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「原点はおばあちゃんの味」東京では味わえない篠山料理【山里料理まえ川】

生まれ故郷の丹波篠山市にUターンし、「山里料理まえ川」を開いた料理人の前川友章さん。現在は城下町の立町通りに、築150年の町家をリノベーションした店を構えている。前川さんは地域に根ざした素材をふんだんに使用し、「篠山料理」を鋭意創作中。その料理の原点は、おばあちゃんの手料理だ。料理人として変化を恐れない前川さんに、篠山料理の目指すところ、篠山という地域の魅力などについて伺った。

農業と自然豊かな土地で生まれた篠山料理

前川さんが日々大切にしているのは、高級食材を取り寄せるのではなく、地域で育った美味しい食材を使用し、篠山だからこそ食べられる料理を作ることだ。

「僕は京都料理を勉強してきましたけど、篠山料理は京都料理でもないし東京料理でもありません。篠山に来たんだから、都会のルールとは違う田舎の料理屋があってもいいんじゃないかなと思ったんです」

丹波篠山市は日本農業遺産にも認定された黒大豆を筆頭に、黒枝豆や山の芋の栽培、稲作などがさかんな農業地域。「栗や松茸、篠山のお茶を求めて来る人も多い」と前川さんが語るように、食材が豊かに実る地域なのだ。

「篠山は山に囲まれているから、寒暖差が激しくて霧がすごい。深夜は車のライトを点けても(周りが)見えないくらい霧が濃いです。寒暖差があるのは京都もですけど、篠山ほど霜が降りることはないと思います。篠山では霜が下りて土が凍り、その中で野菜が生きているのがすごいですよね。野菜の旨みがあるのはそのおかげかもしれません」

季節ごとの山の恵みが、前川さんの手によって篠山料理へと姿を変える。秋から冬にかけてのメニューを聞いてみると、篠山らしい食材が次々と浮かび上がってきた。

「イノシシの牡丹鍋などジビエの脂が乗ってきて美味いです。ピーナッツのペーストを白和え衣にし、菊菜と柿と一緒に出しています。少し前の季節なら、イチジクも出していました。食材は昨日まであったものでも、明日からは入らないこともあるんですよ」

まえ川では、ランチとディナーで四季折々のコースメニューを提供。おばんざいなどの料理一品一品に、篠山を訪れたから出会える食材が使用されており、ここでしか味わえない料理へと仕上がっている。

いつも心の原風景にある、おばあちゃんの味

「おばあちゃんの料理が非常に好きだったんです」と語る前川さん。心の原風景にあるのは、子どもの頃に食べた祖母の手料理なのだという。

「僕が中学生くらいの頃でしたが、篠山の駅前にコンビニができました。化学調味料が入った食べ物が『うまい』という風になってきたんですよね。友人たちもそっちに流れていく中、僕はおばあちゃんの料理がすごくおいしいと思ったんです」

「たまにおばあちゃんの家に行くじゃないですか。その時のおばあちゃんが作った漬物やきんぴらごぼうが非常においしくて、なんて奥深いんだと感じたんです。毎日食べていたらわからなかったでしょうね。それでいて、鯛の尾頭が出てきても多分感動はしなかった」

その体験を忘れられず、高校卒業後は大阪の専門学校に入学し、料理の世界に足を踏み入れた。寮で暮らしながら調理のいろはを学び、京料理を習得すべく京都へと向かうことに。


「京都で勉強した十数年…その内の『割烹さか本』さんでは大変濃い時間を過ごしました。そこで、「どうやってお客様を喜ばせるか」「どうやってお店を運営するのか」、など、お客様、又お店に対しての「どうやって?」の多さ、深さに大変考えさせられました。」

京都での修行を通して実感したのは、「人が大事」ということだと前川さんが語る。

「おいしい料理を作っても、お客様が喜ばれることを考え続けないといけない。最後に修行した店の店主は、商社勤務をリタイアされて、二代目を継がれた方でした。その店主は今でも毎年2回位はゴルフに行って皆で集まるそうです。『そういうことが大切なんやで!』とずっと言われて、(僕も)それをずっとやり続けています」

Uターンで掴んだチャレンジショップの切符

京都で研鑽を積みながらも、前川さんの心にずっとあったのは「篠山に帰って店を開きたい」という想い。京都から篠山に戻り、友人の親戚が経営する居酒屋で働き始めたときに出会ったのが、NIPPONIAのチャレンジショップだった。

丹波篠山市西町にある「篠山城下町ホテル NIPPONIA」。客室としてリノベーションした町家の一角に、地域オーナーを応援するスペースとしてチャレンジショップが設けられていた。前川さんはチャレンジショップでお店を開く機会を獲得。ただしそのチャレンジショップは、宿の土間を活用したわずか10坪程度の小規模な店舗だった。

「激狭でしたけど(笑)、やらないと僕の夢は叶わないという勢いでやりました。どうしても篠山でやるということを決めていましたから。チャレンジショップとしてある程度設備を整えてもらっていたので、最初の資金がそこまでいらない。貯めたお金で工面していけば何とか保ちますし、試そうと思ったんです」

篠山で店を開くのはかねてからの夢だった。チャレンジショップでは、心の中にずっとあったおばあちゃんの料理をメインとすることに決めた。

「チャレンジショップの3年間では、学んできた京料理を全て崩したんです。京料理は季節を通してやり方が大体決まっていて、基本中の基本を全部教え込まれてきました。そこにハテナを立てることから始めたんです。なぜかつおだしを使わないといけないのかなど、考えてみるとわからないことだらけ。京料理の華々しい感じから滋味深い方へ持っていけるのか。ずっと引き算ばかりしてきました。その時考えられる全てを試しましたし、試さないと何もできないと思ったんです」

2016年に始まり、3年ほど続けたチャレンジショップ。ジビエ料理への初挑戦、店舗の運営など試行錯誤の連続だったそう。そうして掴んだのは、「篠山で自分の店をやっていける」という手応え。客からの評判や口コミも上々で、もっと広い場所でお店を出さないかとオファーを受けるかたちで新たな場所へと店を移すことに。

「一気に店が広くなって最初は困りました。(オファーを聞いたときは)無理ですよと断りましたから(笑)」

現在は、篠山の城下町である立町に店舗を移転。築150年の町家をリノベーションした、一軒家の料理店だ。オープン当初、店舗受け渡しの時期が新型コロナウイルス感染症拡大と重なった。ところが前川さんは、開店に向けて臆することはなかったという。

「お店のスタートと同時にコロナが発生し、最初はお客さんが絶対に来ないだろうなと思っていました。お客さんは来なくて当たり前。頑張るしかないなら『なんとかしてお客さんを集めていこう!』という気持ちでした」

何よりもお店を持てたことが嬉しく、コロナ禍さえ試行錯誤の期間として捉えた前川さん。「何もしない時間はもったいない」と、テイクアウト用に料理を準備したり、地域住民向けに漬物をパックに入れて発売するなど、できる限りの手を打った。

料理を盛り付ける器にもこだわり、木の器など素敵な器が料理を彩った。コロナ禍を経て、まえ川は着々と評判を集めている。

まえ川だからこそ味わえる丹波篠山の魅力

「篠山料理を作りたい」という前川さんの想いは、常にお店を進化させている。新メニューの考案や美しい器の数々など、まえ川を訪れるたび新鮮な驚きが待っているのだ。そんなまえ川の料理の〆は、ご飯と味噌汁、お漬物。

「篠山のご飯がうまいというのは、強みですね。(最後の〆の)そこに向けて料理を作っています。最近は、きんぴらなどのおばんざいを、コースの中の炭火料理と一緒にお出しするようになりました。以前は引き算でしたけど、今は足し算をしています」

まえ川の魅力といえば、接客スタッフのおもてなしもそのひとつ。「うちで働いてもらっているスタッフの皆さんの熱はすごいです」と、前川さんも太鼓判だ。

「僕が(京都で)一番最初に働いてたお店の知人が、たまたま篠山に移住していたんです。縁がありますよね。それで声をかけてうちで働いてもらうようになったら、(料理の)彩りや接客などについて丁寧に教えていただきました。そのことが、少しづつ形になってくると、食事後のお客様の表情、又スタッフの熱量が目に見えて変化しました。」

京都での修行中に得た、人を大事にするという教え。篠山に帰郷してからも続くご縁があり、そうしたものを大切にしているのも前川さんらしい。もちろん、地元で続くご縁も忘れてはいない。

「同級生が篠山に帰ってきて、猟師や庭師、農家をやっていたりしていますね。篠山に残っている同級生も結構多いです。僕はこの街が好きで帰ってきました。よく言われるんですけど、『都会のコース料理では考えられない、安すぎますよ』と。でも東京では、この篠山料理はできないんですよ」

おばあちゃんの料理を根底に抱きつつ、自然豊かな地域の魅力を最大限に活かすのが篠山料理。まえ川の料理を味わえば、どこかなつかしい気持ちが湧いてくるはず。丹波篠山市は城下町散歩や味覚狩りなども楽しめる地域。街を訪れたときは、ぜひまえ川で絶品の篠山料理を味わってほしい。

里山料理 まえ川

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