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珍しいメロン室内水耕栽培で 「障がい者も挑戦しやすい農業を」【ピーエルジェイインターナショナル】

異なる個性を持つ一人ひとりが共に心地よく生きる社会にするためには、どのような仕掛けが必要だろうか。障がいのある方の自立支援と居場所づくりに取り組んできた奈良県大和高田市に拠点を構える「ピーエルジェイインターナショナル」。代表の増田清(ますだきよし)さんは、大手アパレルブランドニットのOEM商品を製造する繊維事業と、就労継続支援B型事業所の運営を行う福祉事業に取り組んできた。2022年6月には障がいがある方の就労継続の場を確立するためのクラウドファンディングに挑戦。全国でも珍しいメロンの室内水耕栽培をスタートした。安全で働きやすい次世代型の農業を通じて、障がい者の居場所づくりに励む。

与られた仕事をする場から自立を促す場づくりへ

口の中で一気に広がる甘い香りとあふれる果汁。そのメロンの背景にあるのは、誰もが自立して生きる社会を志す、1人の挑戦者の姿があった。奈良県大和高田市で就労継続支援B型事業所を営む「ピーエルジェイインターナショナル」の増田代表だ。誰もが幸せに生きるためには経済的自立が不可欠だと感じる一方で、個性や能力もさまざまな就労継続支援B型事業所で請け負える仕事は、単価の安い内職がほとんど。一人当たりの月収に換算すれば1万2000円程度で、働き続けることすら難しいという障がい者雇用の現実に直面した。

そうしたジレンマを抱えながらも、一人ひとりの中にある「頑張りたい。踏み出したい。動き出したい」という前向きな気持ちに寄り添ってきた増田さん。しかし、コロナ禍で内職の仕事が激減。それが新たな事業に踏み出すきっかけになったという。「与えられた労働をこなすだけでなく、できることを最大限に生かす環境づくりから始めないと何も変わらない」。そう覚悟を決めた増田さんは、2022年の6月に障がいがある方の継続的雇用と自立支援を目的とした新規プロジェクトを立ち上げのため、クラウドファウンディングに挑戦。全国的にも珍しいメロンの室内水耕栽培事業をスタートした。

安全・快適な環境で育む「室内水耕栽培のメロン」

室内水耕栽培の最大のメリットは、通常の露地栽培やビニールハウスでは叶わなかった安定した環境下で作業に取り組むことができる点だ。「障がいによっては体温調節がうまくできないため、暑さ・寒さにも敏感です。常に25℃前後に温度管理された室内環境の作業なら身体的負担が軽くなるほか、集中して作業に取り組むことができます」と安堵の表情を見せる増田さん。目指すのは、障がいの特性や社会情勢の影響を受けにくい収益事業。安定した収益の確保と、利用者への継続的な就労環境の提供、そして全国平均以上の作業工賃を支給し、利用者の生活を支えていくことだ。

「メロンを育てる過程が楽しいっていうチームもいれば、以前のままの内職がいいというチームもいて好みもさまざまです。いくら快適な温度設定にしていても暑いとそっぽ向いている子もいます」と笑う増田さん。「それでもメロンの花が咲いたり、蔦が伸びたり、実がなったり。作物の成長を見て少しずつでも喜びややりがいを感じてもらえれば」

繊維事業のノウハウを生かし無農薬栽培向けの資材を開発

会社設立当時から続けてきた繊維事業の知識と技術を活かした東京農工大学との共同研究では、減農薬・無農薬栽培に向けた商品開発にも力を注ぐ。特殊な銅繊維を使った「通せんぼシート(ハダニ行動抑制シート)」は、超極細・高純度の銅線を編み込んだ繊維が果樹や野菜の葉に付くハダニの行動を抑制するというもの。

「これまで繊維事業ではニット製品のOEMを請け負ってきましたが、国産のニットが激減する中で既存の編みの技術と場所を活かしてできることはないか?と東京農工大学との協業で農業資材の開発を始めました。それはがきっかけで農業に注目するようになったんです」と増田さん。開発した商品は、現場で使用感を確かめながらブラッシュアップを図っているという。

メロンの6次産業化で地域の魅力を創出

行政や教育、介護の現場からの視察も後を断たない。養護学校や高齢者施設で室内水耕栽培のビジネスモデル構築の支援も行う。

「メロンを作ってくれる仲間が増えれば、その仲間たちが収穫したメロンを私たちが買い取って、販売・加工を代行できます。食料自給率が低下する中、室内水耕栽培によってこれまでの農業につきまとう汚れる、きついというイメージが払拭されて、1人でも生産者人口が増えたらいいなと思っています」

近年は、就労継続支援B型事業所では珍しいインターンシップの受け入れも行うほか、規格外メロンの6次産業化に向けて奈良県立磯城野高校フードデザイン科・パティシエコースの生徒たちとのレシピ開発するなど、地域への広がりを見せている。

「まだ2回目の収穫を終えたばかりのメロンですが、将来的にはここで収穫したメロンや室内水耕栽培そのものが大和高田市の特産品となり、観光資源の一つになれたら」とその胸の内を口にする増田さん。

食料自給率UP⁉︎ 誰もが参画できる農業を

夏場は50度近くまで気温が上昇するビニールハウスと比べれば、体への負荷はかなり軽減される室内水耕栽培。それは、障がいの有無に関わらず、誰にとっても働きやすい環境になるはずだ。

「将来的には米づくりに挑戦したいと思っています。大袈裟かもしれないけど、東京ドームが農地になるとしたら?と想像を広げています」と増田さん。元々あった農地に加えて、室内空間も農地になりうるとしたら。障がいのある人や高齢者、あらゆる人が参画できる農業が叶うとしたら日本の社会は変わるかもしれない、そう本気で思えてくる。

「環境的なハードルが下がり、農業用地や農業に注目する人も増えれば、国内の食糧自給率はもっと上がるはずです。今はまだ農業って我慢しながらやるものかもしれませんが、技術とアイディアでもう少し働きやすくできないかな、と常に考えています」

日本ではほとんど例がないというメロンの室内水耕栽培。可能性に満ちた増田さんの取り組みは、地域を巻き込みながら“農業”の裾野を着実に広げている。

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