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「小ぶりでも値は下げない」凍霜害を耐え抜いた5キロ1万円の西洋梨【コダマサン】

山形県上山市では、4月に甚大な凍霜害を受けたラ・フランスをふるさと納税の返礼品としている。通常の規格より小ぶりではあるものの、味は絶品という果実を「コダマサン」の愛称でブランド化。被害を受けた生産者への「緊急支援品」として話題になっている。自然災害を逆手に、新たな価値を生み出そうとしている上山市のシティプロモーション推進係の川島啓太さんに、「コダマサン」にかける思いを聞いた。

「100年に一度」「想定外」といわれる大きな災害が毎年のように起きるなか、いかにして自治体が生産者を支えていくべきか。アイディアを試し、制度を整え、親身になって支援する。そんな自治体があるからこそ、生産者は全力でいいものを作ろうと奮起する。そんな農家や農協、地方自治体が目指すべき連携の形が見えてきた。

凍霜害を耐えた、奇跡の果実

寒い冬の間に剪定した枝に、春になると一斉に花が咲く。夏の間に少しずつ実が大きくなり、秋にはたわわな果実を収穫。ラ・フランスの栽培は、このように年間を通して行われる。どの季節も気温や湿度を気にしながら、蕾の数を調整したり、摘花、摘果をしたりと丹精に育てていかなければならない。それが、山形県上山市の一部では、難しい状況に陥った。今年の4月、氷点下まで気温が下がり、霜による被害が発生してしまったのだ。

「雌しべが枯死してしまったり、せっかく実をつけても、成長する前に落ちてしまったりしたんです」

上山市内で、農協に所属しているラ・フランス農家の約6割が、農地の半分以上でこの被害に遭った。壊滅的な被害に遭った農家も多いという。

本来、ラ・フランスは寒さに強い。日本の生産量の約8割が山形県産というだけあり、冬の寒さと夏の暑さ、さらに昼夜の温度差が大きい環境が向いていたはずだった。

「春に霜がおりることで、ここまでラ・フランスに甚大な影響が出たのは初めてといっていいくらいの状況だったようです。どうなるか予測できませんでしたが、なんとか育ってくれた果実もあったんです。大きくならずに通常より小ぶりですが、味は変わらずおいしいんですよ」と、嬉しそうに小さな果実を見せてくれる。

左が通常のサイズ、右が「コダマサン」。約半分ほどの大きさなことがわかる。

上山市では、「平棚仕立・無袋栽培」という独自の栽培方法でラ・フランスを育てている。文字通り、平らな棚に枝を這わせ、実に袋をかけない栽培法。太陽の光が満遍なく当たり、すべての果実に栄養が行き渡ることで、甘くて濃厚なラ・フランスが育つ。

「大玉が育ちやすい栽培方法なんです。実際に比較的被害の少なかった園地へ行くと、無事だった枝には立派な実がついていました。一方で被害のひどい園地では、霜の影響からほとんど実のついてない枝が多く、ついていたとしても小ぶりなものばかり。これでは生産者さんたちが大変だと実感しました」

画像提供=山形県上山市役所

ふるさと納税を生産者の支援に

小ぶりなサイズでは通常出荷していた時に比べて4割近く値を下げてしまう状況。そもそも収穫量も少ないうえに、単価も安いとなると農家の収益は一気に落ちてしまう。

そこで、川島さんら市役所と農協が協議し、緊急支援品としてふるさと納税を活用することに。5キロをふるさと納税の寄付額1万円の返礼品として設定。小さなラ・フランスでも味はいいということを伝え、支援の気持ちをお願いしようという価格設定だ。寄付金は、返礼品調達費がそのまま生産者支援に繋がるほか、産業振興分野の寄付は、今後の対策等に充てられるという。

「味も品質も変わりがなく、ただ小さいという見た目も含めてかわいがってもらおうと『コダマサン』と命名しました。決して安くてお得という価格ではありません。あくまでも支援という趣旨に賛同していただけたらと思っています」

実際にスタートしてから2ヶ月の間に600ケースほどの注文が入った。ラ・フランス全体の受入額も前年に比べ約1.6倍となっている(4月~11月までの市への入金額ベース)。ただ寄付をするだけではなく「がんばってください」「支援したい気持ちがあったので、待っていました」という声も一緒に届いているという。

小さくても売れる。支援してくれる人がいる。そんな事実は、生産者の支えになるに違いない。

災害を恐れず、営農するための支え

どうにも抗えない自然災害に対し、こうした支援体制があるということは、生産者にとって心底、頼りになるはずだ。上山市では、このような支援の取り組みを以前にも行ってきた。

2020年、コロナ禍で観光客の受け入れができなくなったことで、さくらんぼ狩り用の園地のさくらんぼが行き場を失う恐れがあったことから、市と観光果樹園協議会が協議し緊急支援品としてふるさと納税の返礼品に設定。2週間で1000ケースの申し込みがあったという。

また、昨年の6月には雹が降るという事態に。せっかく大きく育ち始めていたラ・フランスに傷やへこみがついてしまった。それらは市場に出荷することができず、農家の収益が落ちてしまう。

「見てくれが悪い梨という方言の『ミダグナシ』という名前で返礼品としました。『傷はあってもおいしい』という声をたくさんいただけて、本当に励みになったんです」

もちろん、このような取り組みがない状況のほうがいいと川島さんは言う。災害に遭わず、育てた作物がたくさんの人のもとに無事に届くことが第一だ。それでも、どうしても難しい事態は起きてしまう。そんな時に、しっかりとした支援を行ってきた実績があることは大きいだろう。

届いてから、追熟か保存を

実際にコダマサンを食べさせてもらったら、口に入れた途端に甘い果汁が口に広がり、とろけるようななめらかな食感で、たまらないおいしさだった。「味も品質も保証します」と胸を張っていた川島さんの言葉通りだ。

ちなみに、5キロという量を食べきれるか心配の方もいるかもしれないが、ご安心を。自宅に届くのは、食べごろになる前の状態だ。常温で保存して追熟させれば食べごろになるし、その状態のものを冷蔵庫に保管することで長期間ラ・フランスを楽しむことができる。

「食べごろの見極め方は、茎のまわりの状態。皮にしわがよってきて、果肉が耳たぶより少しかためくらいがおすすめです」

上山市は、ラ・フランスを筆頭にさくらんぼやシャインマスカット、りんご、柿、桃と、たくさんの果物が育つフルーツ王国だ。おいしいフルーツが食べられるのは、天塩にかけて育てる生産者あってのこと。彼らがこれからもずっと営農を続けるためには、今回のような支援はことさら大切なこと。

「ふるさと納税でも支援できるという体制があること、支援してくれる人がいるということは、支えになります。生産者はこれからもがんばろうと思えるはずです。私たちもしっかりバックアップしていきたいと思っています」と話す川島さんの笑顔には頼もしさが感じられた。

山形県上山市

Photo:相馬ミナ

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