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「作家は地域にとって“世界への扉”」綺麗事ではないアートの文化維持

瀬戸内国際芸術祭をはじめ多彩なアートとの接点が多い香川県。そのなかでユニークな取り組みをしているのが、丸亀市にある400年近い歴史を誇る大名庭園「中津万象園」(なかづばんしょうえん)と併設の「丸亀美術館」だ。ふるさとチョイス主催の「Power Of Choice project」では同園での美術展企画が支援プロジェクトに採択。支援の下、県内の企業所有のアートを一堂に集めた『Dialogue via Arts―アートが繋げること展―』が現在開催中だ(〜2023年3/5まで)。一体なぜ大名庭園で美術展を開くのか? その想いについて、プロジェクトの発起人である(公財)中津万象園保勝会の真鍋有紀子さんに話を聞いた。

アートの地に根付いた企業と作家の深い関係

中津万象園は1688年に丸亀藩主・京極高豊(きょうごく たかとよ)によって造られた、回遊式の大名庭園。5ヘクタールの広大な敷地には、京極氏の故郷、近江国の琵琶湖をかたどった八景池に近江八景になぞらえた小島が浮かび、朱塗りの「邀月橋」や国内最古の煎茶席である「観潮楼」、樹齢推定600年の「大傘松」、また稲荷神社などが点在する。これらを点々と移動しながら、庭全体を使ってゲストをもてなす社交の場として使われていた。現在は、丸亀美術館や庭園を望む食事処も併設している。

現存する大名庭園の大半を行政が管理するなか、同園は香川を拠点にする建設会社「富士建設(株)」が所有。中津万象園保勝会も富士建設からの寄附を軸とした公益財団法人で、真鍋さんは富士建設の代表でもある。

今回の展示では、丸亀美術館に香川の地元企業24社+1団体が所有する(取り組む)アートがそれぞれのエピソードと共に展示される。例えば香川を代表する和菓子店「名物かまど」からは創業直後から付き合いのあった画家・和田邦坊(わだ くにぼう)氏や片岡鶴太郎氏の版画作品を、また「四国化成工業」からは自社の50周年の際に洋画家・大藪雅孝(おおやぶ まさたか)氏に製作してもらったという巨大な屏風絵が出品された。真鍋さん曰く、こうした地元企業と連携した企画は初めての試みという。

「企業の皆さんに話を聞くなかで驚いたのは、企業と作家の深い関係でした。一般的に企業がアートを所有する場合、装飾的や意味合いや文化的な投資が大きいのですが、香川では、企業と作家の人間同士の付き合いが色濃かった。例えばある企業経営者と1人の作家が幼馴染で、作家が東京に引越した後も関係は続き、企業家の息子さんが大学進学で上京した時にはその作家の家に下宿させてもらう、ということもあったそうです。企業はパトロンであり、また自由な生き方をする作家は地域にとって“世界への扉”のような役割もあったのかもしれません」

今展では、24社の参加企業が作品を無償で提供。こうした企画が成り立つのも、文化事業を行う公益財団としてだけでなく、これまで地元企業として築いてきた地域経済界との強い結びつきがあるからこそ。

「アートに投資」自信をもって言える社会に

企画展からは、アート界や作家にとって企業の存在がいかに大きいかが伝わってくる。しかし、「日本は文化への投資が評価される社会にはほど遠い」というのが真鍋さんの考えだ。

「企業が文化に投資をする土壌は、特に地域ではまだ育っていない。このままでは、万象園を含め、あらゆる地域の文化が残らないのでは、と心配です」

令和3年に文化庁の「文化経済戦略推進事業」の一環として企業に向けて実施された「文化と企業の関係性」についてのアンケート結果を、真鍋さんは例に挙げる。企業が行う文化活動に関して(例えば絵画の購入など)「文化への投資に際して課題に感じることは何か?」という問いがあった。

「『飾る場所や扱い方がわからない』という回答はともかく、最もショックだったのが『社員や取引先やステークホルダーに対して説明がつかない』という回答が多かったんです」

深い疑問を抱いた真鍋さん。調べてみると、海外では状況は違った。特にアート理解の高いフランスでは、企業の社会貢献活動に福祉や環境と同列にアートが位置づけられていた。

「日本では、企業の社会貢献活動のなかに文化への投資という選択肢がまだ少ないです。それが堂々と胸を張ってできる世の中になれば、我々の大名庭園のような場所も自ずと後世に残ると思います」

文化の維持は綺麗事ではできない

こうした文化の存続に対する危機感を、真鍋さんは万象園を維持するなか感じてきた。そこで痛感したのが、経済的基盤の必要性だ。

「文化を維持するのは綺麗事ではありません。情熱や知識だけではなんともなりません。守っていくためには、経済的な基盤から目を逸らしてはいけないんです。この10年で、民間が所有する大名庭園が2つ失われています。万象園も特定の人だけが関わっている状態だと間違いなく、無くなります」

富士建設が民間の前所有者から万象園を譲り受けたのは、今から52年前のこと。当時は荒れた状態で、当初12年は資金も知見もなく手を入れることができなかったという。庭園の維持管理にかかる費用は年間およそ4000万円というから、所有しても結局「持ちきれない」ということが起こるのだ。民間なので補助金も得られず、当初は企業の売名行為だと揶揄されることも多く、「父にも『庭園のことは言うな』と釘を刺されていました」と真鍋さんは振り返る。

2006年に企業による芸術文化を通じた社会創造の活動を表彰する「メセナアワード」を受賞したことを契機に広く評価されるようになり、固定資産税の免除や行政の協力も得られるように。社会の資産として未来に残していこう、という機運が地域で高まっていったのだ。

「庭は生き物です。コロナ禍では世間では雇用調整が行われましたが、庭師を何ヶ月も休ませたら木は伸び続け、庭は荒れてしまう。こうした庭園では、人が訪れない時も常に手を入れ続けないといけないんです」

所有ではなく「預かっている」

中津万象園を後世に残したい。強い思いのある真鍋さんだが、自社で所有し続けることは想定していないと言う。

「長い時代の流れのなかで、今は私たちが“預かっている”感覚です。誰が所有しているかはさほど重要ではなく、預かっている間に何をしてどういう形で未来に繋いでいくかが重要だと思います。そのためには、時代に合った場所の価値や地域の人にとっての役割を、預かっている間にどう作るか」

これまでも万象園では、大学教授や茶道の先生などの専門家の協力を得て、庭園の価値の発掘を行ってきた。結婚式や法事など人生の節目に訪れてほしいという思いから、飲食店にも力を入れている。

「地域の人の暮らしに根付いていくことで、残っていく場所になる。胸を張って後世の人に手渡せるように。これからも庭園を通じて、地域との様々な接点を増やしていきます」

※丸亀美術館は「パワー・オブ・プロジェクト」支援対象事業者です。

写真:宮脇慎太郎

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