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「神戸牛」になる確率90%以上。「黒田庄和牛」が神戸牛の質を支える【みのり農業協同組合】

国内のブランド牛のなかでも、群を抜いて海外で知名度が高い「神戸牛」。そのはじまりは、明治維新の頃に遡る。当時の日本は野菜や魚食文化が中心で、外国人が求める食用の牛肉が乏しい時代だった。関西各地から集められた耕作用牛を神戸港から出荷し、外国人居住区で販売した牛肉のことを「神戸牛」と呼んでいた。それから長いときを経て、「神戸牛」と認められるのは、兵庫県内の指定農家で生まれた但馬牛(たじまうし)のうち、霜降りの度合いなど、一定の条件を満たすものだけに変化した。そして、兵庫県西脇市黒田庄町で育てられた血統書付きの但馬牛である「黒田庄和牛」の多くが、この「神戸牛」である。上質な「黒田庄和牛」の成り立ちや生産背景、取り巻く環境について「みのり農業協同組合」の播田慶人さんに話を聞いた。

厳しい基準をクリアして「神戸牛」に認定される但馬牛

兵庫県西脇市黒田庄町が、全国から牛を買い集め、肥育を始めたのは昭和50年代半ば。当時の主なものは、生後20か月前後の岩手の牛だったという。

「1年間くらい黒田庄町で育てて出荷をしていたようです。牛肉の輸入の自由化の問題が出てきて、ワンランク上のブランドを取り扱う必要性が出てきました。それに伴い、黒田庄町で肉牛としての能力が高い但馬牛の素牛(生後6〜12か月の子牛)を2年間肥育して、一定の格付けをクリアすると神戸牛に認定されました。近年は技術が上がってきて、黒田庄で生産される但馬牛が『神戸牛』になる確率は、90%以上になってきています。我々は、この『神戸牛』を地域ブランドとして『黒田庄和牛』という名前で販売しています」

兵庫県西脇市黒田庄町で但馬牛は、純血の血統を守り続けていることが最大の特徴だ。

写真提供:兵庫県西脇市

他県産とかけ合わせない、純血を守り抜いた上質な肉牛

「兵庫県が全国に誇る但馬牛は、肉牛にとって非常にいい資質を持った牛なんです。その血統を守り続けて、但馬牛以外の血統と混ぜ合わせることはありません。純血であるということがおいしさにつながります。いわゆる『閉鎖育種』といって、他県産牛との交流を避けながら改良を重ねているのが特徴です。他県産牛とかけ合わせると牛を大きくしたり、サシの入り方をコントロールしたりすることができますが、やっぱり、おいしさを追求するとこの但馬牛に叶わないのではないかと思っています」

「神戸牛」として認められる規格として、霜降り具合・肉の質・脂の質などの格付けと呼ばれるものがある。それだけではなく、牛の体重制限を設けているという。

写真提供:兵庫県西脇市

農家が協力し合い、品質向上に励む

「牛は大きくすればいい、というものではないんです。細胞の数はある程度決まっていて、それが大きくなっていくと肉のキメが荒くなります。だから、体重制限を設けて、基準に該当しないものは『神戸牛』になりません。『黒田庄和牛』は、『神戸牛』に認定される牛なので、農家さんはそういったところに細心の注意を払い、肥育されています。育てているメンバーが『黒田庄和牛同志会』という組合を作り、全員が同じ志を持って、どこの農家で育てられた牛も同じ品質のものとなるように互いに情報交換をし、連携をとりながら技術や品質の向上のために日々、努力されています」

同志会の結束力を高める「黒田庄和牛同志会」のオリジナルキャップ。メンバーは牛の品評会に参加し、自分たちの牛がどんな肉になったのか、確認作業を大切にしている。

さらに「黒田庄和牛」は専用のエサがあるという。いい牛肉をつくるために同志会のメンバーが研究し尽くしたものだ。

「『黒田庄和牛』としての基本のエサは統一しています。それに対して、各農家がひと手間くわえて、それぞれのオリジナリティを追求しています。そうした取り組みは10年前からやっていること。基本的に主食となるのは黒田庄の地区で盛んに作っている『山田錦』の稲藁です。農家さんからいただき、堆肥は田んぼに戻すという循環型農業のスタイルでやっています。稲藁はどうしても輸入に頼ってしまいがちなのですが、『黒田庄和牛』は、地元で収穫した安心・安全なエサを使うことを心がけとして大切しています」

1頭1頭がきちんと育っているか、丁寧に見届ける

エサの量も日々、きちんと管理する。そうすることで、牛たちがストレスなく、のびのびと成長できるようになる。

「黒田庄の農家さんのすごいところは、1頭1頭のエサの食べ方を見て肥育していること。牛舎は1マスごとに4、5頭入っているのですが、そうなってくるとほかの牛にエサを取られて、食べさせてもらえない牛が出てきてしまうことがあります。そうした状況をケアするために1頭だけ違うマスに入れてエサを与えるようにしています」

農家さんが毎日惜しみない愛情を注ぎ、丁寧に育てているからこそ、おいしい『黒田庄和牛』が生まれるのだ。

写真提供:兵庫県西脇市

兵庫県の地域ブランド牛No.1に躍り出る

「農家さんは11軒、13人という小さな規模でやっています。規模は小さくても世界の方々からも認められている肉ということをもっともっと、いろんな人に知ってもらいたい。兵庫県の地域ブランド牛である『加古川和牛』や『淡路ビーフ』をはじめとする7ブランドぐらいを集めて、5頭ずつ出品をしていわゆる格付けを競い合う品評会のようなものが年に1回、あります。その場で競い合い、総合点が高いところがその年の地域ブランドの一番になります。今年は『黒田庄和牛』が優勝して、『神戸牛』のトップに躍り出ることができました」

写真提供:みのり農業協同組合

兵庫県西脇市は人口が4万人余り。それに対して肉の消費量は特段多いと播田さんは語る。

「非常にお肉を食べる街だと思います。地元に特産品があると、それに伴って消費がついてくるのかな、と。それに、『黒田庄和牛』はシンプルに肉がおいしいのも理由の一つ。脂の甘みと赤身のコクが旨みの核です。たとえば、肉を食べたときにいちばん最初に『ああ、このお肉柔らかい』とコメントが出る場合は、おいしいと言うよりも、柔らかさの方が秀でているわけで。やはり、牛肉を食べたときに第一声に発声するのは、『おいしい』と言ってもらえるのが最高の誉め言葉だな、と常々思っています。特に名物の食べ方は無くて、シンプルに食べるのがおいしい肉だと思います。上質な肉は塩胡椒をつけずにそのまま食べるのもいいと思います。黒田庄から肉を仕入れると、『どれを食べてもおいしいですね』と言っていただけます」

地元の人の消費量が多い肉でも、外食が難しくなったコロナ禍に消費量が急激に減ってしまったことがある。そのときに「黒田庄和牛」を盛り上げようと立ち上がった人がいる。

「ミュージシャンのトータス松本さんです。彼は西脇市出身で『黒田庄和牛』に慣れ親しんでいた方で。そんなご縁があり『トータス丼』というテイクアウトのお弁当を販売したことがありました。多くのお客様が買い求めてくれたことが農家さんの救いになりました」

写真提供:兵庫県西脇市

味の評論家やシェフが信頼を寄せる味

「黒田庄和牛」は首都圏で活躍しているシェフからの支持も厚い。

「以前、服部幸應先生(学校法人服部学園理事長・服部栄養専門学校校長医学博士)が、JAみのりの『黒田庄和牛コロッケ』を気に入ってくださって、著書でご紹介くださったことがありました。六本木のイタリアンレストラン『IL FIGO INGORDO』のシェフは、『黒田庄和牛』を看板メニューにされています。東京から黒田庄まで足を運んでくださって、整った肥育環境だったり、愛情を注いで育てていたりすることに感動してくれたんです。そうやって『黒田庄和牛』の味の本質を知ってくださる料理人の方がいることが本当に嬉しいことです」

「黒田庄和牛」を取り巻くいちばんの課題は、農家さんの高齢化だ。味を守り、受け継いでいく後継者の存在がこれからの未来を決めると言ってもいい。

「自分たちがよく知っている農家さんが高齢化によってやめていかれるということに、非常に寂しい思いがあります。一番の若手と言っても、40歳くらいというのが現状です。おいしさを実感してくださる方がもっともっと増えたら、農家の仕事に就いてくれる人がいるかもしれません。その可能性を信じて、関西圏のみならず、関東圏でも広めていきたいと思っています」

Photo:阿部 健

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