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「犬の殺処分数全国ワースト1位」にショックを受けた子どもたちによる動物愛護団体。原動力は命の尊さ【ワンニャンピースマイル】

SNSやYouTubeなどのデジタルツールが発展し、年齢問わず誰もが発信力をもてる今。香川県を拠点に活動する子ども主体の学生愛護団体「ワンニャンピースマイル」は、その影響力の大きさを感じさせる良い例だ。およそ7年前に1人の小学生が始めた活動は共感を呼び、今では全国6拠点・30名以上のメンバーを有するほどに、活動は全国に広がりつつある。メンバーの大半は小中高生のため、活動を行うのは放課後や休日。また、活動に必要な資金は寄付を募る。一体彼らをそこまで突き動かすのは何か? 子どもたちの想いが届くとき、地域はどう変わる? 現在高校2年生の代表・鈴木愛葉さん(写真中央)と、団体の理事を務める母の葉子さんに話を聞いた。

学生主体の動物愛護団体

「ワンニャンピースマイル」は香川を拠点に、岡山、広島、神奈川、茨城、東京の全国6拠点で活動する動物愛護団体。学生主体だが大半のメンバーが親子で活動する。メインの活動は、飼い主のいない犬・猫の里親探しや里親が見つかるまでの預かりだ。

例えば香川県の場合、犬・猫の譲渡や動物愛護啓発を行っている「さぬき動物愛護センター しっぽの森」(写真下)から犬や猫を引き出し、メンバーのもとでお世話をしながら里親を探す。また団体のSNSでは、センターに収容されている犬・猫の情報発信も行っている。さらに、メンバー宅に空きがあれば、団体に寄せられる相談に応じて、屋外で捕獲、保護された犬・猫の預かりも行っている。これら日々のお世話や預かりに加えて、里親を募るための犬猫の譲渡会を不定期に開催する。

これら活動の土台になっているのが、命の尊さを伝える啓蒙や募金活動だ。街頭で寄付金を募ったり、制作したポスターを配布したり、ラジオ番組での活動報告などがこれに当たる。

写真提供:ワンニャンピースマイル

近年増えているのは、県内の事業者とのコラボレーションという。その多くが、彼らの活動を知った事業者から「応援したい!」との声が多く寄せられ始まったものだ。ペットと泊まれる宿泊施設やペットと行ける居酒屋など親和性の高い事業者との連携をはじめ、自動販売機メーカーとは動物愛護を啓蒙する「動物愛護寄付型自動販売機(写真上)」を香川県内5箇所(2023年3月現在)に設置し、電力会社とは「ワンニャンピースマイルでんき」を作り電力を供給している。どのサービスも、売上の一部が団体に寄付される仕組みだ。

小学4年生を動かしたのは、香川県の実情

発足のきっかけは、愛葉さんが小学4年生の頃まで話は遡る。自宅で飼っていた愛犬が亡くなり悲しみにくれていた時、愛葉さんは香川県の犬の殺処分が4年連続全国ワースト1位、という事実を知る。いてもたってもいられなくなった愛葉さんは「犬や猫を助けたい!」という想いで動物愛護を訴えるポスターを作り近所の家や店に配り、犬猫が殺処分される保健所の見学にも行った。

「ペットは可愛いだけでは飼えません、といった内容のポスターを友達と一緒に作って配っていたんです。私も後から知って、驚きました。その後しばらくしてから、外で保護した野良猫をうちで飼い始めました」(葉子さん)

賛同する友人たちとそんな活動を続けて2年ほど経った後、愛葉さんは市民団体という形で「ワンニャンピースマイル」を設立。この団体発足までの経緯を原作に、愛葉さんと葉子さんは絵本『愛犬シルバーが教えてくれた命の大切さ』を刊行。初版の800部を3か月で完売し、その後幾度か増刷もされている。動物や社会に対する純粋な子どもの想いが詰まった内容は反響を呼び、絵本は彼らの活動を知る大きな入口になっている。

香川県の殺処分数は年々改善

2023年3月に公開された令和3年度の統計では、香川県の犬の殺処分数は全国ワースト2位、猫は27位にまでその数は減った。団体発足から約5年、葉子さんは言う。

「協力してくださるボランティアスタッフさんが増え、保健所に入る前の猫を保護して預かってくださることも多くなりました。こうした人々の理解と地道な取り組みが数字にも現れているのだと思います」

一方で、新たな課題が生まれていると葉子さんは続ける。

「活動の認知は広がったのはよいことですが、その反面、犬猫を預かってほしいという問い合わせも年々増えていて、メンバー宅で預かりできる頭数が間に合っていない状況です。コロナ禍では、犬・猫の譲渡会をはじめとするイベントが開催できなかったり、里親希望者と預かりさんがなかなか対面できない期間が続いたので、里親探しが長らくペースダウンしていたことも大きな理由です」

頭数が増えれば、その分フード代や医療費などの資金もかかる。特にお金がかかるのは、生後2か月以下の野良猫・犬を保護した場合だ。動物愛護法では、ペットの販売・譲渡ができるのは生後2か月以降、かつワクチンやノミダニ駆除などの規定の処置を行ってから販売・譲渡することが定められているためだ。もちろん、動物愛護センターのような公的な施設で譲渡される犬・猫も同じ条件だが、これらの資金や手間を市民団体が賄うハードルは高い。

ペットが子どものハードルを下げる

子ども主体の団体ということで聞いてみたかったのは、子ども自身の変化について。国内外の獣医や学者、行政の方々、近所の事業者、また取材や調査に来る大学生やボランティア体験に訪れる高校生など。活動開始から7年間、様々な方との関わりを経て、メンバーの成長をこれまでに何度も感じてきたと葉子さんは言う。

「学校や普段の生活にはないそうした出会いを通じて、子どもたちが刺激を受け、社会への意識が高まっていくのを感じます。特に、不登校や発達障害のあるメンバーの変化は大きいです。普段の活動やコミュニティが限られている彼らの第3の居場所になるだけでなく、活動を通して“自分でできることが増えた”という自信に繋がっていきます」

社会のこと、マナーのこと、外国のこと。そうした未知の世界に飛び込む心のハードルを、ペットという身近な存在が下げてくれるのだ。

夢は地域に開かれたシェルターを作ること

ワンニャンピースマイルの目標は「殺処分数ゼロの社会」。それに向かって、香川県に犬・猫のシェルターを作るのが愛葉さん、葉子さんの夢だ。現在団体では野良犬・猫の捕獲をしてほしい、という依頼は断っている。捕獲した犬・猫に感染症などの病気があった場合、既に預かっている犬・猫を危険に晒すことになるためだ。しかし本来は「捕獲から携わりたい」というのが愛菜さんの想いだ。

「捕獲した犬・猫を少しずつ慣らして心を開いていく道のりは大変ですが、人間と動物の絆を感じる、かけがえのない瞬間でもあります。将来は動物看護師を目指していて、今はそこにやりがいを感じています」

シェルターには保護猫カフェを設けて、里親情報を探している方や近所の人がいつでも訪れては、保護猫・犬と触れ合える。2人が目指すのは、そんな保護猫・犬の居場所をオープンにしたシェルターだ。1人の小学生の純粋な想いから始まった活動は、人びとの心を打ち、波紋のように地域へと広がっている。

Photo:生津勝隆

撮影場所:さぬき動物愛護センター しっぽの森

ワンニャンピースマイル

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