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「使い道の“見える化”で寄付者と行政を動かす」高校生が実現した島の音楽フェス

寄付や支援で集まるお金。それらが一体どのようなものに使われ、どんな結果を生み出しているのか、知りたい人も多いだろう。その問いに対する答えのひとつに「クラウドファンディング型ふるさと納税」がある。使い道に特化して寄付を集め、それらをプロジェクトに投資。地域の特産として町のプロジェクトへの支援を募るというのが特徴だ。

このクラウドファンディング型ふるさと納税を活用して、高校生たちが音楽イベントを企画・運営したという町がある。島根県の沖合に浮かぶ隠岐諸島のひとつ、海士町だ。熱い思いを持った高校生と、見守る大人たち、さらに、それを支える自治体。官民一体となって取り組んだイベントから、使い道が明確な寄付の形が見えてくる。海士町のふるさと納税の活用を担当しているAMAホールディングス株式会社の堀之内千夏さんに話を聞いた。

大人たちを動かした、高校生の想い

2023年11月。島根県の離島で「AMAFES」という音楽イベントが開催されていた。プロのミュージシャンや高校生バンド、地元の伝統芸能。誰が前座というわけでもなく、すべて同等にステージに立って盛り上げる。朝から晩まで熱気が立ち上り、島民だけでなく島外からの観光客も一緒になって楽しんだ音楽フェスだった。

写真提供=海士町役場

この運営費の一部をまかなったのが、クラウドファンディング型ふるさと納税で集められた寄付金。仕組みは、まず、自治体がふるさと納税の寄付金の使い道を具体的なプロジェクトとして提案。それに共感した人が寄付をすることで、プロジェクトが達成されるという流れだ。「お礼の品」からではなく「使い道」から選ぶことで、自治体の取り組みを応援することにつながる。

結果「『高校生×地域民謡×プロアーティスト』離島で行うAMAFES2023を開催させてください!」というプロジェクトに賛同した人たちからの寄付金3,673,000円が集まった。経費を除いた金額が補助金となり、会場設営費や機材費、人件費、アーティストへのギャランティなどに充てられた。

海士町のふるさと納税の活用を担当しているAMAホールディングス株式会社の堀之内千夏さん。

「海士町には『島留学』という制度があって、その高校生は大阪から島の高校へ入学した子なんです。フェスをやりたいという思いで島留学をしたくらい、熱い思いを持っていました」

海士町としても、新たに誰もが挑戦できる制度を整えたいという思いがあったという。そこへ、活用すべき事案が舞い込んだ。制度として整えておけば、今後も活用したいと手を挙げる人たちが増えるに違いない。町民の誰もがクラウドファンディング型ふるさと納税を活用し、挑戦への最初の一歩を踏み出せるよう、要綱を整備していったというわけだ。

スピーディーに動ける大切さ

要綱を整備するにあたり、何を目的にするのかを定める必要があった。プロジェクトの意義を「町民みんなの未来につながる」こととし、今回のAMAFESでも大切にしたという。

「コロナ禍で減ってしまった島民の交流を復活させることができるし、神楽や民謡などの伝統芸能を受け継ぐきっかけにもなる。地域のイベントと一緒にやることで一体感を生み出せるし、島外からの観光客も呼ぶことができる。フェスをきっかけにして、島全体を盛り上げることができる。そういったプロジェクトの意義を、関わる人たちみんなで共有するようにしました」

写真提供=海士町役場
2023年11月に催された「ふるさとチョイス大感謝祭9」では、堀之内さんや島の高校生たちがこの取り組みについて発表を行なった。

意義を定めたら、プロジェクトの実行に向かって進むのは早かったと堀之内さんは振り返る。

「スピード感が早いんです。制度を整えようとなったら一気に進んだし、フェスの意義が伝わるのも早かった。さまざまなことがスピーディーに進められるのは、コンパクトな町ならではなのかもしれません」

実際に、企画・運営した高校生たちにとって、大きな自信になったことだろう。自分たちが動いたことで町全体が盛り上がる様を目の当たりにすれば、やりがいを感じたはずだ。

「熱量を持って取り組んだ高校生たちは本当にすごいと思います。ただ、やっぱり高校生たちだけでは全部を担うことは難しくて、支えていた大人たちがいたことも大きい。地域全体でこのフェスを開催できたと思っています」

写真提供=海士町役場

挑戦できる島として支援の幅を広げる

海士町には、ほかにもふるさと納税を活用した寄付を使っての支援として「海士町未来共創基金」がある。「島の未来につながる事業への投資・共創」を目的として2020年に設置され、ふるさと納税の年間全納額の25〜30%を活用している。

この基金への申請の条件は2つで、海士町の未来につながることと、下限500万円ということ。審査を経て、投資が決定となれば事業を開始できる。堀之内さんが所属しているAMAホールディングスでは申請のためのフォローから、投資案件の事業として成立させるまでをサポートしている。

「伴走者として一緒に町のためになることを考えています。事業として成立させなければならないぶん、ハードルは高いし大変ですが、いくつかの事業が走り出しています」

今回のクラウドファンディング型ふるさと納税の活用より先に始まったこともあり、すでにマリンボート事業やナマコの育成、牛乳生産事業と、さまざまな事業が投資を受けて動いている。この事業に限らず、申請へ手を挙げた人たちの8割が島生まれの人だった。

「海士町は島外からの移住者が多い。基金への申請はやりたいことを目指して移住してきた方たちが多いかと想像していましたが、違ったんです。島で生まれ育った人たちが、島のためにできることを考えているのは純粋にすごいことだと感じました」

写真提供=海士町役場

生まれ育った土地のことは、当たり前に近すぎて深く考える機会がない人が多いだろう。しかし、海士町では、島外からの流入があるぶん、島で生まれ育った島民は自分たちの存在意義を考えるのかもしれない。島外・島内関係なく、島を大切に思い、できることを模索していく。大人たちのそんな姿が子どもたちへ伝わらないわけがなく、くだんのAMAFESはその表れとも言えるだろう。

「クラウドファンディング型ふるさと納税は、特に金額の制限は定めていないこともあり、未来共創基金よりも挑戦への一歩が踏み出しやすいと思います。今回、仕組みが整ったことで、ふるさと納税を活用した支援の幅がすごく広がりました」

海士町のキャッチコピーが書かれた法被。

「海士町のアイデンティティは『ないものはない』です。都会のような便利なものはなくていい、大事なものはすべてある、ないならみんなで創るという意味で、この精神を大切にしている島です」

海士町では、町のビジョンとして3つの「かん」を掲げている。ひとの“還流”、暮らしの“環境”、里山里海の“循環”というものだ。クラウドファンディング型ふるさと納税や未来共創基金などの仕組みは、それらの3つの「かん」をより強固にしてくれるものになるだろう。

「挑戦したいことがあったら、どんどん手を挙げてほしい。仕組みがあるからこそできることも多いはず。挑戦する人たちが増えれば、町全体がより良くなりますから」

整えられた仕組みがあり、地域全体で後押ししてくれるのであれば、心強いに違いない。海士町の未来が、これからどう変わっていくのか楽しみな人は多いだろう。今回のAMAFESの支援金が、目標の倍以上の結果を生み出したのが、その何よりの表れなのだから。

写真提供=海士町役場

AMAFES

Photo:相馬ミナ

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