚げられるびん長まぐろだけを使っています。それも1%にも満たない大トロの部分のみ。だから、一尾から一缶しか作れないんです」

常務取締役の河野雄士さんと営業部の遠藤桜さん
三陸沖で水揚げされるびん長まぐろは、夏の間に一本釣りされたもの。釣り上げてすぐ活き締めするので鮮度がいい。写真提供=モンマルシェ株式会社

のっけから、あまりの希少性に驚かされる。さらに、そのびん長まぐろを漬けるオリーブオイルも、厳選された上質なものを使っているという。販売当初はスペイン産の「エルドラード ブラックレーベル」というエキストラバージンオリーブオイルで、このツナ缶の名前のきっかけにもなっている。

「数々の賞を受賞している風味豊かなオリーブオイルです。現在は、同じくスペイン産の『オロバイレン ピクアル』というエキストラバージンオリーブオイルを使っています。自社農園で収穫後に搾油している、本当においしいオイルなんですよ」

モンマルシェでは、毎年専属の目利きが上質なびん長まぐろを仕入れている。写真提供=モンマルシェ株式会社

素材にこだわりがあるのはとてもよく伝わってくるが、そもそもなぜ、ここまで厳選した素材を使って作ろうと思ったのだろうか。

「うちの会社は2014年に創業していますが、その前身である清水食品は1929年に日本で初めてツナ缶を作った会社になるんです。ツナ缶のパイオニアとして、素材にも製法にもこだわったものを作りたいという思いがあったからです」

すばらしい職人がいる証を残したい

ただ、それだけじゃなくて、と河野さんはさらに続ける。

「じつは、こういう技術があったんだ、こういうものが作れたんだという証を残したいという思いの方が強かったかもしれません」

このツナ缶に使っているのは、びん長まぐろの大トロの部分だというのは、先に説明した通り。それを缶詰にするためには、まず蒸して、その後に血合と骨を取り除くという工程が続く。その後、オイル漬けにしてさらに蒸すという流れだ。

「血合いと骨を取り除くのがとても難しい作業なんです。大トロの部分を使うため、一度蒸しあげるとプリンのようにやわらかい状態になる。身を崩さずに、きれいに取り除くには熟練の技が必要でした。ちなみに、気仙沼で加工していますが、現地にいるたくさんの職人さんのうち、当時は3人しかそれができなかったんです」

モンマルシェの前身である清水食品の創業当初の写真。写真提供=モンマルシェ株式会社

決して作れないわけではない。ただ、数少ない職人の技術と、希少な素材が必要で、1ヶ月に30缶という少量生産しかできない。企業としての売り上げはたたないという状況でも、それを製造しようと決めたのは、ツナ缶のパイオニアとしての誇りだった。

「工夫とこだわりがあれば、おいしいものを作ることができる。商品としての可能性はいくらでも広げられる。そのためには、職人の技術が必要。そういうことを知ってほしい、残して行きたいという気持ちが強かったんです」

とはいえ、工場の生産ラインでは反対意見もあったという。生産数が限られたものに対して、ここまで労力を割く必要があるのか。生産度外視の商品にラインを動かす意味があるのか。そんな至極当然の考えだ。

「そういう意見が出てくること自体、価値があることだと思いました。そういう議論ができるということは、世の中に出てからも話題になって、たくさんの人に知ってもらえる商品になるのではないか、と話して説得したんです」

技術を駆使した最高級のツナ缶を残したい。とことんまでこだわった商品が作れるということを証明したい。世の中にこの味を知ってもらいたい。そんな思いが商品化へとつながっていった。

販売から4年経つ現在、加工ができる職人は一人になってしまったという。河野さんは「いずれ、この商品は終売になるでしょう」とつぶやく。機械化が進むというのは、そういうことだ、と。

「しかたがないことだし、わかっていたことです。それでも、気仙沼の人たちが『ここでとれたものを最高級の商品に加工できるのは誇りだ』と言ってくれた。それが嬉しいんです」

最高級のツナ缶が認知度を上げた

売り上げが目標ではなく、技術を駆使した最高級のツナ缶を残したいという思いで作ったものだったが、意外な効果を生み出した。1缶5000円というものにどんな価値があるのかと、メディアがこぞって取り上げ始めたのだ。

「テレビや雑誌などで紹介され始め、あっという間に初回の分は完売しました。さらには、他のツナ缶の販売数もどんどん伸びていったんです。『BLACK LABEL』を『日本一贅沢なツナ缶ブランド』と言ってもらえた結果、モンマルシェという会社が作るものは、品質がいいという認知が広まったんだと確信しました」

モンマルシェでは、「BLACK LABEL」を作る前から、既存のツナ缶のラインがあった。そちらもBLACK LABELほどではないものの、同じようにびん長まぐろや漬け油にこだわった商品で、1缶あたり500円以上するもの。一般的なツナ缶より、はるかに高い。

「高いけれど、いいものという認知が広まれば、売り上げが伸びるということが証明できました。上質な一品だし、贈り物にもいいとなれば買っていただける。この価格だけの価値があると思っていただけるんだな、と」

河野さんがここまで自信を持って品質がいいと言い切れるのには、モンマルシェという会社の信念があってのことだ。商品開発において、決まった売価に対してコストを下げるという考え方はしていないと言い切る。

「いいものを作ってから、売価を設定していくという流れ。そうすると、卸をするだけの余裕がなくなりますが、それでもいいという会社です。商品を研究する人間はやりがいを感じるし、販売する人間も後ろめたい気持ちがなく、自信を持っておすすめできる。そういう環境にしています」

商品を開発し、作って、売るということに健全でありたいという姿勢を貫いているのだ。

魚の次は、野菜を簡単に食べられるように

もうひとつ、うちの主力商品があるんですと、営業部の遠藤さんが見せてくれたのが「野菜をMOTTO」シリーズ。国産の野菜だけを使ったもので、うま味調味料や着色料・保存料は不使用。さらにレンジで1分加熱するだけで完成するというレトルトスープだ。

「ツナ缶は魚を簡単においしく食べる方法で、売り上げが伸びていきました。次は野菜を簡単においしく食べられる商品を作ろうということで、スープを開発したんです」と話す遠藤さんに、河野さんが続ける。

「野菜不足を解決すると同時に、国産野菜のおいしさを伝える商品にしたいという思いが強くありました。たとえば、里芋には、親芋、小芋、孫芋とあって、私たちが普段食べているのは孫芋です。地元の農家さんに聞いたところ、親芋は孫芋と味は変わらないけれど、食感が良くないということで市場に出回らないそうなんです。それなら、親芋をスープにすれば使えるわけです」

ちなみに、静岡には『あさはた蓮根』というものがある。蓮根は栽培にとても労力がかかるものだが、主役になる食材とはいい難い。それも蓮根スープにすれば解決できると考えて商品化している。おいしいのにスポットが当たりにくい野菜を積極的に活用しているというわけだ。

また、仕入れ数も重要だと、河野さんはさらに教えてくれる。量販店に卸す商品を作ろうとすると、20〜30トンの量が必要になる。しかし、モンマルシェのようにB to Cの商品なら、3トンくらいがちょうどいいのだという。

「それくらいの量を作っている農家さんって多いんですよ。たとえば、長野のバターナッツカボチャを作っている農家さんには、できた分だけ全部買い取りますと伝えています。多くできたらそれだけ商品を作ればいいし、少なくても今回はこれだけできましたとすればいい。B to Cの商品だからできることなんです」

どんな野菜も、おいしいものであればどんどんスープにしてみる。仕入れられる量であれば、買い取る方法を模索する。河野さんはそうして「野菜をMOTTO」を開発してきたというわけだ。

ただ、ここまで国産にこだわることに対して、BLACK LAVELを作った時のように、社内から懸念されたことは多かったと振り返る。卸をして販売する方が売り上げは大きいし、国産野菜に限定すればリスクもあるのだから、懸念はごく当たり前のことなのかもしれない。

「国産野菜に限定すると、安定した供給は約束できません。天候不順で不作のこともありますから。でも、売り上げを追うよりも、いいものを作りたいという思いを優先しています。スポットライトを当てることで、国産野菜を作る人が増えてくれたらうれしいし、農業が活性化すれば、日本全国の地域創生にもつながると考えています」

いいものを作って売るという、ツナ缶で確たるものにしたモンマルシェの信念を、スープにおいても貫いているということなのだろう。河野さんは、その考え方で商品を開発し続け、実際に結果も出している。

「本当にいいものを作って提案しなければ、事業として意味がない。覚悟を持って作りたいと考えてきました。結果、BLACK LAVELを作る前に比べたら、会社の年商は10倍近くに伸びたんです」と誇らしげに教えてくれる。

これからの展望を聞くと、全国の農家さんともっと繋がりを強めて活性化していきたいし、スープを欧米やアジアにも展開していきたい、と話は尽きない。

反対や懸念があっても、いい商品を開発し、作って、売る。素材を育て、加工する人も、開発する人も、売る人も、みんなが誇りに思えるものを。モンマルシェへ期待する人は、これからもっと増えていくに違いない。

モンマルシェ

Photo:相馬ミナ

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