
お寺の「おそなえ」を「おすそわけ」へ。ひとり親家庭を支える「一人じゃない」の気持ち
日本の子どもの7人に一人は貧困状態にあります。(日本財団調べ)
コロナ禍で経済的に困窮しているひとり親家庭は、ますます苦しい状況に。そんな状況を改善すべくNPO法人おてらおやつクラブは、奈良県田原本町と連携してひとり親家庭の支援を開始しました。
お寺に寄せられるさまざまな「おそなえ」を、仏さまからの「おさがり」として頂戴し、経済的に困難な状況にある家庭へ「おすそわけ」する活動です。
「おすそわけ」活動のスタート
おてらおやつクラブが活動をスタートしたのは2013年。母子が餓死状態で発見される事件が起こったのがきっかけです。この豊かな日本で餓死なんて…。子どもの貧困が大きな社会問題となっていることを代表の松島靖朗さんは痛感したそうです。
お寺にはたくさんの「おそなえ」が寄せられます。ときには頭を悩ませるほど、多くの食べ物が集まります。そんなお寺の「ある」と、社会の「ない」をつなげることで、どちらの課題も解決しようと「おすそわけ」活動がスタートしました。
おてらおやつクラブには日々「助けて」の声が届いています。
支援世帯数は、2019年度は350世帯ほどでしたが、2021年度は5,500世帯を超えており、コロナ禍で15倍に膨れ上がっています。支援家庭の多くはひとり親で、公的支援を受けられていなかったり、支援団体とのつながりも希薄な方が多いそうです。
関わってくれた人がいることを感じられる心遣い
私自身、実際に作業をお手伝いさせていただいてわかったこと。それは、「ただ物資を送っているだけの作業じゃない」ということです。
必要性の高いお米は必ず入れることや、一つでも多くの食べ物を届けるために詰め方を工夫していることはもちろん。それだけでなく「自分のために丁寧に入れてくれたんだ」と感じてもらえるように、商品パッケージを必ず上向きに入れるようにしています。
苦しいとき、人は孤独になります。誰にも相談できずに、公的支援を受けられない人もいます。そんな人たちに、人が関わっている温度感も一緒に届けています。自分のために動いてくれた人がいるんだ、と少しでも明るい気持ちになってくれたら。そう願って作業しているといいます。
最後に、一人一人に対して、手紙を書きました。
「食べ物を囲んで、ホッと一息ついて、楽しい時間を過ごしてくださいね」
そんな想いが込められた手紙を、初めての方には同封しています。
決して一人ではない。困ったときは支えてくれる人がいることを、「おすそわけ」を通して伝えているのです。
町と連携して「助けて」の声に応える
2020年7月、田原本町とおてらおやつクラブは、「ひとり親家庭への支援に関する協定」を締結しました。
生活に本当に困ったとき、支援の手が欲しくても、役場にはなかなか「助けて」の声をあげにくい現状があります。担当の方が顔見知りだったり、窓口での人目を気にしてしまったり、制度をよく知らなかったりと、理由は様々あります。
そこで、田原本町役場の子ども子育て担当窓口に、おてらおやつクラブの活動を紹介するリーフレットや、ひとり親の方が支援を求められる窓口であるLINE公式アカウントのQRコードが載ったカードを配置することにしました。役場には伝えにくくとも、お寺にだったら伝えられる。ようやく言えた「助けて」の声をもとに、支援の物資を即時届けています。
また、おてらおやつクラブからは、支援者に公的支援の情報を届けることで、行政につなげる流れを作っています。
それぞれにしかできない役割があり、連携することでより効果的な支援につながっています。
心のつながりをつくる「おすそわけ」

おすそわけ活動に参加したボランティアの中には、「こんな活動に関わらせてくれてありがとう」と逆に感謝する人がいるといいます。
自分もほんの少しだけしかお手伝いできていませんが、困っている方のために少しでも役に立てた気持ちになりました。
受け取った方の中にも、仕事が無事に見つかり、支援を受ける側から卒業し、今度は支援者として寄付をしている方もいるのだそうです。
ただモノを届けるのではなく、「一人じゃないよ」というメッセージも伝えることで、たくさんの人の心をつなげている「おすそわけ」。
支援先からは、こんな言葉が届いています。
50代のお⺟さん、⼥児1⼈
30代のお⺟さん、⼥児2⼈
40代のお⺟さん、⼥児1⼈
2021年には、田原本町とおてらおやつクラブが連携し、ふるさと納税型クラウドファンディングである「ガバメントクラウドファンディング」に挑戦し、700万円以上の寄付が集まりました。
「一人じゃないよ」という言葉のとおり、多くの人たちに支えられ、「おすそわけ」が全国に広がってきています。
(文:佐近航)