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「奨学金支援で若者がUターンも」市民が寄付金の使い道を提案し好循環【福井県坂井市役所】

「ふるさと納税担当者とは、寄付金ひとつひとつに真摯に向き合うことが、あるべき姿である」

ふるさとチョイスアワード2020年の壇上で語った、福井県坂井市役所 総合政策部 企画情報課(当時)の小玉悠太郎さん。ふるさと納税担当になって5年目のことだった。坂井市は全国で唯一、市民が寄付金の使い道を提案し、市民が決定している。この取り組みについて、当時の小玉さんの話から詳しく見てみよう。

※本記事は「ふるさとチョイスAWARD2020」時の内容となり、最新の状況と内容が異なる場合がございます。

大雪被害で経験した、寄付金に込められた“想い”

福井県坂井市は、2006年に三国町、丸岡町、春江町、坂井町の4町が合併してできた県北に位置する市だ。県内随一の観光地である東尋坊、丸岡城を有することでも知られ、三国港では越前がにが水揚げされる。

そんな坂井市は、2018年に全国で発生した大雪で、2月には国道8号線で1500台もの車が丸2日間立ち往生するという事態に陥った。ライフラインが絶たれ、孤立する地域もあった。

国道8号で立ち往生する車の列

そんな中、市で寄付金を募ると、返礼品無しにも関わらず約100万円が集まるとともに、坂井市を応援するあたたかいコメントも届いた。

「寄付金には想いが込められている」

その中で、ふるさと納税を担当していた小玉さんはこう感じたという。その経験もあり、坂井市ではふるさと納税の使い道を寄付者の方々に、具体的に提示することにこだわっている。

とはいえ、坂井市の2008年から2015年までのふるさと納税の平均額は300万円ほど。1年あたりに活用できた事業はおよそ100万円、見守り隊のベストを購入する程度にとどまっていた。

その一方で、2008年にふるさと納税が始まった当初から、「寄付市民参画制度」に基づき、市民が寄付金の使い道を提案し決定しているので、寄付金の使い道に関するコメントも多く寄せられていた。

この想いに応えたい。市民の声を一つでも多く実現したい。小玉さんはその一心で、若手メンバーでプロジェクトチームを立ち上げ、他市の事例などを学びながら、ふるさと納税の事業規模拡大を提案。2017年からは、お礼の品と使い道両方のPRに取り組み、2020年には奨学金返還支援事業、防犯カメラ設置事業など年間10件以上、総額1億円規模の事業を実施することができるようになった。これは、ふるさと納税が始まった当初の約30倍の規模になる。

寄附金の使い道を決定する委員会

奨学金支援で若者がUターンも

「ふるさと納税で大切なことは、お礼の品の提供だけではありません。いただく寄付金をどのように活用するか、責任を持ってお預かりすることも担当者としての使命です。そして預かった寄付金は、市民へと還元していくのです」

小玉さんの話の通り、使い道に期待されるようにして集まった寄付金は、市民が提案し、市民を含む検討委員会で決定した様々な事業に使われている。

先述した奨学金返還支援事業は、坂井市に定住し新たに就職する若者を対象に6年間奨学金の返還をサポートするもの。小玉さんは、奨学金返還支援事業の効果について、こう話している。

「奨学金返還支援事業により、坂井市に貢献したいという熱い思いを持った若者が戻ってきて、さらに坂井市を元気にしてもらって、坂井市がより良くなっていくという好循環が生まれているように感じています」

また、県内企業に新卒でUターン就職した長谷川さんは、奨学金返還支援について、2020年当時こんな風に語ってくれた。

「すごくやりがいを感じながら坂井市で働けています。僕たちに期待してくれて、投資してくれていると思うので、しっかり働いて、坂井市を支えていけたらなと思います」

坂井市にUターンした長谷川くん

学習環境の向上や、スマート農業の推進にも

そのほかの寄付金による事業を見てみよう。

  • 施設の充実

坂井市竹田地区にある「ちくちくぼんぼん(坂井市竹田農山村交流センター)」は、廃校となった小中学校を農山村交流ができる宿泊施設として使用。木に触れ合える子供向けの遊び場「木育トイルーム」の設備、山の中にあるプレーパーク(たけだ風の谷プレーパーク)の再整備などで寄付金を活用した。

木育トイルーム
  • 防犯カメラ

東尋坊や丸岡城、ゆりの里公園などの観光地や、過去に声かけ事案等が発生した場所など計25か所に防犯カメラを設置。未然に犯罪を抑止することができ、地域の安全・安心を守っている。

観光地に設置された防犯カメラ
  • 学習環境の向上

市内の小中学校21校の音楽室や図書室などの特別教室にエアコン計52台を設置。夏場の学習環境を改善することにより、全国トップクラスの学力を誇る福井県の教育レベルの維持を目指す。

  • スマート農業の推進

スマート農業の普及を目的とし「坂井市スマート農業推進事業費補助金」を新設。19の農家より申請を受け、自動操舵システムの導入を支援。

ふるさと納税のページには「選べる使い道」として坂井市が行いたい具体的な事業が明記され、寄付者がどの事業に寄付をしたいか選べるうえ、達成率も明示されている。

スマート農業の推進

2022年現在募集されている事業の一例は、「三国港にぎわい朝市の開催」として三国港での日曜朝市の開催および朝食を提供する食堂の開始や、日本海一を目指すアウトドアスポットの改修費用など、多種多様な活用方法が提示され、達成率も見ることができる。

三国港朝市の開設

「本当に多くの市民提案事業にふるさと納税を活用させていただいております」

坂井市のふるさと納税の寄付金額は年々増え続け、2021年には14億円を達成(総務省調べ)している。小玉さんを始めとするふるさと納税担当者が、寄付金に込められた想いひとつひとつを大切にしつつ、市民に還元している、ふるさと納税があるべき姿がそこにはあった。
福井県坂井市

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