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「ゆるキャラ活用で寄付額1000倍」 日本一バズる公務員?その覚悟とは【パンクチュアル】

SNSが欠かせなくなった今、「ネット上でどうバズらせるか?」という視点は地域おこしでも重視されている。そんな“バズり”の効果を駆使して、人口約2万人の小さな町に革命を起こしたのが守時健さんだ。高知県須崎市の市役所に務め、須崎市のゆるキャラ「しんじょう君」をプロデュースし、Twitterのフォロワー数を12万超に伸ばしている。さらに、しんじょう君によるSNS発信で、当初200万円しかなかったふるさと納税寄附額を約1000倍に増やすことに成功。2022年5月には地域おこしでバズるノウハウをまとめた著書『日本一バスる公務員』(扶桑社)も上梓した。現在は起業し、新たな関わり方で地域を支えている。地域おこしへの想いや、現在力を入れているという「地域商社」について、株式会社パンクチュアル代表の守時健さんに話を聞いた。

経済破綻寸前の町が21億円を稼ぎだすまで

高知県須崎市のふるさと納税の寄付総額は、2020年が21億、2021年は19億円。人口およそ2万2千人の町に対してかなり大きな金額だが、魅力的な返礼品を見れば納得。伊勢海老や鯛やカンパチ、カツオ等の水揚げされる魚種は全国トップクラスで、黒潮の影響を受けるため柑橘類、野菜も絶品なのだそう。しかし意外にも10年前の寄付額は「200万円しか集まらなかった」と、須崎市のふるさと納税やしんじょう君の運営を一任されてきた守時さんは言う。

守時さんが須崎市に移住し、須崎市役所企画課で働き始めたのは2012年のこと。「須崎には何もない」と地元民が口を揃えて嘆くように、「全国紙はおろか、高知新聞に須崎が載ることはほとんどなかった」のだという。

当時は市の財政も振るわず、全国ワースト5を記録。地域全体に諦めモードが漂う環境のなか、都市を発展させるために守時さんが注目したのが「情報発信」だった。 Webマーケティングを独学で習得し、独自のメソッドを見出していくが、市のPRに須崎市のゆるキャラ「しんじょう君」を活用したことがターニングポイントになる。

当初は地元でも知られていなかったしんじょう君だが、積極的な情報発信のおかげで2014年には須崎市で「第1回ご当地キャラまつり」を開催するまでに認知を獲得。2日間でのべ5万人の集客を達成した。勢いに乗り、2016年には、全国各地のゆるキャラが投票で人気を競う「ゆるキャラグランプリ」では堂々1位に輝いた。

2015年に始めたふるさと納税事業も、しんじょう君がSNSで情報発信することで「いいね!」やリツイート数を増やしていった。前出の2016年(ゆるキャラグランプリ1位)には寄付金総額は10億円弱にまで成長し、2020年度には21億円を記録。ゆるキャラがふるさと納税とかけ合わさり、お互いにスケールしていったのだ。

ゆるキャラ成功のカギは「PRしない」こと

そもそもゆるキャラというと、地域や商品のPRをするイメージが強いが、しんじょう君が独特なのは「PRしない」ところ。イベントでも町をPRするそぶりは見せず、むしろ元気ない・やる気ないスタンス。にも関わらず、時々突拍子もないチャレンジをすることがあり、はたから見ると結構シュールだ。

時にはイベントに顔だけ出して「今日は早く帰りたいのでもう帰ります」と言ってステージを降りたり、また時には突然大阪のクラブでDJパフォーマンスを披露する動画や海岸線を自転車で疾走する動画を投稿したり……。かなりの個性派だが、独特な世界観の根底にあるのは「ファンファーストの考え方」だと守時さんは言う。

「SNS上でも特産品を推しまくったりしません。PRの代わりにひたすら“ゆるキャラが全力で楽しんでいる様子”を発信し続け、ファンを楽しませることを最優先にしています。今でこそ“やる気のない”キャラは増えましたが、当時はまだまだ稀少で。こうした言動やストーリー仕立ての情報・動画発信で、『しんじょう君ってなんか面白い』と面白がってくださるファンが増えていきました」

守時さんはしんじょう君の「お付きの人」として、しんじょう君の独特な世界観を確立させていき、ファンとも積極的な交流を続けた。現在twitterのフォロワー数は12万人、YOUTUBEのフォロワー数は3万2千人超だが、その裏側にはこうした地道な努力がある。

大切なのは当事者性をもたせること

そんな守時さんは2020年に須崎市役所を退職し、起業。引き続きしんじょう君やふるさと納税の運営を自社で行っている。ふるさと納税で培ったECの手法を生かし、2020年にはしんじょう君が店長を務める産直オンライン市場「高知かわうそ市場」を立ち上げ、年間で8億5000万の売り上げを達成した。

また須崎市以外にも、現在は7カ所の他自治体のふるさと納税やキャラクター事業、ECサイトの運営なども委託で行なっており、その全市町村の売り上げが2倍以上に増えている。こうした地域PRやECの世界は、トレンドが日々変わっていく。多数の自治体に関われば、多様な事例について実践的に学べる上、他の自治体で生かすこともできる。その意味でも、地域商社を多拠点で展開するメリットは大きい。そしてもう一つ地域商社で重視しているのは「当事者性」だと言う。

「その自治体に営業所を設けて担当スタッフにもそこを拠点にしてもらう。すると、展開のスピード感も結果も何倍にも膨らむ。スタッフが地域住人として自分事になれるからです。任期も特に決めません。地方には人材も不足しているので、県外のコンサル業者が短期プロジェクトとして町おこしを行うことは多いですが、そこまでの責任感は生まれにくい。外の人が“地域に伴走する”のではなく、外の目線をもつ人が“地域の人としてやる”ことが大事です。こうしたやり方を僕たちは地域商社と呼んでいて、今後は各地で増えていくと思います」

2020年に実施した「#20万匹の名無しのかんぱちに名前を」キャンペーンも、そんな当事者性をキーに生まれたアイデアだ。「コロナ禍で販路を失い20万匹の高級カンパチが行き場を失っている」と須崎市野見湾の養殖業者からパンクチュアルは相談をもちかけられた。高級カンパチをECサイト(高知かわうそ市場)で特価販売するだけでは話題になりにくい。そこで、それまでなかったブランド名を一般公募してブランド化することに。この時のしんじょう君のツイートは3,5万リツイートに3,7万「いいね!」がつき、その結果、カンパチを1年で2億売り上げることができた。

地域おこしは失敗例を見よ

日々、各地の取り組みを分析している守時さん。地方創生や町おこしの難しい部分はどこか訊ねると、「何が成功か分かりにくいところ」との答え。

「例えば、100万円かけて200人集まるイベントを開始するとします。東京なら100%失敗ですが、数十人の限界集落であれば大成功と言うこともできる。何が成功かを決めるのはそこの住人と、見方によって変わるからです。なので、成功か?失敗か?と言う二元論や数字に惑わされずに、一つの事例を多面的に見るようにしています」

また、地方創生については「成功例しか取り上げられない」こともその難しさを助長しているという。どういうことだろう?

「地域おこしには税金が使われていることが多いので、失敗したとしてもストレートにはそう取り上げられません。もちろん税金なので慎重にやるべきとは思いますが、とはいえ失敗しなければ成功は生まれませんし、その失敗例を発信することで知識の共有になります。これからの自治体運営というのは、企業のようにどんどん投資してチャレンジする姿勢が求められると思います」

守時さんが本書で自分の失敗例を紹介しているのもそんな想いから。今後も、そうした知見を他自治体とも共有しながら、行政や自治体とともにチャレンジを続けていく。今後、会社として目指すのはどんな未来なのか。

「日本の地方のほとんどは今後も大きな伸び代があり、やりがいを感じやすいです。必要としている人に必要とされる情報を届けられれば、地域のファンは必ず増えます。やはり着手しやすい入口としてふるさと納税には最優先で注力しながら、どんどんその町の魅力を発信して世界と戦える日本の地方を作っていきたいです」

Photo:石川拓也

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