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「生まれ育った島を元気にしたい」Uターンで漁業を継ぎ、子から孫へ【島のごちそう】

「生まれ育った島を元気にしたい」。そんな想いから鹿児島県獅子島にUターンし、家業である漁業の4代目を継いだ山下城さん。先祖代々続く漁師の仕事のほかにも、島で採れた海産物を加工して販売したり、島の魅力や食について発信するなど、“島を元気にする”活動をしている。そんな山下さんが一度は出た島にUターンした経緯や今後の展望について、山下さんの2020年の「ふるさとチョイスAWARD」のインタビューを中心に見てみよう。

※本記事は「ふるさとチョイスAWARD2020」時の内容となり、最新の状況と内容が異なる場合がございます。

豊かな漁場が広がる鹿児島の離島・獅子島

獅子島は、鹿児島県の北西部に位置する長島町に属する離島だ。長島町は、獅子島のほか長島・諸浦島・伊唐島からなる離島自治体。獅子島以外の島はすべて橋でつながっている。獅子島は鹿児島県の最北端に位置し、人口700人弱の小さな島だ。

獅子島の周辺海域は透明度が高く、豊かな漁場が広がっているため、九州ではアラカブと呼ばれるカサゴやタイ、タコなど、様々な魚介類が豊富に水揚げされている。きれいな海水を生かしたマダイやブリ、地元で「オサ」と呼ばれる品質のよいあおさの養殖も盛んだ。

また獅子島は「化石の島」と呼ばれ、約1億年前の白亜紀の地層が露出し、さまざまな化石を見ることもできる。特に「トリゴニア」と呼ばれる三角貝の仲間や巻き貝の化石が多く見られ、アンモナイトが発見されることも。2008年には、獅子島幣串の海岸付近でエラスモサウルスと呼ばれる種類のクビナガリュウの左下あごが発見され話題になった。

島内最高峰の七郎山をはじめ、御所ノ浦の前島、周囲に広がる八代海の眺めなど、島内のあちこちに絶景ポイントがあることも自慢だ。

本当にやりたいことは、島の活性化

そんな獅子島は、島民の高齢化や後継者不足で多くの漁船は姿を消し、若者の人口流出が止まらない。高校以降の学校がないため、中学校を卒業して島の外の高校に進学すると、そのまま進学や就職で島に帰って来ない若者がほとんどだ。

山下さんも中学校卒業後に島を出て、大学卒業後は大手の有名企業に就職。東京や海外でも活躍し、獅子島にUターンしたのは2019年2月、32歳のときだった。

2020年に行ったインタビューでは、山下さんは島への想いについてこう語った。

「獅子島に帰ってきたのは1年半ぐらい前。東京や海外で仕事をしていて、長期休暇で島に帰省したとき、漁船が減っていたり、自分が通っていた学校が廃校になって、使われなくなったりしているのを目の当たりにして、このままだと獅子島には人がいなくなって、なくなってしまうのでは……という危機感を覚えました。

加えて自分が本当にやりたい仕事は何なのかを考え始めた時期だったので、なくなってしまうかもしれない自分の故郷をもう一度盛り上げて、人口を増やしていく、活性化させていくっていうのが本当にやりたいことなのかなっていうのを再認識して、Uターンを決意しました」

山下さんは島にUターンし、大正8年から続く家業である漁業を引き継ぎ、4代目となった。曽祖父の代から続く追い込み網漁は2019年には100周年を迎え、お父さんから漁の腕を受け継いでいるという。

さらに漁業だけにとどまらず、両親が立ち上げた水産加工グループ「島のごちそう」も引き継ぎ、代表として奮闘する。

「自分たちが水揚げした魚や、島の中で作っている一次産品を販売していく、世の中に出していく、という仕事をしています。僕らが作っている商品で『百年漁師 ご飯のお供シリーズ』というものがあるんですが、島で水揚げした真鯛、天然のひじき、あおさのりを使った佃煮をご飯のお供として作っています。

一番のこだわりは、島でとれた材料を使うこと。もうひとつは、全く新しいものを作り出すのではなく、島でずっと作られてきた製法、味付けをコンセプトとして商品を作っていきたいと思っています」

島のごちそうが販売する「ご飯のお供シリーズ」は、保存料や着色料、防腐剤を一切使用していない。すべて手作業で、丹精込めて作り上げた“百年続く味”が自慢だ。

島の仲間と一緒に、一歩ずつ前進したい

島のごちそうは飲食店や観光業も進めていたが、コロナ渦により事業がストップ状態に。その分オンライン通販を強化し、売り上げを伸ばしていく。

山下さんはテレビなどメディアの取材も積極的に受け、島のことや商品について島内外から広く認知されるようになる。それが販売促進につながるほか、応援メッセージが届くようになると、島に住む人たちのモチベーションの向上にも役立った。もともとは保守的だった地元の漁師たちも、「これは商品にならんかな?」など、商品開発に関する話まで積極的に声をかけてくれるようにまでなったという。

そして「ふるさとチョイスAWARD2020」では、返礼品の生産者を表彰する「チョイス事業者大賞」に選ばれた。ふるさとチョイスアワードのプレゼンに登壇した山下さんは、自身の活動についてこう振り返った。

「獅子島だからこそ、ひとつにまとまった時のエネルギーのすごさ、今後の可能性を強く感じました。島の取り組みや情報と島の人たちをつなぎ、島の人たちのマインドに落とし込んでいく役割が非常に大事だと気づきました。私は今後も、その役割を担っていきたいと強く感じています。

それが結果的に、私がUターンするときに考えた『島を元気にしたい』につながってくる。そして親から子へ、子から孫へ、未来へつなぐ取り組みになるのかなと思っています。私たちの取り組みはまだ始まったばかり。課題が多いのも事実ですが、島の仲間と一緒に一歩ずつ前に進んでいきたいと思います」

獅子島では、山下さんのような働き世代の若い世代の方々もUターンして、農業などの仕事に就いている。

「僕は漁業メインですが、農業や色んなことをやっている方もいるので、皆さんと協力して、もっと獅子島に色々な人々がきてくれる仕掛け、プロジェクトを作っていきたいと思っています。将来的には、それらを事業として立ち上げ、島内雇用を創出し、島を元気にしていきたいと思っています」

山下さんの取り組みは、今後も島への発展に大きく貢献していくことだろう。

鹿児島県長島町
島のごちそう

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