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鬼瓦を楽しく!理系鬼師のユーモアあふれる伝統への挑戦【株式会社鬼福】

三州と呼ばれる愛知県の西三河地方。日本における瓦の三大産地のひとつとして知られています。その三州に位置する愛知県碧南市に、個性的な鬼瓦を次々と生み出す創業100余年の鬼瓦メーカーがあります。

にっこり笑った鬼の鼻から飛び出したティッシュペーパー。鬼瓦と同じ製法で作られた、この前代未聞の個性的なティッシュケースを生み出したのは、愛知県碧南市で創業100余年の鬼瓦の窯元、株式会社鬼福の鈴木良さん。鬼師と呼ばれる鬼瓦職人です。「伝統×ユーモア」で個性的な商品開発を続ける鬼師の挑戦に迫りました。

個性豊かな鬼瓦ワールド

鬼瓦といえば、日本式建物の屋根に設置されている、鬼の形相をした瓦。その恐ろしい表情とは裏腹に、住む人の幸せを願う厄除けとして日本の暮らしを守ってきました。

本来は屋根にいるはずの鬼瓦を、ティッシュボックスとして地上に降り立たせたのは、株式会社鬼福の鈴木さん。愛知県碧南市に代々続く窯元の4代目です。

鈴木さんが生み出す鬼瓦製品は、どれもとても個性的。

音の反響を抑え、集合住宅でも使いやすい「鬼瓦の静かな風鈴」。

節分に行う豆まきの新しい方法を考え、豆を撒くのではなく、キュートな笑顔の鬼瓦に豆を食べてもらう「鬼は福」。どれも愛嬌のある鬼瓦ですが、全て鬼師と呼ばれる鬼瓦職人によって手作業で作られた本格派です。

「人々の幸せを願う」という鬼瓦に込められた想いを、鈴木さんは柔軟な発想で現代のライフスタイルに合う形で世に送り出しています。

「伝統を絶やしたくない」理系大学から鬼師への道を決めた想い

鬼瓦を作る窯元の4代目として生まれた鈴木さんですが、もともと家業を継ぐことは考えておらず、理系の大学に進学していました。

しかし、今後の進路を考えたときに思い出したのは、幼少の頃から親しんできた鬼福の工房でした。土壁や土床のほのかな匂い。リズムよく回る土練機や、職人さんが粘土を叩く音。そんなモノづくりの原風景を無くしたくないと強く思い、鈴木さんは鬼福を継ぐ決意をしました。

「母親のおなかの中にいる頃から工房には通っていました。もはや刷り込みに近いですね」

そう言って笑う鈴木さんには、鬼師としての誇りが感じられました。

大学進学後、鬼師として修行を始めた鈴木さん。技術を磨く日々の中、鬼瓦の需要が減ってきていることに危機感も感じていました。

屋根材はもちろん大切だが、それだけでは立ちゆかなくなってしまう。そう感じた鈴木さんは、受け継がれてきた伝統と技術を守るため、新しいことに挑戦していきました。その挑戦のひとつが、冒頭でご紹介した鬼瓦ティッシュケースです。試作品を作り鬼福のSNSで紹介したところ反応が良かったので、クラウドファンディングで商品化の支援を募ったところ、なんと目標の1990%となる大反響を受けたのです。

ちなみにこちらのティッシュボックス、試作段階では4kgの重量があったそうです。工夫を重ねて軽量化に成功しました。

他にも、屋根材以外の用途を探して庭師さんに飛び込みで営業をしたことで協働するチャンスを得たり、伝統的工芸品産業振興協会で応募されていたプロジェクトに応募し、フランスの展示会に参加するなど、数々の挑戦を続けてきました。

その結果、鬼福で取り扱う屋根材以外の鬼瓦の需要は増えていき、2年前には屋根材の需要を超えたそうです。

うまくいかなかったことも多かった、と鈴木さんは言います。しかし、諦めずに果敢に挑戦を続けたことで、鬼瓦の新たな道を切り開いていったのではないでしょうか。

難しいことを簡単に、簡単なことを面白く

鬼瓦といえば屋根材という常識を超え、ユニークな商品を次々と生み出す鈴木さん。そんな鈴木さんの心に残っている言葉があるといいます。

それは、大学在学中に教授から言われた一言。

「難しいことを簡単に、簡単なことを面白く伝えなさい。そうしないと誰にも伝わらない。」

鬼瓦の職人といえば、とっつきにくく固いイメージを持たれるといいます。鬼瓦や職人をさらに身近に感じてもらうため、鈴木さんはこの言葉を胸に刻んでいました。

今後は更なる挑戦として、鬼師によるデザインや、鬼瓦が持つ意味そのものをコンテンツ化していきたい、と鈴木さんは言います。

新しい道を走り続けるその力の源には、業界や地域に対する想いがありました。

「生まれる前からこの地域と業界にご飯を食べさせてきてもらいました。地域や業界が発展することに何とか貢献したいと思っています。」

屋根材としての鬼瓦を超え、瓦としての鬼瓦も超えようとしている。鈴木さんのこれからの挑戦に目が離せません。

(文:小笠原華純)

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