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“ネバーフォレスト”根羽村の描く夢は、「世の中をもっと木だらけに」【根羽村森林組合】

長野県の最南端に位置し、岐阜県と愛知県の県境の山に囲まれた根羽村。面積の90%以上が森林で、人口約900人430世帯の村全員が森林組合員。驚くほどに林業の村だ。根羽村森林組合・参事の今村豊さんは「根羽村は、ちょっと特殊なんです。林業的には理想形」と、てらいなく言い切る。

その質の高い木材を生産している根羽村から「木育キャラバン・木づかいライブ」などのイベントで年間50回以上は他県へ行き、子どもたちを対象とした木材や林業にまつわる啓発活動を続けている。「かつてない森・ネバーフォレスト」根羽村からピーターパンよろしく人里へと飛んでくる森林組合の中心人物であり、Iターン移住組である今村さんに聞いた。なぜ、村の外へと向かうのか。

山や森に興味を無くした世の中を、木だらけに

この日は山梨県道志村でのイベント出張中の根羽村森林組合「木育キャラバン」。山道を登り、会場について今村さんを探すと子どもたちの群れの中、木のおもちゃの使い方を教えている姿を見つけた。

「今日はこれでも、持ってきてる木のおもちゃが少ないほうなんです。大きなシンボル的なもの(スパイラルタワー)、ブランコとか弓矢の的あてはあるけど。でも、子どもたちはワーっときてくれます。“木づかいライブ”、“杉だらキャラバン”って名前で、僕らで各地に行くんです。もっと木を使おう、世の中を杉だらけにしてみようっていう意味で名付けています」(今村さん)

根羽村は村自体がひとつの森林組合で、冒頭で述べたように全世帯が組合員で山持ちという林業の村。「根羽スギ」や「根羽ヒノキ」といったブランド材もある一見とてもうまく行っている林業エリアにも思える。その中から、週末ごとに山から里に出てきて、木工体験や木のおもちゃ、施設に触れるイベントを開催する。

「こういう活動をしているのは、身近にある木や森、山に人が興味を無くしちゃってるから。日本の生活に合う木材がそこにあるのに、海外の材をたくさん買ってたり。世の中を見渡せば、林業は未来に向けて必要とされる仕事だとわかります。だからまずは、将来世代に木の魅力や楽しさを伝えたいんです」(今村さん)

森林のプロ、実は東京生まれ東京育ち

春先にも関わらず、日焼けした肌。手作り弓矢や表札作りに夢中の子どもたちに笑顔で手ほどきをする今村さんは、林業や山のことを聞くと急に早口に、豊富な知識でわかるまで解説をしてくれる森林のプロフェッショナル。聞いて驚くが、東京生まれのIターンで、根羽村に移住したのは50歳になってからだという。元は林野庁、長野県庁職員として根羽村との縁があり、この村の魅力と課題を知り尽くしてからやってきたという。

「根羽村は、木材需要の高かった高度成長期からしっかり山を整備して、土地の調査や手入れをしてきています。今も60年生くらいの一番いい木材が出せて、山を大事に思う精神風土があります。また、木を切り出すだけでなく加工する製材所、家を建築する建築業までトータル林業ができているんです。それら全てが繋がっているから、トレサビリティ(木材生産地や製品の生産工程)も明らかな、いわゆる高付加価値な“森林認証材”で製品作りや家づくりを丸ごと根羽村で請け負える。作り手の顔も見えますしね」(今村さん)

まず森林や木材の価値を高めること。環境配慮型の企業や自治体、個人が増えてきているこの時代に戦略としても正しいし、環境課題の解決への道にも繋がっている(根羽村は森林によるCO2の吸収量を国が認証するJ-クレジット提供者でもある)。

憧れられる移住と森での暮らし、でも課題は村の高齢化

その根羽村にも課題はある。実際に山で木を切っている林業者のほとんどが移住者、Iターンということだ。一見、魅力的な場であるからこその良い話に聞こえるが、地元で生まれ育った若者たちが外へ就職をして戻らないという事でもある。そのため、村全体としては高齢化が進み、人口の半数が60歳以上という。

「村にきてくれる人への施設としては、数週間とか半年、暮らしながら実際に山に入ってみてインターンできるトライアルハウスもあります。まず林業や農業に就く判断は難しいですから。そこでご自身に合っているか、我々もその人たちがやっていけるかを判断ができます。自然の中でチェーンソーを持って自分の力で働きたい、っていう人は結構いますね。女性の方も希望者は結構いらっしゃるんですよ」(今村さん)

林業と全く縁のなかった人が定住することも多く、外部からみても魅力的な発信はできている。しかし村で育ち地元に魅力とプライドを感じ、Uターン定着して暮らす若者の人口を増やすことも大きな課題だ。そのためにも、さらに魅力的な取り組みや仕事を増やしていくことが求められる。そのひとつが、矢作川流域180万人の「水源の森」としての根羽村と、下流域の都市部である愛知県安城市などの自治体と連携した木育活動である。

キャラバンを「作る人」、小野隆二さんの登場

これらの木造のおもちゃや、ブランコなどを実際に形にするにあたり、今村さんのキャラバンに欠かせない人物として、根羽村森林組合の小野隆二さんの存在がある。今村さんと同じくIターンの移住組。山仕事のかたわらで身につけたチェーンソーアートなどの木造、木工製品の腕を生かしてキャラバンのサポートと現地で使う木育教材やおもちゃを作っている。

「愛知教育大学の教授が、今村さんの講演をきっかけにお話を持ってきてくれたんです。教育玩具の小さな模型を作ってきて、木の動くおもちゃを根羽村の木材で実サイズで作れないか、と。その技術を僕らは持っていて、材料も間伐材のよい素材で作れる。今村さんと僕は『プランする人、作る人』のコンビで、今村さんがキャラバンや講演で外に行き、それを見た人が一緒にやりたいって声をかけてくれる形が多いですね」(小野さん)

元々は林業がやりたくて移住して、10年ずっと山で木を切っていた小野さん。半ば無理やり? 巻き込まれるようにキャラバンに参加したが、今は次に作るもののアイデアが止まらないという。いわゆるサラリーマンだったが、雑誌で見た山師の姿を見て林業を志した時、根羽村での求人を見つけて応募した。40歳の時だったという。村に定住して20年ほど、村で生まれた子どもたちが学校を出ると戻ってこないことにやはり危機意識を持つ。

「外でうちの村の話を聞いた人や出会った人は、面白そう、住みたい!って言ってくれるんだけれど。子どもの頃から親の仕事の手伝いで、林業が近くにありすぎた子たちには楽しい仕事としての印象が残っていなかったりするんだよね。定年過ぎたら帰ってくるんだけど、もっと若いうちに帰ってきてもらわないと(苦笑)」(小野さん)

森林の自治体同士のコラボで広がる光景

林業の村である根羽村と、「木に親しむ森で遊ぶ」という共通項で山梨県都留市の「一般社団法人Forest Tribes(フォレストトライブス)」のメンバーとの取り組みもある。

「今日一緒にやっている彼らは、専用のロープや装備を使って誰でも安全に樹上の世界を楽しむことができるツリークライミング®の体験会を開催したり、地域の森林空間を活用して企業研修や体験プログラムを提供したり。人と森との共生というテーマを具現化することで森林の価値を高める“森林サービス産業”ですね。うちは完全に林業だから、その組み合わせでアイデアを出し合ったりしてます」(今村さん)

子どもたちが最初にスルスルと登り始め、心配そうに見守っていた親たちもふと見るとウズウズ、そのうち自分たちも登っている微笑ましい光景。根羽村の木のおもちゃも、最後には大人のほうがハマってしまう姿もあった。手作り弓矢でなかなか的を落とせない親に子どもが声を掛ける。「お父さん、もういくよ!」、「もうちょっと待って!」。

自分で作った国産材の木のおもちゃを大事に持って帰る子どもたち、大人たち。初めてみる高い樹木の上からの風景や、木の梢に目を丸く輝かせるのも子どもたちだけじゃない。知恵と技術を持ってみんなを導く森林や山のプロたちは、この日のヒーローだった。

ネバーランドではなく、暮らしに木をあたりまえに

「根羽村は、ちょっと特別だから」という今村さんに、これから森林の価値を作り出していきたい自治体にアドバイスをするならとあえて聞いてみた。「根羽村は森林整備を昔からやってきたおかげで環境が整っているのが大きいから、簡単なことは言えないけど」という前置きをして、山を眺め話し始める。

「まずは自分のところの森林資源を知らないといけないです。例えば(向いの山を指して)あの山の上の方は環境林。節が出て良い材は取れないが、適切な整備をしないと山崩れしたりするので環境林とします。その下は育った木材が取れるから生産林になる。そして僕らの今いるような場所は人と森の共生林。山菜や果樹を採ったり、人との触れ合いの場として里山と呼んで活用します。そういったゾーニングをして森林の経営計画を詰めてから、ようやく山の活動が始まります」

林業と一言で言っても、山に入り木を切る人、森林調査をする人、プランニングをする人、もちろん補助金の申請や許可といった事務方の仕事もある。そう言った林業の仕事をした上で、村を飛び出す今村さんたち根羽村森林組合「木づかいライブキャラバン」は発足した。

「まずは生活の中にある木を、もっと増やしたくなるきっかけを今は作っています。どこへでも出かけますし色々な人に会う。森林を意識してくれる人を増やす段階です」

根羽村という“ネバーランド”のネバーフォレスト。森と街を行ったり来たりして、未来の日本を木だらけにするために、今日もキャラバンを携えて山から里へやってくる、かつてない夢を抱えた大人たちがいる。

Photo:Kenji Onose

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