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畜産のすべてを「生かす」商品作り、栗山ノーサンの使命【栗山ノーサン】

ふるさと納税の受入額(寄付額)でこれまでに3度も日本一を獲得している宮崎県都城市。この功績を支えるのは、返礼品を提供する数多くの地元企業であることは言うまでもない。その中でも人気の一社が、都城市郊外に社屋を構える栗山ノーサンだ。

創業は44年前。長らく小規模なビジネスにとどまっていたが、15年前に事業を大転換したことで、一躍、県外の一般消費者にも知られる存在になった。同社の成長の軌跡を追う。

豚足の可能性に着目

栗山ノーサンは1978年に創業。元々は屠畜場で処理された豚の副生物(内臓や頭肉、豚足など)を、飲食店や卸業者に納めるような事業がメインだった。

潮目が変わったのが、2008年のこと。自社で加工品製造部門を立ち上げた。きっかけは“豚足王子”の異名を持つ池田吉啓取締役の入社である。

「それまで別の会社でソーセージなどの加工品を作っていた池田が、豚足の価値に目をつけました。コラーゲンが豊富で、女性や高齢者、アスリートなどにきっと支持されるはずだと考えたのです」と、同社の鳥越晋二管理部部長は説明する。

(提供:栗山ノーサン)

豚足は以前から同社の看板商品で、現在は月間30万トン以上を出荷するなど、全国でもトップクラスの取扱量を誇る。ただし、かつては処理した豚足を安く販売するビジネスモデルだった。「それではもったいないと、手間ひまかけて、加工品としての商品力を磨こうとなりました」と鳥越さんは振り返る。

池田さんらの奮闘によって新事業は軌道に乗り、業績は急上昇。数億円の売り上げを積み増した結果、現在の同社の売上高は12億〜14億円ほどになった。

売れ筋商品は、年間3万パック以上を出荷する「炭火焼鶏」と、後述する「おさつポークの生ジャーキー」。そして、もちろん豚足も根強いファンが買い求めている。

(提供:栗山ノーサン)

「毛の処理や、煮込んだ時のアク取りなど、豚足の加工は非常に手間がかかります。また、柔らかくするためのコツも必要です。その技術やノウハウを持っている企業はそう多くはないと思います」

目先の利益よりもパートナーとの信頼作りを優先

さらに、栗山ノーサンの追い風となったのが、「ふるさと納税」への事業参入だ。市からの要請もあって、同社は2014年5月に返礼品の提供をスタートした。

返礼品として最初に選んだのは、宮崎のブランド豚である「おさつポーク」のスライスだ。おさつポークは、三元豚に甘薯ミール(サツマイモ端材などから作る飼料)を与えて育てることで、甘みのある脂身やもちもちした食感などが特徴。ただ当時、このおさつポークがなかなか売れずにいた状況だった。

(提供:栗山ノーサン)

「全国にはブランド豚がたくさんあります。そんな状況の中で宮崎から関西や関東に一般流通するのは難しく、結果的に『おさつポーク』としてスーパーなどに並ぶのは、全体の10分の1ほどでした」

地元のブランド豚を広めたい。そういう思いもあり、栗山ノーサンはふるさと納税での取り扱いを決めた。出品すると注文が次々と入り、すぐに完売になったという。

商品の人気は確信したが、鳥越さんたちは慎重だった。

「ふるさと納税という制度がいつ終わるかわからないため、売り切れになったからといって、いきなり設備投資はできないと考えました。現状の環境でできることをやろうと」

ただ、タイミング良く新工場建設の計画があったため、それを前倒しに進めた。2017年に工場は完成し、商品の生産量を増やす体制が整った。

(提供:栗山ノーサン)

それに合わせて、仕入れ先の農家とも交渉する必要があった。確実にさばけるという確信がなくては、通常より飼育のコストが高いブランド豚を安易に増やすことは農家もできない。ビジネスパートナーとしての信頼を得ることに力を注いだ。

「当初は、月間20頭のうち2、3頭を回してもらっていました。でも、それではまったく足りないため、交渉して、1年くらい経ったとき、月間100頭までは出せるとなりました。しかし、その量でも半日で売り切れる月が多々あったのです。そこからさらに交渉を重ねて、今は最大300頭までになりました」

リピーターの存在価値

ふるさと納税に参入したことは、栗山ノーサンにさまざまなメリットを生んだ。知名度や収益の向上はもちろんのこと、「ファン」と呼ぶにふさわしいリピーター客が数多くできたことは大きい。例えば、10万円の定期便セットを毎年3口ほど購入する客もいるほどだ。

リピーターの存在は従業員にとっても仕事のモチベーションになっている。

「お礼の言葉が月に100通くらいハガキで来ます。普段、従業員は黙々と働いていて、なかなかお客さまと接することはありませんから、励みになっています」

(提供:栗山ノーサン)

最近ではこんなこともあったと鳥越さんは明かす。

「夫婦で南九州を旅行するから、栗山ノーサンにぜひ訪れてみたいという相談がありました。ふるさと納税でうちの商品を毎年買っていただいているお客さまでした。応接室でいろいろなお話をしましたが、実際に来てもらうことはそうないので嬉しかったですね」

客とのコミュニケーションがもたらすのは、従業員のモチベーションアップだけではない。商品開発につながることもある。

例えば、冷凍商品を真空パックに詰めて出荷するようになったのも客の要望だ。以前はトレーごと冷凍していたが、一度に3、4キロも商品が届くと冷凍庫がかさばるため、小分けにしてほしいという声があった。また、一番人気商品の炭火焼鶏に柚子胡椒を同梱したセットを作ったのもそう。

今ではリピーターを最優先に考えるようになった栗山ノーサン。その関係性をより深化させるための取り組みの一つがフライヤーの制作だ。

おすすめのレシピや、工場や社員などを取材した記事を掲載し、毎月発行するほどの充実ぶりである。これを読んだ客が「このレシピを自宅で再現したい」と商品を購入するケースも少なくない。

また、2020年には、個人向けの商品販売も始めた。確実に、B2BからB2Cへとビジネスの裾野を広げている。

捨てずに生かす精神

“畜産王国”と言われる都城市だが、農家の高齢化の波は待ったなしで押し寄せている。地元の企業として、栗山ノーサンもこの課題に正面から向き合わなくてはならない。

鳥越さんは、農家を支援するためには、薄利多売ではなく、一つ一つの農産物の価値を高めて販売していくことが、自分たちの使命だと感じている。これはかつて、ふるさと納税の返礼品で価格競争に陥ってしまった反省もある。

「豚って捨てるところがないんですよ。われわれが豚足を扱い始めたのも、そうした理由から。余すことなく豚の価値を届けたい」と鳥越さんは力を込める。

同社が掲げる経営理念は、「すてる」を「いかす」へ。この言葉を胸に、これからも都城市の地場産業を守り、活性化していく所存だ。

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