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新感覚プリンに詰まった、「地域を盛り上げたい」という熱き思い【カフェ・ド・グリル サザンクロス】

鹿児島県大崎町に店を構え、地元の人に愛され続けている洋食屋さん「カフェ・ド・グリル サザンクロス」。日本人がホッとする「日本の洋食」を、34年にもわたって提供している。

同店ではアイスプリンを称するスイーツ、「カタラーナ」を全国に向けて販売している。シャリっとした食感の新しさと、じんわりと口に溶けるどこか懐かしい味。温故知新プリン、とでも名付けようか。

数々の名品を生む、海の近くの洋食屋さん。その背景には、多彩な名産品を育む豊かな土地と、その地を盛り立てたいという洋食屋さんチーフの熱い思いがあった。手の平に収まるプリンのビンに詰まった、大きな志を聞く。

うなぎ、黒牛&黒豚、マンゴーにゴボウまで。食彩の地、大崎町

「大崎町は本当に、いろいろな生産者の方がいて、豊かな土地だと思います」

九州も南端に近い、志布志湾に面した鹿児島県大崎町。ここで洋食屋さん「カフェ・ド・グリル サザンクロス」のチーフを務める坂元健太郎さんに地域について聞くと、そんな答えが返ってきた。

大隅半島の東に位置する大崎町は、人口1万2000人という規模ながら、うなぎ、黒牛、黒豚、さつまいもにマンゴーやパッションフルーツと複数の名産地として知られる。ちょうど話を聞く前日、都内のスーパーで何気なく手にしたゴボウも「鹿児島県大崎町産」と書いてあった。

「そう! 大崎町はゴボウも多く作っています。ほかにも大手コンビニエンスストアのおでんの大根も大崎町産です。そのコンビニ、大崎町にはないですけどね」と坂元さんは笑いながら教えてくれた。

「サザンクロス」店名に込められたエピソード

坂元さん自身は、この豊かな地で洋食屋さん「カフェ・ド・グリル サザンクロス」のチーフとして働く。両親が同地で開業し、今年で創業34年目になる。

老舗の洋食屋さんといえば、「〇〇亭」「〇〇軒」「キッチン〇〇」という名前が一般的だ。そんななか、「サザンクロス」というモダンな店名に、先見の明を感じる。

「もともとこの店の名前をつけたのは、船乗りだった祖父です。航海士をしていて、引揚船や商船など乗っていたそうです。貿易船に乗っているとき、喜望峰を越えるとサザンクロス(=南十字星)が見えて、ホッとしたと。さらにその美しさにも感動したそうです」

南アフリカにある喜望峰近くは、百戦錬磨の船乗り達も恐れる、荒々しい海。それを越えて南十字星を見つけたときの安心し、感動した思いが、店名に込められている。「自分も祖父が体調を崩して入院していたときに知ったエピソードですが、いい話だなと思いました」。

だからこそ坂元さんが心がけているのが、地域の人がホッと過ごせる場所、そしてじんわり感動する味。人気のメニューはハンバーグやミックスフライなど、昔ながらの「日本の洋食」。銀座スエヒロで修行を積んだ父であり店主の坂元孝司さんが主に厨房を担当する。

「ドレッシングやデミグラスソースも手作りです。デミグラスソースは作るのに1週間かかります。ドレッシングはもともと販売していなかったのですが、『子供が野菜を食べてくれるから、売ってほしい』というお客様のご要望があって販売をスタートしました」

「つながり」が生む、新しい味

素材に関してもこだわっている。「お米は自前で作っていて、野菜や黒豚などは近隣から仕入れています。ふるさと納税の返礼品で『カタラーナ』というプリンを出品しているのですが、そのつながりで生まれた縁も多いですね」。

消費者にとっては地域の特産物などを知れるふるさと納税。一方で生産者にとっては、横のつながりを生むという副産物もあった。

「いろいろな生産者の方がいるのが、大崎町の強みでもあると思います。だからこそ、横のつながりを作って大切にしていきたい。実は初期の頃からふるさと納税に関わっているメンバーで『大崎町ふるさと納税組合』を立ち上げたんです。ふるさと納税をきっかけに、新商品も生まれています」

サザンクロスの名物プリンである「カタラーナ」もその例にもれない。

もともと九州南部は養鶏が盛んな地。サザンクロスのある鹿児島県は常に出荷量で全国ランキングのトップ3に入っている。この新鮮でおいしい卵を使って何かスイーツを……と思って生まれたのが、この「カタラーナ」だった。「大崎町の名産品は多いけど、スイーツはないよね、というところが出発点でした」。

「カタラーナ」とは、スペインのカタルーニャ地方のスイーツで、クレームブリュレの原型ともいわれている。ただし商品化に至るにはさまざまな試行錯誤があった。

「新鮮な卵を使ったプリンに、防腐剤などは入れたくなかった。けれどもそれを冷蔵で送ると、賞味期限がもたないという欠点がありました。だったら冷凍することで生まれる新しい食感を楽しんでほしいと思ったのです」

プリンの最大の魅力である「滑らかな口当たり」を思い切って諦めたからこそ生まれた、新テイスト。半解凍で食べるとシャリシャリとした舌ざわりで、「プリン以上アイス未満」の絶妙な食感が楽しめる。

プレーンの味が基本だが、大崎町の名産品である桑茶を使ったものなど、アレンジは10種類にものぼる。「地元のつながりで、『こういう素材があるんだけど』というところから新しい味が生まれることが多いですね」と坂元さん。話していると、「つながり」というフレーズが数多く出てくる。

こうした背景もあり、鹿児島県大崎町はふるさと納税額日本一(2015町村の部)となる寄附金を集めている。東京・恵比寿の和食店「賛否両論」の店主・笠原将弘氏も大崎町の野菜や肉を高く評価しているという。

伝統の文化を受け継ぐ醤油会社での新しき挑戦

「実はほかにもふたつ仕事をしています」。そういいながら坂元さんは、別の名刺も差し出してくれた。ひとつは隣町の東串良町にある山中醤油株式会社の取締役だ。

「コロナ禍の影響もあり、地元の醤油会社が製造を中止するという話になりました。急に生産が止まると困る方もいると思い、その時の工場長と一緒に2021年2月に会社を立ち上げたんです」

これまで受け継がれてきた味がプツリと途切れてしまうのは惜しかったという。醤油はいわば「おふくろの味」の決め手。さらに飲食店でプロが使っている場合は、お店の味にも関わってくる。何より、と坂元さんは言う。「やっぱりこの地域、大隅半島を盛り立てていきたくて」。

山中醤油の看板商品は自社でだしを引く、だし醤油「月白」。かつお節で上品な香りを持たせ、さば節でコクと濃厚さをプラスした。さらにいりこが香りのアクセントになっている。そのほかアジや根昆布、干し椎茸がブレンドされた自信作だ。薄めてうどんのつゆ、鍋、炒め物など様々な料理に使え、原液でそのまま卵かけご飯もできる。

加えて山中醤油がユニークなのが、デザイン部門を擁すること。だから味はもちろん、パッケージも洗練されている。「月白」のラベルは、三日月がデザインされたシンプルで上品なもの。そのほかも商品も醤油が持つ生活感を一蹴している。高級ホテルのダイニングテーブルにもそのまま置けそうなのだ。

醤油会社を立ち上げるにあたって、古い倉庫を改装し、醤油工場、ライブラリーカフェ併設店舗を仲間とともにセルフリノベーションしている。2021年9月に、醤油に加えて地元特産品やキッチン雑貨、アウトドア雑貨などを販売する直売所をオープンさせた。

「実は大崎町は自治体別の一般廃棄物リサイクル率日本一を14回も達成しているんです。『日本一のリサイクルの町』なのですが、全国的にそのイメージがまだ浸透しきっていないと感じています。だから店内にアップサイクルしたインテリア小物を配置したりと、どんどんアピールしていければと思っています」

さまざまな人のさまざまな思いを込めてオープンした直売所。そこはぬくもりとデザイン性が調和した、新しくも懐かしい空間になっている。毎週木曜日には「木曜の串焼き」と題し、アウトドアスペースで串焼きも提供。醤油の香ばしい香りにそそられるように、人々が集う。

地元の情報を外へ、外の情報を地元へ

こうしたメッセージを「伝えること」もまた、坂元さんの役目。坂元さんは3つ目の仕事として、地元のコミュニティーFMのパーソナリティーを務めているのだ。実際に会話をしていても歯切れ良い言葉がテンポよく出てきて、周囲から自然に声がかかったであろうと想像できた。

坂元さんがパーソナリティーを務めるコミュニティーFM「FMおおさき」は、午前9時から午後6時まで、すべて生放送している。坂元さんはここで、多いときで週7回(!)、いまも週3回ほど1時間番組を担当している。

コミュニティーFMで語ることは一般的な話題から地域のイベントまでさまざまだ。「自分は催事やほかの自治体と一緒にイベントをやったりと、外に出る機会も多いんですね。外に出るときは大崎町の良さを伝えて、帰ってきたときは『こんな感じだったよ』と話します。地域の人に外の情報を伝えるのも役割かなと思っていて」。

田舎で最先端をゆくこと、この地に還元していくこと

プリンに醤油、そしてパーソナリティーと、坂元さんの話題は尽きない。3つの肩書きのバランスをとることも必要だろう。

今後、お店や「カタラーナ」についての目標はありますかと聞くと、こんな答えが返ってきた。

「まずはきちっと現状維持をしていきたいと思っています。現在サザンクロスではランチ営業のみ行っていますが、店舗と事業をやっていると、バランスがとれなくてどちらか続けられなくなる人もいます。お店に来る方も、『カタラーナ』を購入する方も満足していただけるように、現状維持していきたいと思っています」

それからさらに……と坂元さんは、最後にちょっぴりはにかみながら加えた。「田舎でも最先端をいけるということ伝えていきたいと思っています。この地から発信し、地元にさまざまなものを還元させていきたいです」。

話を聞いた翌日、カタラーナを長めに解凍して食べてみた。すると半解凍のときとはまた別物で、なんだか坂元さんにサプライズを仕掛けられたような気分に。手の平に収まるプリンのビンの中に、坂元さんの大きな志が詰まっているように思えた。

カフェ・ド・グリル サザンクロス

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