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子どもの未来に「ふるさと納税」を全額活用。“ふるさとを想う”子どもを育てる

「ふるさと納税」に参加してみたが、実際にどのように活用されたのかまではきちんと把握できていない。おそらく、そんな経験をしたことがある人はいるのではないだろか。京都府綴喜郡宇治田原町は「ふるさと納税」を活用して「未来を担う子どもたち」の夢を応援するポジティブな取り組みに力を入れている。自分が生まれ育った故郷に愛着を持つこと、まちで暮らす大人たちと交流して視野を広げること。そうしたことの大切さを届けるプロジェクトを継続している。企画を立案するのは、企画財政課 ふるさと応援推進係長の勝谷聡一さんだ。彼の話に耳を傾けることで、「ふるさと納税」や寄付に対する、新たな選択肢がみえてくる。

ふるさとを大切に想う気持ちが、原動力になる

プロジェクトリーダーの勝谷聡一さんの地元は宇治田原町だ。さらに小学校、中学校、高校、大学時代を過ごした場所でもあり、地元への愛は特別だ。このまちで暮らす人は、“電車のない生活”がスタンダードだというが、そうした不便さが気にならないほどいいところがたくさんあるという。

「若いころは何も考えずにこのまちに住んでいました。けれども、実際に外に出たときにここで過ごした時間がとても豊かなものだと気付いたんです。昔は近所の目上の人たちと距離が近くて、怒られたり、注意されたりすることも多くて。いま思うとそういう人たちに生かされていたと思うことが多く、すごくいい思い出になっています。それから時代が変わり、まちの様子も変化しました。ムードは変わってしまったけれど、僕の身の回りにはまちのことを真剣に考えるポジティブな住民や職員が多いんですよね。それで、このまちを持続可能にしたいという思いが次第に強くなったんです」

勝谷さんはそんな前向きなエネルギーを、未来を担う子どもたちに届けることに決めた。

「僕は子どもたちにあと20年後くらいまでは、このまちにできることを自分が責任を持ってやります、と伝えています。その先は君たちが、『シビックプライド』(地域への誇りと愛着)を持てるかどうかにかかっていることを話しつつ。いまの時代を俯瞰してみると、自分の『ふるさと』について想いを馳せる子どもが少ないように思うんです。人口が減っても『シビックプライド』を持っている人が1万人に1人よりも、千人いた方が絶対そのまちは元気だと思いますし、そんな社会を夢見ていたい」

子どもたちの「未来の夢」にエールを送る

勝谷さんが考えた取り組みのひとつに、夢応援「みんなが未来挑戦隊チャレンジャー」がある。

「子どもが夢見る“将来の姿”を『未来挑戦隊』というヒーローになぞらえ、写真撮影をする企画です。たとえば、コックや野球選手になりたい子どもがいたら、それ相応のコスチュームを着用して写真を撮影し、オリジナルのポスターを作ります。子どもが未来を想う時間をリアルに演出することで、夢を実現する意欲を持ってもらいたくて」

この活動を続けて、3年という歳月を経た。回を重ねるごとに周りに応援してくれる人が増えてきたという。

「今年でシーズン3です。シーズン4、5とさらに回数を重ねたときに、もう少し見えてくるものがあるのではないかと思っています。どのプロジェクトも単発で終わらせてはいけないという想いが強くて。今まで実行してきた数字を入れていくことで、役所のなかでもきちんと予算を取れる取り組みとして成長しました。やっていて面白いのは、参加してくれた子のお母さんが、『子どもの夢が、1年後に変わりました』と話しかけてくれたりするんです。夢が変わることは、子どもが自分の夢に対して意欲的な証拠でもあるように感じます。そうしたリアルな成長に嬉しくなりますね」

「未来挑戦隊チャレンジャー」で撮影した内容をオリジナルTシャツに。

地元の銘品を他者に伝える力をつける

ほかにも「ふるさと応援キャリア教育事業」という取り組みがある。中学校で町内企業と連携した商品開発をする授業をしている。

「大人が作るときちんと商品価値が出やすいものを作りますが、子どもが考えると自由な発想が生まれるんです。以前、地元の銘品であるお茶をどうやったら届けられるのか。子どもたちに課題を出しました。いくつか班を作り、チーム制でアイデアを練って、発表するプログラムです」

中学生のときに「ふるさと応援キャリア教育事業」に取り組んだ高橋希愛さん(右)と浅田和音さん(左)。高校生になった彼女たちは「ふるさとチョイス大感謝祭9」に参加。来場者に宇治田原町のことを伝えるためのサポートをした。
商品開発をするためのアイデアシート。宇治田原町のまちのマスコット「茶ッピー」をアピールする「茶ッピーボックス」を作った。

中学生のときに参加した高橋さんが当時を振り返る。

「宇治田原町に色々なお茶の種類があることを知ってほしい、ということで企業の方にご協力いただき、ティーバッグを作りました。深蒸し茶や煎茶などいろんな種類を作って。さらにそれをガチャガチャにパッケージしました。遊び感覚で触れてもらうと、楽しんでもらえるかなと思い考案しました」

浅田さんも自身がトライしたことについて教えてくれた。

「宇治田原町はまちのかたちがハート形をしています。そのことにヒントをもらい、ティーバッグを収める箱をハート形にデザインしてもらいました。さらに、ティーバッグもハート形にして。実際、この形を作るのは物理的に難しかったようなのですが、実現してもらえました。このアイデアを考えたのは中学2年生のときですね」

ふたりとも「自分たちが作ったものなので売れたら嬉しいし、いろんな人に知ってもらいたい。シンプルに自分たちがおいしいと思えるもので喜んでもらえることが何よりです」と口を揃える。

勝谷さんはそんなふたりを温かく見守りながら「この経験によって、物事を本質的に考えられるようになってほしい」と呟いた。

地元民以外の協力者と触れ合いを持つ

彼女らが学校を卒業した後、たとえ宇治田原町を離れたとしてもこうした経験を思い出して故郷のことを想ってもらえたら嬉しい、と勝谷さんは続ける。それは、子の気持ちを尊重する親の気持ちのような眼差しに似ていた。いま現在の宇治田原町の人口を尋ねると、9千人弱だと教えてくれた。

「総人口のなかで、工場勤務をしている外国籍の人が結構多いんです。そうした背景を踏まえてプロジェクトの一環として『多文化共生』というテーマを設けています。子どもたちは大人よりも外国籍の人に対する敷居が低くて。だから、カジュアルに会話を交わすんです。それで、子どもたちと外国人がボードゲームを通じて、仲良くなってもらおうという企画を考えました。最近はベトナム人のお子さんが保育所にいて。日本語もベトナム語もできるから多文化共生が育まれていることを実感します。いずれ、外国籍の方も僕らの活動の運営側に入ってほしいという願いがあります」

少しでもまちづくりに関わってくれる人が増えてほしいという願いを込めて、勝谷さんは、ありとあらゆるアプローチで未来に繋がるプランを実行する。

「宇治田原町について同じような考えを持つ人といいますか、自分ごとに思ってくれる仲間をもっと増やしていきたいと思いますね」

勝谷さんを応援する仲間は、地域に住む人たちだけではない。全国各地で「ふるさと納税」に参加してくれる仲間が増えてきている。これからもっともっと、新しい仲間が増えることを信じながら、勝谷さんは今日も活動を続けていく。

宇治田原町(ふるさと納税)

Photo:阿部 健

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