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「カッコつけていない動植物に囲まれて」瞬間に携わる通信制高校【屋久島おおぞら高等学校】

屋久島おおぞら高等学校(以下、おおぞら高校)は、現役在校生1万人を超える通信制高校。「つながる場所、つなげる場所。なりたい大人になるために。」をコンセプトに、生徒の学びをサポートしている。ICTを活かしたオンライン学習プログラムと多彩な教員のサポート、そして屋久島で実施されるスクーリングが特色だ。2021年には校長に脳科学者の茂木健一郎氏が就任するなど話題性も高い。おおぞら高校副校長の菊池亮平さんに、屋久島スクーリングで生徒たちがどんな成長を遂げるのか伺った。

生徒の五感が刺激される屋久島スクーリング

屋久島で開催されるスクーリングでは、『人』『自然』『社会』『世界』をテーマに、ここでしか得られない学びを深めることができる。新卒採用としておおぞら高校に入職した菊池さんに、屋久島が持つエネルギーを聞いてみた。

「屋久島の自然って、本当にあるがままでそのままの形をしていると思うんです。天気でいうと、晴れが続いたと思うとそれをチャラにするぐらいの雨が降ります(笑)。そういう環境で生きる動植物たちも、何もカッコつけていないんです」

スクーリングで屋久島にやってくるのは、おおぞら高校のサポート校に在籍する生徒たちが多いという。普段の日常を離れ、離島の自然を目の当たりにした生徒たちはどんなリアクションをするのだろう。

「初めて屋久島に来る生徒は楽しみに来る子が半分、不安で来る子が半分くらいです」

通信高校では、自宅で学習する時間が長くなる。つまり同年代の生徒や先生、地域の人とのコミュニケーションに慣れていないケースもある。

「誰かと仲良くなったりつながる瞬間って、ムズムズしたりちょっと嬉しかったり、心が動く瞬間があると思うんです。スクーリングではその感覚を新鮮に味わっている様子が、生徒たちの言葉や表情から感じられます」

「最初は声が小さかったり、しゃべらなかったりした子がすごく話すようになることがあります。『こんなに人と仲良くなれると思っていなかった』と話す生徒もいました。本校の校長でもある脳科学者の茂木が、五感を使わなくてはいけないと語っています。しかし五感を使っていることに気づいてない人が多い。屋久島でなら普通に生きているだけで五感をフルに使えます。これは屋久島の環境がなせる技です」

成長途中の真っ只中にいる生徒たちに、スクーリングによってこんな変化が起きることも。

「生徒たちは、スマホをまず離さないですよね。僕らは手放してほしいんですけど、彼らの世代はデジタルとのつながりがテンプレ。インターネット上では気軽にいいねしたりフォローしたり、つながりを切ることもカジュアルにできますけど、『本当の意味で人とつながるって、こういうことなんだ』というようなことを自分の言葉で語れるようになる子もいます」

生徒と教員が一緒にチャレンジし成長する

新卒でおおぞら高校で働き始めた菊池さん。2011年3月まで屋久島で働き、その後は全国のサポート校へ出向。各地を回って経験を積み、2019年に屋久島に帰ってきた。

「出身は北海道なのでほぼ真逆に来ました(笑)。大学は東京に出て保健体育の教員免許を取得し、公立の教員を目指していましたが、教員採用試験に落ちまして。どうしようかと新聞を見ていたら、おおぞら高校の求人広告があって面白そうだなと思ったんですよ」

菊池さんが特に心惹かれたのが、スクーリングに参加した生徒による「振り返りレポート」。開校以来実施している活動なのだという。

「振り返りレポートは、スクーリングに参加した生徒が最終日に書くレポートです。その抜粋がホームページ上に載っていました。スクーリングに参加したことで価値観がひっくり返ったという言葉や、今まで命に向き合うことなく自分の命もどうでもいいやと思って人生を送ってきたけれど、スクーリングに参加して全てに色がついたという言葉、人の命も自然の命も自分の命もすごく大切に思えたという生徒の言葉を読みました」

「こんな学校があるのかと驚いたんです。少なくとも僕が過ごしてきた学校はそういう世界じゃなかった」

若かりし菊池さんがおおぞら高校に引き寄せられたように、在校する教員もエネルギッシュだという。

「全員キャラが濃いんですよ(笑)。平均年齢が28歳で若いですね。おおぞら高校の先生は全員、教員免許を持っています。教科の幅が多岐に渡りますし、いろいろな引き出しがあります。知的好奇心が旺盛だなと思いますね」

全員が学校運営に対してチャレンジングな姿勢を持っています。 苦戦もたくさんしますが、乗り越えた時に自分の成長を感じやすいと思います」

通信高校から世界へ、広がる生徒たちの未来

学びのあり方が多様化する中、おおぞら高校の生徒たちはどのような未来に進んでいくのだろう。

「進学が一番多いです。就職や留学する生徒もいます。在校3年間のうちに1回は留学にチャレンジしてほしいと思っています。コロナ禍明けの2024年度も、約600名の生徒が留学を経験しているんですよ」

自宅でのオンライン学習でも勉強を進められるのが通信高校のメリットのひとつ。それでも生徒たちが留学にチャレンジするのには理由がある。

「なりたい大人になる、というのがおおぞら高校のコンセプトですが、なりたい大人って何なのか、みらいを描くことが大切です。それにはたくさんの人と会ったり、異なる環境で違う価値観や文化に触れたり、多くのことを経験しておいた方がいい。留学もその経験のひとつです。屋久島のスクーリングもそうした経験になると思いますよ」

菊池さんが思う、おおぞら高校のユニークな点は「直接的でリアルな体験ができること」。これは学校創設の理念にも重なるのだとか。

「屋久島に学校を創設する中で、子どもたちに一生に一度は見てほしい景色があること、何かを介して見るというよりも、自分の目や手、さまざまな感覚で味わってほしいという想いがあるということを聞いています。屋久島で直接的な体験をできる取り組みを全国的なスケール感で実施しているのは、本校のオリジナリティかなと考えています。その中で、直観力や共感力を磨いていくこと。そんな教育を私たちはセンバス教育と呼んでいます」(※センバスとはラテン語の【SENSUS感覚】と【VIVUS生活】からとった造語で、生きる実感と意味づけている

自然と共生する中で、より深く充実した教育を

おおぞら高校の在校生は1万名を超える。実に多くの生徒たちが通信高校というスタイルで学び、将来を描いているのだ。

「僕たちは教育で世界を変えたいという想いがあり、そのためには社会に対する発信力が必要であると考えています。これからはますます教育の質の部分にこだわっていきたいですね」

今まで以上に質を重視するステージに進んだおおぞら高校。2025年のオープンに向けて、新校舎建設も進行中だ。デザイン設計したのは建築家の隅研吾氏。屋久島に溶け込む校舎を目指し、生徒たちの学びの空間充実にも力を入れている。

「屋久島は魅力がある地域で、人と自然のどちらかがマウントを取っているような関係ではなく、共生で成り立っています。それこそ持続可能な関係ですよね。どちらかがもたれかかっている関係はバランスが崩れやすいですし、人間が本来生きていく環境って、こういう自然の中なのではないでしょうか」

「自然環境もそうだと言われています。人の手が入った方が森が生き生きするように、人が共生して住むことでバランスが取れるところもあると思うんです。屋久島からすると放っておいてくれと言っているのかもしれないのですが」

おおぞら高校ではさらなる教育の充実を目指し、屋久島との関係性づくりという夢を描いている。

「共生という意味での課題は、人力の喪失が起きる可能性だと思います。ですから、おおぞら高校が人と自然とのハブになるような、つながりを作る一助になれたらいいですよね」

五感が刺激され、価値観が変わるような体験ができる屋久島スクーリング。かけがえのない体験や仲間と過ごした時間は、きっと生徒たちの力になる。おおぞら高校の卒業生がどんな未来を描くのか、先生たちも楽しみでならないようだった。

屋久島おおぞら高等学校

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